ゲームの時間を減らしていくのは難しい
ゲーム依存では、ゲームよりも楽しいものが見つかることでゲームをしなくなるのが一番いい良くなり方です。ただ、子供たちにとってゲームよりも楽しいものを見つけるのは大変なことです。
次に良いのは、自分がやっているゲームのメインアカウントを消すこと。何年もの汗と涙の結晶が入ったアカウントを消すのも、なかなか難しいです。一方、「もうたくさんだ」と思っている子は少なくありません。そういう子たちは、はたと気付いたようにアカウントを消し、その後うまくやっているケースが多くみられます。
ご両親や私たちから言われてアカウントを消すケースも、もちろんあります。アカウントを消したケースはその後、うまくいくことが多いです。メインのアカウントを消し、その後別のゲームをやったとしても、そちらにまたはまるケースは比較的少ないと思います。
最も大変なのは、ゲームの時間を減らすことです。我慢強く見ていき、時間が増えたら減らすようにと指導していきます。
大人になると少し自己コントロールができるようになるため、成長とともにある程度よくなっていく方もいます。とはいえ、子供の時からネットにはまって未治療のままでいると、それがずっと尾を引いてしまうケースも数多くみられます。例えば、大学に入学したけれど大学には行かずに家でずっとゲームをしていたり、大学は卒業したけれど仕事には行けずにゲームをしていたり、といった具合です。ですから、中学生・高校生のうちに治療が必要なケースが多いと思います。
ネット依存専門の治療機関は少ない
ネット依存では早目の治療が大事です。しかし、治療機関が少ないという問題があります。カウンセリングセンターもありますが、それも少ないです。
ネット依存は、患者さんの多くが子供たちである点で他の依存とは全く異なります。また、治療をする上では、どんなゲームがどんな仕組みになっているのかといった知識が必要なので、ある程度勉強しなければなりません。私自身、自分では全くゲームはしませんが、診断するときは知らなければいけませんし、子供たちから最新の情報を聞くので、何がどうなっているのかはだいたい分かります。
私たちの専門性は、ゲームの特性を知っていることに加え、どういう子供がどういう風にして良くなったかというパターンをある程度認識していることです。患者さんが外来に来たときに「この子は、昔いたあの子のパターンと似ている」「あの子の場合、こうしたら良くなったな」という引き出しがたくさんあるので、治療の幅を広げることができています。
また、医療機関の前にカウンセリングセンターや相談センターがあると良いと思います。学校のスクールカウンセラーや養護の先生もいますが、状況を知らなければ「ゲームなんてやっていれば飽きる」など、的はずれなカウンセリングをしてしまうかもしれません。医療機関だけでなく、その前のカウンセリングをする人たちの育成も大事ですね。国が一丸となって取り組んでいく必要があると思います。
予防で大事なのは「時間を決めること」
一番大切なのは、時間を決めることです。使ってはいけない時間や、1日の中で使わない時間を設定すると良いでしょう。
依存は、「いつでもできる」状態の時に最も起こりやすくなります。それを避けるためには、使わない時間を明確に作ったり、ゲームであれば時間を決めたりすることが推奨されています。依存状態に近づくと時間を決めても守らなくなりますが、そうでなければ時間を決めることで守れるので、使い始めからルールを守ると良いと思います。
それから、ご両親にはぜひ、「ネットには依存性がある」「特にゲームは依存性が非常に高い」ということを認識していただきたいです。
「ネット依存」は世の中でよく聞く言葉ですが、ちょっとやり過ぎて寝る時間が少し短くなる程度のことだと考えている方が多いと思います。だから「ネット依存」と言うと「私もそうだよ」と言う人がいるのですが、実態はそうではありません。本当に大変だし、子供たちの生活を破綻させ、将来を駄目にしてしまうようなものであるということを理解し、正しい知識・認識を持っていただければと思います。
編集後記
IT技術の進歩とともに、今後ますます患者さんが増えていくであろうネット依存・ゲーム依存。「ちょっと睡眠時間が減るくらい怖くない」と思っている方も少なくないかもしれませんがその実態は、日常生活はおろか、ともすれば生命にまで危機が及ぶ恐ろしい病気です。
ネット依存は、しかるべき医療機関に行けば治療が可能な病気です。しかし、その医療機関の数はまだまだ十分ではありません。治療が必要になる前の予防が大切です。ネットには依存性があることを知り、使用時のルールをきちんと設定した上でスマホと付き合うようにしてください。
※取材対象者の肩書・記事内容は2018年4月12日時点の情報です。