ナルコレプシーとは、日中に頻回に強い眠気に襲われ、車の運転中でも大事な商談中でも構わず眠り込んでしまう病気です。こうした症状が毎日続くと、仕事や生活に大きな支障が出てきます。「どうしていつも眠いのだろう?」―そのように悩んでいるのは、ナルコレプシーのせいかもしれません。ここでは、ナルコレプシーの症状と原因について医師・井上 雄一先生の監修で解説します。

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そもそも、ナルコレプシーって何?

ナルコレプシーとは、日中にたびたび突然の強い眠気に襲われ、居眠りをしてしまう病気です。

ナルコレプシーの主症状である眠気はとても強烈です。睡眠発作と呼ばれ、普通の人が丸2日間寝ていなかったときに感じる眠気に匹敵するともいわれています。

ナルコレプシーが発症する年齢は10代が最も多く、14~16歳がピークとされています。世界的にみると、ナルコレプシーの有病率の平均は2,000人に1人といわれていますが、日本の有病率は600人に1人と推定され、世界で最も高い水準となっています(北海道薬剤師会より)。

ナルコレプシーの症状

ナルコレプシーの主症状は睡眠発作ですが、それ以外にも、情動脱力発作(カタプレキシー)、睡眠麻痺、入眠時幻覚があります。情動脱力発作を伴うケースが、最も典型的なナルコレプシーと考えられます(※)。

※強い眠気を症状とする病気には、ナルコレプシーのほかに、真性過眠症、反復性過眠症、特発性過眠症、覚醒不全症候群、睡眠時無呼吸症候群、周期性四肢運動障害などがあります。

睡眠発作

朝、起床したときの眠気は普通の人とほぼ同じですが、昼前から午後にかけて眠気が強くなり、断続的に数回にわたって居眠りの発作が起こります。居眠りの時間は数分~30分以内と短く、居眠りの後は頭がすっきりすることもあります。その後、1~数時間後には再び眠気が強くなり、居眠りを繰り返します。

このように、耐えがたい睡眠発作が、少なくとも3ヶ月にわたって毎日起こります。

情動脱力発作(カタプレキシー)

ナルコレプシーの症状としては、びっくりする、大笑いをする、怒る等、強い感情の動きがあったときに、体の姿勢を保つ筋肉(全身または身体の一部)の力が抜けてしまう情動脱力発作(カタプレキシー)が特徴的です。力が抜けている時間は数秒、長くても1~2分程度です。

顔面の筋肉が脱力する場合は、会話ができなくなったり、目が開かなくなったりすることがあります。また、膝や下半身、全身の脱力のために、その場で倒れてしまうこともあります。

入眠時幻覚睡眠麻痺

ナルコレプシー患者の中には、入眠時幻覚という症状がみられる人がいます。これは、睡眠に入る際に、はっきりとした幻覚(人影や動物)を見たり、浮遊感を覚えたり、幻聴が聞こえたりするものです。起きる間際や、昼間の居眠りの際にも入眠時幻覚が起こることがあります。

また、ナルコレプシー発症の初期からよく見られる症状として、睡眠麻痺があります。これはいわゆる金縛りと呼ばれるもので、睡眠に入る際に、体に力が入らなくなる、声が出ない、起き上がろうとしても体が動かない等の症状です。

ナルコレプシーの原因

ナルコレプシーは、睡眠をコントロールする脳の機能の異常によって起こります。脳の中の神経ペプチド(アミノ酸結合物)であるオレキシン(ヒポクレチン-1)を作り出す神経細胞が、何らかの原因によって働かなくなることで発症します。

オレキシンは、睡眠と覚醒をコントロールしたり、エネルギー代謝を調整したりといった重要な役割を果たしています。ナルコレプシーの患者では、オレキシンに関係した神経の活動がほとんど消失しているためにこうした調整がうまくいかなくなり、睡眠発作などの症状が起こるのです。

ナルコレプシーは、後天的にオレキシン神経が破壊され、神経の伝達障害によって起こるとする説が有力ですが、遺伝的な要因の解明についても研究が進められています。

ナルコレプシーかもしれない…どうしたらいいの?

ナルコレプシー_寝る女性

ナルコレプシーの睡眠発作は、誰かと真剣に話している最中や車の運転中など、緊張を要する場面でも起こります。また、授業中や会議中など、健康な人でも眠くなる状況では、よりいっそう睡眠発作が起こりやすくなります。

周囲も本人も「単なる居眠り」であると思っていることが多いため、病気であると気づくのに数年から十年以上もかかる場合があります。周囲から「怠け者」として非難されて職を失ったり、交通事故や労働災害に繋がったりと、仕事や生活に重大な支障が出ている場合があり、早めに対応する必要があります。

ナルコレプシーは、薬物療法や生活習慣の工夫(計画的に仮眠する)など、適切に対処することで症状を軽減することができます。しかし、睡眠障害を専門としない医療機関では、正しい診断を受けられないケースもあり、注意が必要です。「ナルコレプシーかもしれない」と思ったら、睡眠障害専門の医療機関睡眠障害に詳しい精神科・神経内科を受診するようにしましょう。

まとめ

突然の睡眠発作を起こすナルコレプシー。居眠りが病気だとは気づきにくいため、長期にわたって放置されているケースも少なくありません。ここで述べた症状に心当たりがある場合は、重大な事故を引き起こさないためにも、できるだけ早く治療を開始することをお勧めします。