視神経脊髄炎は、世界的には10万人に0.5~5人程度、日本国内では4290人(10万人に3.42人)の患者さんがいると報告されています(多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017より)。
数字から見てわかるとおりとても珍しく、なおかつ、詳しい原因や治療法についてはわかっていないことが多い病気です。
この記事では診療ガイドラインの情報などを元に、現在わかっている「視神経脊髄炎」という病気に関する情報を、できる限りかみくだいて説明したいと思います。
視神経脊髄炎とは
視神経脊髄炎は、視神経、脊髄といった中枢神経を中心に炎症が起きる炎症性疾患です。炎症の原因は、からだを自分以外の異物から守る働きをする免疫機能が誤って自分の組織や細胞を攻撃してしまう(自己免疫疾患)ことにより起こります。
年齢は30代後半から40代前半にかけて多いですが、子ども・高齢者にも発症します。女性に多く、日本人の場合9割が女性の患者さんです。
患者さんの血縁関係者に多く発症することから遺伝的要因も重要視されていますが、現在は十分なデータがなく、はっきりとしたことはわかっていません。
視神経脊髄炎でみられる症状
1.視神経炎による症状
- 眼痛(目の奥が痛い、目を動かすと痛い)
- 視力低下
- 失明(ものが見えない、視野が欠けているなど)
失明は急性期に起こることが多く、両目に生じることもあります。また、水平性半盲といって視界の上半分または下半分が欠ける症状は、視神経脊髄炎・多発性硬化症に特徴的な症状とされています。
2.脊髄炎による症状
- 感覚障害(自発痛、有痛性強直性けいれんなど)
- 運動障害(麻痺、脱力、ふらふらする、まっすぐ歩けない)
- 膀胱・直腸障害(トイレの回数が多い、尿が出ない、頻尿、便秘など)
- 1日から数日続くしゃっくり、吐き気
脊髄のうち炎症が起こる部位に応じて、さまざまの症状が起こります。
感覚障害では、温度・痛みに対して敏感になる温痛覚過敏だけでなく、逆に温度の感覚がわからないといった感覚低下(鈍麻)をきたすこともあります。
痛みの症状については、しびれ・ちくちくする痛み・じんじんするといったもの(異常感覚)のほか、体を締め付けられるような痛み(帯状絞扼感)、数十秒ほど続く痛みをともったつっぱり(有痛性強直性攣縮)などがあります。
しゃっくり・吐き気は脳幹部が傷害されることにより起こる症状で、多発性硬化症・視神経脊髄炎の患者さんの約40%にみられる症状です(多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017より)。
3.脳(大脳)の炎症による症状
- ボーっとする(軽度の意識障害)
- 見当識障害(高次脳機能障害)
- 過眠、ナルコレプシーのような症状(睡眠障害)
症状のないものも含めると、多発性硬化症・視神経脊髄炎の患者さんのうち50~70%に大脳の病変が認められます(多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017より)。
特に間脳・視床下部などが傷害されることが多く、意識障害を引き起こします。
視神経脊髄炎の原因
原因としては、抗アクアポリン4(AQP4)抗体とよばれる抗体が関与していることが知られています。この抗体は、視神経脊髄炎の患者さんにだけ見られる物質で、病気の診断においても重要です。
「視神経脊髄炎」は以前、多発性硬化症という病気の一病型に分類されていました。しかし、抗アクアポリン4抗体の発見により、症状の起こる過程や治療法などが異なることがわかり、現在では多発性硬化症とは別の病気と考えられています。
抗アクアポリン4抗体は、脳・脊髄・視神経の神経細胞を支えるアストロサイトという細胞を攻撃してしまいます。これにより、脱髄(神経線維の束を包む髄鞘という組織が破壊され、神経がむき出しになる)や神経軸索障害(神経線維自体が傷つくこと)が起きます。
病気の特徴、多発性硬化症との違い
視神経脊髄炎と多発性硬化症は、症状が非常によく似ている病気です。
しかし、多発性硬化症が原因不明とされているのに対し、視神経脊髄炎では抗アクアポリン4抗体が自己免疫を引き起こすことが症状の原因となることがわかっています。
また視神経脊髄炎では、多発性硬化症に比べて神経線維の炎症が強力であることが知られています。視神経脊髄炎では、神経線維を包む髄鞘が剥がれる脱髄にとどまらず、神経線維自体が傷害され、ときに壊死にいたることで後遺症をのこしやすい傾向があります。
視神経脊髄炎の診断
診察、抗アクアポリン4抗体の有無を調べる血液検査、視神経や脊髄の病変の様子を調べるMRI検査などを行います。
抗アクアポリン4抗体は視神経脊髄炎の患者さんのみにみられる物質であるため診断においても重要ですが、陽性であっても他の条件(臨床症状や画像所見など)を満たさない場合、陰性であっても他の条件を満たす場合もあるので、診察と他の検査結果の内容を総合的に判断して診断します。
発症後の経過と治療

治療は、症状があらわれる急性期のための治療と、症状が落ち着く慢性期におこなう再発予防のための治療に分けられます。
急性期の治療
ステロイドパルス療法
3~5日間連続で多量のステロイドを投与することを、数回繰り返す治療法です。患者さんにもよりますが、治療はじめて数日以内に大きな効果が出ることが多く、後遺症を防ぐために有効な方法とされています。
血漿交換療法(血液浄化療法)
分離器により血液を浄化し、体内にある抗アクアポリン4抗体を除去する治療法です。
ステロイドパルス療法に対する反応が悪い場合、合併症・副作用のためにステロイド療法が行えない場合に行います。
再発予防のための治療
経口ステロイド薬や免疫抑制剤の投与を行います。
経口ステロイド薬を長期的に投与する場合、消化性潰瘍、骨粗鬆症、日和見感染症などの合併症に注意しなければなりません。そのため、プロトンポンプ阻害剤(胃酸分泌抑制作用を持つ薬剤)、 ビスフォスフォネート製剤(破骨細胞の活動を阻害する骨粗鬆症の薬)、ST合剤(抗菌剤)を併用することもあります。
経過
視神経脊髄炎は、再発を繰り返すことで少しずつ悪化していく病気で、失明などの重たい後遺症をのこすことがあります。未治療の場合、再発率は平均で年間1~1.5回といわれています。
後遺症を防いで予後をより良い状態で保つために、急性期にすみやかに治療を行うことと、慢性期に適切な治療により再発を防ぐことが重要です。
まとめ
視神経脊髄炎は自己免疫疾患のひとつで、その発症には抗アクアポリン4(AQP4)抗体という免疫系の物質が関与していることがわかっています。現在は根本的治療がありませんが、早期の診断と免疫系を抑制する治療を行うことで再発を防ぎ、後遺症を防ぐことが重要です。