AGA(Androgenetic alopecia: 男性型脱毛症)は日本に1000万人以上の患者さんがいると言われています。
前回の記事(タバコを吸う人は要注意!男性型脱毛症(AGA)の意外な原因)ではAGAの原因について説明をしました。
原因も大事ですが患者さんが一番知りたいのは実際に受ける治療とその効果だと思います。
治療には大きく分けて薬による内科的治療、植毛などの外科的治療に分けられます。
それぞれの位置付けとしては予防目的や軽症の場合は内科的治療、進行したケースや薬の効き目がない場合は外科的治療を選択するというイメージです。
実際は、それぞれの治療を組みあわせるケースも多くみられます。
ではそれぞれの治療の詳細について説明していきます。
内科的治療
まず、AGA治療で一番大事なことはなんでしょうか?
答は「とにかく早期治療」です。
AGAの薬による治療は進行を食い止める効果は高いのですが、進行してしまってから新たに発毛させる効果はあまり高くありません。
つまり、抜け毛が増えたと感じたり、少し髪が薄くなってきたなと感じたりした段階で治療を開始する方が髪のボリュームを保ちやすくなるわけです。
それでは実際に治療に使う薬について説明していきます。
1.フィナステリド
最もメジャーな内服タイプのAGA治療薬です。もともとの商品名はプロペシアといいますが現在はジェネリック薬品も登場しておりコストパフォーマンスもよくなっています。
AGAの原因は男性ホルモンであるテストステロンが代謝されてできるジヒドロテストステロンであることは前回の記事でも述べました。
テストステロンに5αリダクターゼという物質が働くことでジヒドロテストステロンは作られます。
髪が生え始めてから太くしっかり育ち、最終的に抜けるまでの周期をヘアサイクルといいますが、ジヒドロテストステロンはこのヘアサイクルを短くしてしまうため髪も細くなり、数も減っていってしまいます。
フィナステリドは5αリダクターゼの働きを妨げることでジヒドロテストステロンが増えないようにすることでAGA改善効果を発揮します。
ここで治療効果の判定方法についてお話しします。
髪の見た目のボリュームは髪の本数と髪の太さに依存します。同じ本数なら一本一本が太い方が見た目のボリュームが多く見えるということは理解しやすいと思います。
フィナステリドはヘアサイクルを正常化させることで髪を抜けにくくし太くしっかり育てます。
結果として本数が大きく変わらなかったとしても見た目のボリュームアップは得られます。
フィナステリドは1日1回の内服で90%以上の現状維持効果を発揮します。要するに進行を食い止める効果はとても高いということです。
髪が太くなることでボリュームアップ効果も60〜70%程度は期待できますが本数を劇的に増やす、つまり発毛という効果は残念ながら10%程度しか見込めません。
治療効果は早い方で3ヶ月くらいすると実感してくることもありますが、一般的には6ヶ月使ってみて効果を判定する必要があります。
副作用としてED(勃起不全)や性欲減退などがおこることがあります。男性ホルモンを減らすわけではないので薬理学(薬が人体に与える影響面)的には問題がないように思えますが、数%の割合でおきることがあることを頭においておくと、万が一EDになってしまった時に医師に相談できるので良いかもしれません。
またPSAという前立腺癌のマーカー(がん発見に役立つ体内の成分)が減ってしまうので、前立腺癌を見落とす可能性も指摘されています。
前立腺癌の検診を受けたり、泌尿器科にかかる際にはフィナステリドを使用していることは必ず医師に伝えるようにしてください。
フィナステリドはコストや効果を含め総合的に考えると、AGA治療のファーストチョイスと言ってもいいでしょう。

2.デュタステリド
海外ではフィナステリドを超えるAGA改善効果の報告があり、以前からアボルブという商品名で日本でも販売されていました。
アボルブは日本国内では適応症が前立腺肥大症だったため、AGA治療に用いるには副作用が出た場合に少し患者さんに不利になってしまう適応外処方(国内では未承認の効能を目的として処方するため、保険適応外になる。また、万が一重い副作用が出た場合に補償制度の対象外になる)という形をとる必要がありました。
しかし、2016年6月13日にザガーロという商品名で日本国内でもAGA治療薬として販売が開始されたためフィナステリド同様に使用することが可能になりました。
デュタステリドは分かりやすく言うとフィナステリドをひとまわりパワーアップした薬です。
実は5αリダクターゼは1型、2型と2種類あります。フィナステリドは2型のみをブロックしますがデュタステリドは両方ブロックします。つまり、ジヒドロテステロンの産生をさらに強力にブロックすることでフィナステリド以上のAGA改善効果を発揮します。
それならフィナステリドじゃなく最初からデュタステリドを使えばいいじゃないかと思うかもしれません。
しかし忘れてもらいたくないのは現状維持効果というのはフィナステリドでも90%以上あるということです。そして現状維持効果に関してはデュタステリドも差はありません。
一方でデュタステリドは髪のボリュームアップに関してはフィナステリドよりも効果が高いという報告が出ています。
つまり軽症もしくは予防的という意味で内服するならばフィナステリドで十分であり、ある程度進行しているケースやフィナステリドが無効なケースではデュタステリドを使用するというのが理にかなっているのではないでしょうか。
ジェネリック医薬品も当分発売されないですし値段はフィナステリドよりは高めになるのでコストの面からも適応を選んで使用したほうがいいと思います。
内服方法は1日1回でやはり6ヶ月程度は効果判定に必要です。
副作用はフィナステリド同様にED、性欲減退などが見られます。副作用の頻度はフィナステリドよりやや多いと言われています。
3.ミノキシジル
ミノキシジルは以前から日本でもリアップという名前で販売されていたためよく知っている方も多いかもしれません。
本来は内服の降圧薬として海外で使用されていたのですが、ほとんどの患者さんに使用中に体毛が増えるという副作用が起きたためアメリカでAGA治療薬として認可されたという歴史があります。
AGA治療としては塗り薬として使用されることが一般的です。(内服ミノキシジルはAGAの適応外であり日本では取り扱いがないため省略します。)
ミノキシジルは頭皮の血流をよくしたり、VEGF(血管内皮増殖因子)という物質を増やすことで髪の成長を促すと言われています。
外用ミノキシジルは2%製剤とさらに高濃度の5%製剤があります。5%のミノキシジルの方がよりAGA改善効果が高いと言われているので可能であれば5%のものを使用すべきでしょう。
ミノキシジルは単独でもAGA改善効果がありますが、フィナステリドなどの内服薬と併用することでよりAGA治療効果がさらに高まるという報告もあるので症状によっては併用を考えてもいいでしょう。
副作用は薬を塗った部分のかぶれやかゆみの他に、顔や腕などの毛が濃くなることが挙げられます。
外科的治療

1.植毛手術
自分の髪が残っている頭皮の一部を脱毛部に移植する植毛手術は完全に進行したAGAの治療法として有効です。後頭部はAGAになりにくい部位なのでそこから採皮します。移植された毛包はAGAになりにくいという性質をキープするため良好な術後経過をたどります。
採皮の方法としては局所麻酔下で頭皮を1cm×20cm程度切り取るStrip harvesting法と1mm大のサイズで小さく毛包を採皮して一つずつ移植していくFUE harvesting法があります。
FUE harvestingの方が手術の成績はいいと言われています。
進行しきったAGAに対しては有効な治療法になりますが、体への負担がかかることや治療に時間がかかること、さらに高額な費用などがデメリットといえます。
また、時間が経過すると脱毛が再度進行する可能性もあるため一般的な治療法とはなっていません。
2.メソセラピー、HARG療法
頭皮にミノキシジルやビタミン、アミノ酸などを直接注射する治療法をおこなう施設もあります。メソセラピー、HARG療法などで検索すると多くの医療機関が見つかると思います。
以前は脂肪由来幹細胞の分泌蛋白であるVEGFなどの成長因子が入っているものをHARG療法、そうでないものをメソセラピーと言っていたようです。しかし現在はメソセラピーでも成長因子を使っていることもあり両者の境界は曖昧になっているようです。
各施設で有効性について述べているのですが、学術論文としては数がまだ少なく海外も含めて大規模なデータとしては見かけません。
現時点では理論的には有望であるが、まだ確かな有効性は確立されていないので今後のデータ蓄積が待たれるとのことでした。
3.その他
低出力のレーザーを頭皮に照射することでAGA改善効果が得られたという報告があります。しかし、有望な治療法ではあるがまだ効果については慎重に判断すべきだという扱いです。
まとめ
AGA治療の目的は髪のボリュームを増やすことであるのは間違いありませんが、本人にとって満足できるレベルでなくてはいけません。
AGAは美容的な問題であり命に関わる病気ではありませんので、通常の病気のように根治を目指すというよりは自分の満足いくレベルまで改善させるというのが現実的なゴールと言えるでしょう。
効果について多くのエビデンスがあるという点ではフィナステリドとミノキシジルが第一選択になるのではないでしょうか。
しかし、症状によってはデュタステリドや植毛など別のオプションが必要になるかもしれません。
今回は内科的、外科的と分けて説明しましたが、実際は組み合わせて行うことも多く複合的なAGA治療がおこなわれています。
まずは悩まずに医師に相談してベストな治療法を見つけるのがいいでしょう。