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子どもたちの希望を聞きながら、食事を工夫

―小児がんでは、治療の副作用などによって食事をすることが難しいお子さんもいるのではないかと思います。そういったお子さんへの対応はどうされているのですか?

化学療法の副作用で口が荒れていたり、気持ち悪かったりと、食べられない理由によって対応は変わります。多くの場合、まずは看護師から連絡を受け、その後本人に「どうして食べられないのか」、症状など訴えを聞きます。

例えば「口内炎で口が痛い」と言われれば、あまり刺激がなくツルッと食べられる麺やゼリー、ジュースのようなものを用意します。

「気持ち悪くなってしまう」場合は、匂いが原因になることがあるため、すべて冷配膳(冷めた状態)にしてみようと提案することがあります。冷めてはしまいますが、蓋を開けたときにワッと来る匂いが消え、気持ち悪くなりにくくなるからです。

「トレーいっぱいの食事を見るのがつらい」という子には、食べられるものだけを出すようにしています。栄養剤や高カロリーアイスなどを提供することもありますね。その時にはベッドサイドで一緒に飲み比べをしてお気に入りのものを見つけてもらっています。

また、味が感じられないなど味覚が変化する場合子ども特有の好みが変わってしまう場合があります。そんな時には味の濃いものや、その子が食べたいと思うものを出します。亜鉛不足による味覚障害の可能性がないかも確認することもあります。

 

―味覚が変化してしまうと、食べられるものは減ってしまうと思います。「これなら食べやすい」というものは確立されているのですか?

その子によって感じ方が違うのでこれと断定するのは難しいですが、味覚の変化が始まると塩味、ソース味のように塩辛いものを好む傾向はあるように感じています。

甘いものを好まず、しょっぱいものを好むようになった子には、おやつの一部を食べられるものに変更することがあります。

その他にも「苦い」と感じる子には、苦味を感じづらい味の濃いものや乳製品などを提供したり、おやつでチョコレートのような苦さを感じるものを出さないようにしたりしています。また、「ステンレスのスプーンやフォークをプラスチックのものに変えてみるのはどうですか?」とアドバイスすることもありますね。

 

―症状や食事についてお子さんたちと話をするときに、心がけていることはありますか?

困ったときにいつでも相談できるよう治療が始まる前から子ども達に会いに行き、普段からコミュニケーションをとるようにしています。実際に相談を受けるときには、その子の訴えに合わせて選択肢を多く用意したり、分かりやすく説明したりしています。

年齢や症状によって親御さん経由で話すこともありますが、最後の選択だけは本人にしてもらっています。「こういうのを出してみる?」と聞いて「うん」と言われれば出すし、「嫌だ」と言われれば出しません。その伝え方は様々で、首を振ってくれたり、手を上げてくれたりと、意外とはっきり主張してくれますよ。

 

―お子さんの様子を逐一見ながら、丁寧に対応されているのですね。どのくらいの頻度でお子さんたちの様子を確認されているのでしょうか?

病棟にはほぼ毎日伺っています。1人ひとり会う頻度は違いますが、副作用が強くこまめに調整が必要だなと思う子には2、3日に1回、落ち着いていれば1週間に1回程度です。栄養士が頻繁に会いに行くことで「食べなきゃいけない…」という思いに駆られてしまうと困るので毎日は行かないようにしています。

病棟内で偶然会うと「こんなことに困っているから話したい」と話しかけてくれる子もいますね。

 

―お子さんたち自身から、食事に関して相談を受けることがあるのですね。

「何か困ったらいつでも呼んでね」と言っているので、小学生以上の子だと比較的多いです。

相談内容としては、「食欲がなくて食べられない…」「病院の食事に飽きちゃった」とか、「食事が足りない」などですね。

 

―「飽きた」「足りない」と言われたときは、どんな対応をするんですか?

通常は(味覚障害などで)困ったときに、先ほどお話ししたたこ焼きや焼きおにぎり、ポテトなどを特別に出すのですが、普段の食事に飽きてしまったときも、通常の食事(3食)を食べることも約束した上で、気分転換として特別に出すことがあります。

「量が足りない」と言われたときは、「主食が足りない?おかずが足りない?じゃあここを少し増やそうか」と話したり、食事と食事の間にお腹が空くようであれば「個包装のパンをつけておく?」と聞いたりし1人ひとりにあった対応をします。

 

―小児がんの患者さんの食事では、他の子と比べて気をつける必要がある部分はあるのでしょうか?

基本は、他の子ども達と同じ食事です。ただ、食べられなくなるにつれて必要な栄養量を摂れないことがあります。食事だけで栄養を補いきれない場合、栄養剤や点滴を用いることもあります。

また、造血幹細胞移植(*通常の化学療法や免疫抑制療法だけでは治すことが難しい血液がんや免疫不全症などに対して、完治させることを目的として行う治療)を受ける子どもたちには、造血幹細胞移植(SCT)食という特別な食事を提供します。これは、納豆やはちみつ、乳酸菌飲料などの菌を持つ食品を避け、加熱することで菌を減らした食事(生野菜ではなく温野菜サラダ、生果物ではなく缶詰の果物など)になります。普段の食事と大きく変わらないよう献立の工夫をしています。

*国立がん研究センター がん情報サービスより

 

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