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ミノキシジルの内服は推奨できない

何かを飲んだのか、それとも水を味わっているのかこちらの好奇心を煽ってくる男性

――内服薬では、今回のガイドラインで初めてミノキシジルが取り上げられていて、治療法が推奨度D(行うべきではない)となっています。ミノキシジルは外用薬としては推奨度A(行うよう強く勧める)ですが、内服もAGA診療を行っているクリニックでは「発毛効果がある」と謳っているところも珍しくありません。インターネット上でも、「ミノキシジルを服用して効いた」と紹介しているブログなどもあります。

そうした状況を看過できなかったので、今回のガイドラインで取り上げました。ミノキシジルは元々降圧薬として知られていますが、その降圧薬としても日本では承認されておりません。心血管系に対する副作用が懸念されていて、現実にミノキシジルを服用後、症状を訴えてこちらを受診された患者さんもおられます。

――推奨度がC2(行わない方がよい)ではなくDということは、明らかに有害だというメッセージですよね。

皮膚科学会としては推奨しません。個人で服用している人はリスクある行動を取っているということです。

――外用薬では前回のガイドラインで推奨度がC1(行ってもよい)だったアデノシンが今回B(行うよう勧める)に上がっていました。今後もこういったケースはありえるのでしょうか。

前回も効果が高い試験結果は出ていましたが、論文の本数が少なかったのでC1でした。今回は価値ある論文が増えていたのでBという評価になっています。ガイドラインでC1だったもの(カルプロニウム塩化物やt―フラバノンなど)でも、今後ランクの高い論文が出てくれば推奨度は上がっていきます。

――現時点で推奨度C1(行ってもよい)の成分が入った外用薬を使う意味はあるのでしょうか。

C1は「使っても良い」という意味です。有効かどうか十分に明らかになっているわけではないので、それを使うかは医師や患者さんの判断になります。

――前回のガイドラインでは推奨度はなく「否定しない」という文言で留まっていた「かつらの着用」も、評価の対象(推奨度C1、行ってもよい)になっていました。

検討に値する論文が2つ、女性が対象のも含めれば3つ出てきていたので評価しました。なぜそれを使うと良いのか科学的根拠のある論文が出たことであれば、患者さんにも説明しやすくなります。

かつらやウィッグを着用すると「かえって蒸れて髪の毛が薄くなるのでは」と心配する患者さんも実際にいます。そういう方たちには「そんなことはないですよ。使いたければ積極的に使ってもらって構わないですよ」ということです。

毛髪の再生医療は十分なデータがない

――新しい治療法として印象的だったものがニつありました。そのうちの一つ、頭皮への低出力レーザーやLEDの照射は推奨度B(行うよう勧める)となっています。ただ、ガイドラインでは「光源の種類や波長、出力は報告によって様々ある」と記載されていました。どういったものなら効果的なのでしょうか。

基本的には育毛効果があるのは赤い色の光です。650nmを中心とした光で、レーザー光も同様です。目安として600~660nmぐらいの範囲の光が有用性が高いという報告があります。クリニックやサロンでは実際に導入しているところもあります。

患者さんの購入に関しては、薬事法上レーザー機器は医療機器の認定を取らないと販売できません。LEDは薬事法上引っかかりませんが、美容機器としてしか販売できないので効果を細かく謳うことはできません。ガイドラインには国内で医療機器認定を取った製品はないと記載されています。

――もう一つは、昨今話題の再生医療(※編注2)にあたる「成長因子導入および細胞移植療法(※編注3)」です。こちらは低出力レーザー・LEDの照射とは違って推奨度がC2と、「行わない方がよい」となっていますがなぜでしょうか。

この治療法では多血小板血漿という、血小板に含まれている細胞増殖因子を利用しています。こちらは確かに効果はありますが、多血小板血漿は複数の因子が含まれていて、どの因子が効いているのか分かっていません。数種類の因子だけピックアップすればより効果があるかもしれませんし、ある因子が邪魔しているかもしれません。作用機序が曖昧なまま既に使われてしまっています。

治療法の出発点は患者さん自身の血小板ですから、基本的に大きな副作用はないかと思われます。ただ、第Ⅰ相試験(動物での実験を経た後、初めて人に投与する段階の臨床試験)からしっかり取り組まれたものはないので、安全性がしっかりと担保されてはいません。

十分なデータがないので、皮膚科学会としては推奨していないということです。

※編注2…再生医療を提供する医療機関は国に届け出る必要があります。再生医療を提供している機関を調べたい場合は「厚生労働省のホームページから、再生医療等提供機関の名称や再生医療等の名称が確認できるようになりました」をご活用ください。

※編注3…脱毛が進んだ箇所に、毛を生えさせるよう促す細胞を直接移植したり、その細胞を培養させてそこから出た分泌物などを含んだ生成物を注射したりする治療法

推奨されている治療に取り組んでみては

男性医師と男性の、緊張感がさして伝わらない集まり

――AGAは保険が適用できず、自由診療となります。大体治療にいくらぐらい必要なのでしょうか。また薬を飲み続けるよりも、植毛(自毛植毛)をした方が安く済むのでしょうか。

値段については各医療機関でバラバラですし、フィナステリドに関してはジェネリック医薬品(以下ジェネリック)も出ていたりしてよく分かりません。ジェネリックに関しては、主成分は同じものが入ってはいます。ただ、ジェネリックを使っても有効性が一緒だったというデータはどこからも出ていません。

植毛で植えた毛については抜けず、一生持ちます。ただ、植えた毛の横にある毛は、AGAの場合失われていく可能性があります。植毛もびっしり植えるわけではないので、植えた箇所だけ残って、周りはスカスカになることもあり得ます。世界的には薬を飲みながら植毛を受けて併用する方法が主流です。そうなると自然と治療費は高くなっていきます。

内服薬による治療は、単位面積の本数でみれば1年で頭打ちになり、絶対的な数が増えていくわけではありません。しかし、見た目の改善効果は3~5年継続していきます。ここでの改善とは、伸びが良かったり、産毛が太くなったりすることです。いつまで治療していくかは、どこで「もういいや」と妥協するか、後はお財布との相談になるかと思います。

――AGAで悩まれている患者さんは治療法をどう捉えればいいのでしょうか。

ガイドラインは一つの指標ですし、AGAは自由診療なので、基本的には自分がしたければその方法を行えば良いでしょう。ただ、ガイドラインで推奨されている治療がある以上は、そちらにしっかり取り組んでみることがいいと思います。

取材後記

一般的になってきたAGAの治療ですが、情報が溢れている分、どういう治療にどういった効果があるのかしっかり判断するのは難しいかもしれません。現在の標準治療を理解した上で、医師としっかり相談しながら治療を進めていってもらえればと思います。

※医師の肩書・記事内容は2018年3月19日時点の情報です。