流産や死産は、妊娠の喜びから一転して我が子を亡くしてしまう経験をする辛い疾患です。妊娠の10~20%が流産に至るという統計もあり、決して他人事ではありません。
1度経験するだけでも非常に辛いことですが、流産や死産を繰り返す場合があり、不育症という疾患の可能性があります。ここでは、不育症とはどういう病気なのか、不育症の原因についてお話ししたいと思います。

目次

不育症とは?

不育症は、「妊娠はするけれど2 回以上の流産・死産もしくは生後1 週間以内に死亡する早期新生児死亡によって児が得られない場合」を言います。

流産は、妊娠22 週未満の胎児が母体から娩出されることで、死産は、妊娠22 週以降の場合を指します。

習慣流産(流産を3回以上繰り返したこと)反復流産(流産を2回以上繰り返したこと)など流産を繰り返す場合、2回以上の死産や早期新生児死亡を経験した場合は、不育症と定義されます。

そのうち約半数は、偶然流産が続いただけで、特別な治療を受けなくても、次回の妊娠で良好な経過を辿ることができます。
残りの半数には、凝固異常や夫婦の染色体異常、子宮形態異常などの不育症の原因となる因子が認められるケースがあります。

不育症の頻度

流産は、妊娠の10~20%の頻度で起こり、年齢と共にその頻度は上昇していきます。
特に40歳代での妊娠の場合、流産の頻度は50という報告もあります(反復・習慣流産(いわゆる「不育症」)の相談対応マニュアルより)。

妊娠歴のある35~79歳の女性のうち、3回以上の流産は0.9%、2回以上の流産は4.2%で、38%が1回以上の流産経験があることがわかっています(反復・習慣流産(いわゆる「不育症」)の相談対応マニュアルより)。
正確な不育症の頻度はわかっていませんが、数万人の方が不育症の可能性があり、誰にでも起こりえる病気です。

不育症の原因

不育症のリスクとなる因子はいくつかありますが、100%流産するものではないため、原因ではなくリスク因子と表現されます。リスク因子としては、下記が挙げられます。

夫婦の染色体異常

妊娠初期の流産の原因の約80%は、胎児の偶発的に発生した染色体異常と言われています(反復・習慣流産(いわゆる「不育症」)の相談対応マニュアルより)。ですが、流産を繰り返す場合、夫婦どちらかに染色体の構造異常がある可能性が高くなります。この場合、本人は全くの健康ですが、卵子や精子ができる際に染色体の過不足が生じることがあります。

子宮形態異常

子宮の形に異常がある先天的なものと、子宮筋腫や子宮腔の癒着などによる後天的なものがあります。
先天的な子宮形態異常には、双角子宮(子宮内腔がハート型をしている)や中隔子宮(子宮内腔が2つに分かれている)などがあり、特に不育症に関係するのが中隔子宮になります

内分泌異常

甲状腺機能亢進症や、甲状腺機能低下症、糖尿病などによるホルモンの異常は、流産のリスクを高くすることがわかっています。また、早産などの合併症のリスクも高いため、ハイリスク妊娠として病院での管理が必要になる場合があります。

凝固異常

血液は血管の中では液体として全身を巡っていますが、怪我などで出血すると、凝固(かさぶたになる)してそれ以上出血してしまうのを防ぐ機能があります。
この血液の状態が変わる仕組みに、血液凝固因子というものが関わっています。

この凝固因子の異常が不育症のリスク因子となる場合があります
抗リン脂質抗体症候群、プロテインS欠乏症、プロテインC欠乏症、第Ⅻ因子欠乏症などの凝固異常は、血栓症を引き起こし、流産や死産、胎児の発育異常や胎盤の異常を起こすことがあります。

高年齢妊娠

卵子は加齢とともに卵子も老化していき、ダウン症などの染色体異常や流産の頻度を上昇させることがわかっています
不育症の年齢分布を見ると、35歳以上の高齢妊娠の場合が多く、流産率も25~29歳が11.9%なのに対して、35~39歳では24.6%と約2倍の頻度となっています(反復・習慣流産(いわゆる「不育症」)の相談対応マニュアルより)。

不育症のリスク因子の頻度

上記のように不育症のリスク因子はさまざまなものがありますが、不育症のリスク別の頻度を見ると、65.3%がリスク因子不明となっています
残りの頻度としては、子宮形態異常7.8%、甲状腺異常6.8%、夫婦いずれかの染色体異常4.6%、抗リン脂質抗体陽性10.2%、第Ⅻ因子欠乏症7.2%、プロテインS欠乏症7.4%、プロテインC欠乏症0.2%となっており、凝固異常による不育症の頻度が多いことがわかります反復・習慣流産(いわゆる「不育症」)の相談対応マニュアルより)。

まとめ

不育症の約半数は、偶発的に流産が続いただけで、次回からの妊娠は問題がないとされています。
ですが、次も流産や死産になってしまったら…と1人で不安を抱えている方も多いことと思います。そのような方が適切な相談対応を受けることで、次回の妊娠が継続して子どもを出産できる率(生児獲得率)が高くなることが明らかになっています

病院に相談することで、不育症のリスク因子を特定し、適切な治療を受けて無事に妊娠・出産できることに繋がる場合もあります。不育症の心配がある方は、病院を受診し、医師に相談するようにしましょう。不育症専門の外来のある病院もありますので、一度ホームページなどを調べてみましょう。