昔から母乳育児中のお母さんは「おっぱいをあげているんだから2人分食べなきゃね」と言われていました。実際、「日本人の食事摂取基準 2015年版」でも妊婦・授乳婦には「付加量」という「この期間だけは追加で摂るべき栄養素」が決められています。どのようなことに気をつければよいのでしょうか。

目次

しっかり摂りたい母乳に含まれる栄養素

まずは、母乳に含まれる栄養について考えてみましょう。

母乳だけで赤ちゃんが育つのですから、栄養素がバランスよく含まれています。初乳と授乳後期の母乳では組成が違うといわれていますが、平均すると母乳100mlあたり65キロカリー、たんぱく質1.1g、脂質3.5g、炭水化物7.2gと炭水化物の割合が市販の牛乳よりも高めであることが特徴です。また、ビタミンやミネラルの配合も牛乳と少し異なることが知られています。

このような栄養素を含む母乳を作るために必要と考えられる栄養素として、「日本人の食事摂取基準 2015年版」ではエネルギー(350キロカロリー)、たんぱく質(15~20g)、ビタミンA(300~450マイクロgRAEなどのビタミン類、鉄や亜鉛などのミネラル類を示しています(詳しくは、リンクのURL(PDF)の6ページ目を参照して下さい)。

お母さんの体の栄養はどう考える?

一方で、お母さんの体は、妊娠前に比べて出産直前では10kg程度、体重が増加しています。赤ちゃんは約3kg、胎盤等での減少を見込んでも、妊娠前に比べて5kg程度が残っています。

この5kgは授乳中の約6~10ヶ月の間に元へ戻す必要があります。これを怠ってしまうと、増えた分は体脂肪として蓄積されてしまいます。

そのため、赤ちゃんの世話で忙しいとは思いますが、「1ヵ月に1~2kgの体重を減らし、6ヶ月間で元に戻す」を目標に、毎日体重を測るようにしましょう。

体重を1kg減らすためには、7200キロカロリーを消費する必要があるとされていますので、母乳に必要な栄養素と併せて調整して下さい。

実生活で気をつけることは?

栄養学的な数字は上記のようになりますが、赤ちゃんのお世話をしながら自身の食事のカロリー計算まですることは難しいと思います。

そのため、気をつけたいことは大きく分けると2つあります。

1.栄養のバランスの良い食事を心がける

・いろいろな食材を使った料理を食べる

・小学校の給食を思い出して「大きいおかず(肉、魚、卵などたんぱく質を多く含むおかず)」「小さいおかず(野菜、海藻、きのこなどビタミンやミネラルを多く含むおかず)」「主食(ご飯、パン、麺など炭水化物を多く含む)」が毎食揃っていることを確認する

食べる量に関しては、体重を見ながら増えているようなら少し減らし、体重が減るスピードが早いようならもう少し食べるようにします。

このように、栄養のバランスのよい食事を摂ることで、母乳にもよい影響を与えます。

2.できるだけ規則正しい食生活を送る

赤ちゃんが泣くタイミングにあわせておっぱいをあげていると睡眠時間がバラバラになりやすいのですが、食事のタイミングだけでも規則正しくすると、お母さんの体への負担が少なくなります。

災害時は・・・

最後に、考えたくないことではありますが、災害時のことをお話しておきます。

災害時は食材が思うように手に入らず、ストレスを感じてしまうお母さんも少なくないようです。

しかし、手に入らないものをぼやいてもどうにもなりません。手元にある食材でできるだけバランスの良い食事を摂る工夫をします。

例えば、野菜が手に入らないけれど、野菜ジュースなら避難所にあるならば、野菜の代用品として用いるのもよいでしょう。栄養調整をした食品(バータイプ、ゼリータイプ、ドリンクタイプなどいろいろな形態があります)や、栄養素を強化した菓子類も災害時には食料として使いましょう。

また、極度のストレスで母乳が出なくなってしまうお母さんもいるようですが、哺乳を続けていればまた出るようになることもあります。人工乳と併用しながら「母乳が出たらいいな」くらいの気持ちで続けてください。

母乳育児中は通常の生活とは違うさまざまなストレスがあると思いますが、かわいい赤ちゃんのために頑張ってくださいね。