妊娠中に起こりやすい血栓症は、下肢の血管にできた血栓が主な原因となります。
妊娠中の血液成分の変化やお腹が大きくなって下半身の血管が圧迫されることで、足に血栓ができやすいわけですが、この血栓は予防することができます。
血栓ができて肺の動脈に詰まって肺塞栓症になれば、命に関わりますので予防は非常に重要です。

ここでは、血栓症を予防する方法と、血栓症の症状についてお話ししたいと思います。

目次

足の深部静脈血栓症の予防法

足の深い部分の静脈に血栓ができるのが深部静脈血栓症という病気です。妊娠中は血液が固まりやすく、お腹の重みで下半身の血流は悪くなるなど、下半身の血流が滞りがちです。血液の流れが悪いと、そこに血栓ができやすいので、血流を良くするのが一番の予防法です。

予防方法として下記のようなものがあります。

  • ウォーキング
  • 下肢の挙上(寝る時に足の下にクッションなどを置く)
  • 膝の屈伸
  • 足の背屈運動(足首を使って足先を上げる動き)
  • ふくらはぎのマッサージ
  • 弾性ストッキングの着用

動ける人はウォーキングなど積極的に運動を取り入れるべきですが、切迫流産や切迫早産などベッド上での安静が必要な場合には、下肢の挙上や足の背屈運動、弾性ストッキングの着用がおすすめです。
また、脱水になると血液が濃くなって血栓ができやすくなりますので、特に夏はこまめな水分補給を心がけるとよいでしょう

ハイリスクの場合の予防法

静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症から肺塞栓症を起こした状態)の既往がある人や、血栓性素因がある人、心疾患や肺疾患などの病気がある人、出産前のBMIが35kg/㎡以上の人など、血栓症のリスクが高いと判断された場合は、抗凝固療法が行われる場合があります。

抗凝固療法は、主にヘパリンという薬剤を使って血を固まりにくくし、血栓を予防する方法です。ワルファリンという薬剤も抗凝固療法で使われる薬剤ですが、胎児への影響が確認されているため、妊娠中は基本的にヘパリンが使われます。ヘパリンは持続点滴や皮下注射で投与され、皮下注射の場合は状態によっては在宅での自己注射が可能です。

出産後の場合、抗凝固療法以外に間欠的空気圧迫法(IPC)が行われる場合があります。
下肢にカフを巻き、ポンプを使って断続的に圧迫し、血流を良くする方法です。
産後の抗凝固療法では母乳への影響が心配されますが、ワルファリンは母乳に移行しないため安全です。
ヘパリンは、添付文書には禁忌となっていますが、母乳への移行がないとされています。

血栓症の症状

発症した際の症状を知っておくことも大切です。
深部静脈血栓症の症状としては、

  • 下肢の浮腫(むくみ)
  • 腫れ
  • 発赤
  • 熱感
  • 痛み
  • 圧痛

などがあります。

血栓がはがれ、血流に乗って肺動脈に詰まると肺血栓塞栓症を発症します。
肺血栓塞栓症の症状

  • 突然胸の痛み
  • 呼吸困難
  • ショック症状による失神
  • 軽い胸の痛み
  • 冷や汗
  • 動悸
  • 発熱
  • 血痰が出る

など、症状が多彩です。
静脈血栓塞栓症のリスクが高い状態に当てはまる人は、これらの症状に日ごろから注意し、家族にも知っておいてもらうことが大切です。もし、意識がない、呼吸ができないなど緊急を要する場合は、すぐに救急車を呼ぶようにしましょう。

まとめ

血栓症は予防が大事です。深部静脈血栓症になってしまえば、肺塞栓を起こす可能性もあり、母子共に命を落とす危険があります。
妊娠中は血栓症になりやすい状態ですので、できるだけ体を動かすようにし、安静が必要な状態の場合は上記のようなベッド上でできる予防方法を行うようにしましょう。