男性特有の陰茎がん。原因や症状は?専門医が紹介」の記事では症状や原因などについて紹介しました。今回は陰茎がんの診断法や治療法についてです。前回に引き続き、がん専門病院で主に泌尿器がん外科に従事する泌尿器科専門医による執筆記事です。(いしゃまち編集部)

目次

陰茎がんの診断法は?

視触診

目で病変部を確認する(視診)ほか、圧痛(圧して痛みがあるか)や硬結(硬い腫瘤があるか)の有無、皮膚からより深部にある陰茎白膜や尿道にまで浸潤しているかどうか触診して調べます。

陰茎がんの50~70%が視触診のみで診断できるといわれています。

生検

陰茎がんは他の性感染症との鑑別が困難な場合も少なくありません。そのため視触診にて陰茎がんが疑われる時には早めに組織検査(生検)を行い、病理学的(顕微鏡でみて)に診断を確定するようにします。

生検では一部の組織を採取しますが、陰茎がんであっても病変の一部が壊死(くさっている)していると診断に十分な組織の情報が得られず、複数回にわたって組織を採取しなければいけないことがあります。

腫瘍が壊死している場合、生検時に痛みを伴うことは少ないですが、痛みがある部分(たとえばピンセット等でつまんでみて痛いところなど)では生検前に麻酔をして痛みを除いてから組織を採取するようにします。

血液検査

陰茎がんでは、採血の検査結果が正常範囲内であることがほとんどです。また、特異的な腫瘍マーカー(血液中にあってがんの目印になる物質)もありません。

ただし、進行例(リンパ節転移や遠隔転移がみられる)では血液中のSCC抗原(扁平上皮がん関連抗原)と言われる値が高くなるため、腫瘍マーカーとして診断や治療効果の判定に役立つことがあります。

画像検査

超音波検査やMRI検査で、皮膚より深部にある白膜、海綿体、尿道への浸潤の程度を調べます。さらにCT検査で遠隔転移の有無を診断します。

最近では陰茎がんの局在診断(どこにがんがあるか確定させる)・リンパ節転移の診断にPET/CT 検査が有用との報告があり、治療前検査として用いられるようになってきています。

陰茎がんの治療

陰茎がんの治療法は手術療法、放射線療法、化学療法のいずれかが選択されます。治療法それぞれについては後述します。

治療後も陰茎周囲での再発、鼠径リンパ節の再発には注意が必要です。再発の90%は5年以内に出現し、2年以内に認められることが多いです。そのため術後は5年間、CTなどの画像検査による経過観察が行われます(術後から2年間は3~6ヶ月、その後は6~12ヶ月ごとが一般的)。

特に後述する陰茎温存治療を行った場合は、陰茎に症状が現れていないか見たり、臭いを気にしたりするセルフチェックが重要になります。このチェックは定期的にしてください。

陰茎は排尿ならびに性行為に関わる重要な臓器で、治療によっては陰茎すべてを失ったり、その機能がものすごく低下したりすることがあります。

また、心理的な影響も、もちろんあります。例えば、排尿(小便)は立って行いたい、公衆浴場にも気兼ねなく入りたい人からすると、手術療法で陰茎を切断することへの不安感はあるかと思います。

こうした機能面・心理面への影響を踏まえながら、個々の患者さんに応じて治療成績、術後のQOL(生活の質)を考慮して診療方針を決めていきます。

手術療法

浸潤がん(皮膚組織を通り越した深部までがん細胞が及んでいること)では通常、陰茎を根元から切断する必要があります(陰茎全切断術)。すべてを切断しても、会陰部(陰部と肛門部の間)に新たに尿道の出口を設けるので排尿は行えます。ただし、排尿の姿勢は女性と同じような排尿スタイル(座位)となります。また、自慰を行うのはかなり難しくなります。

がんのできた場所が亀頭など陰茎の先端近くであった場合は、陰茎を途中で切断する手術(陰茎部分切断術)が選択されます。温存できた陰茎の長さによっては、立ちながらの排尿や自慰行為が可能です。陰茎部分切断術の場合、陰茎が短くなるので不足分を補うための形成外科的手術(陰茎形成)を行うことがあります。これは腕など、自身の体の筋肉を欠損している陰茎部分に移植(自家移植)する手術です。

浸潤がなく皮膚の表面にできたがん(表在性陰茎がん)であれば、症状がみられる部位をレーザーで切除するだけで治療可能なことがあります。また、包皮に限局した小さながんのケースでは、包茎手術で行われる包皮環状切除術による治療ができる場合もあります。これら陰茎を切除しないで治療する方法を陰茎温存手術と言います。

転移が疑われる場合

鼠径リンパ節転移が疑われた場合は通常、上記の陰茎に関わる手術に加え、リンパ節を摘除します(リンパ節郭清)。

術後に下肢のむくみ(浮腫)が出現しやすく、しばしば後遺症として長く続くことがあります。その場合リンパマッサージや弾性ストッキングなどの着用で対応しますが、改善するまでに数ヶ月~年単位の時間を要することがあります。

放射線療法

放射線療法は一般的に原発巣(最初に発生した部位)に行われます。鼠径リンパ節などの転移巣に対して有用かどうか明らかになっていないため、転移がみられないケースに限ることが多いです。また、比較的表在性の小さな腫瘍に対して行われます。

副作用として、ときに痛みを伴う潰瘍形成(陰茎の放射線をかけた部位がただれてえぐられたような変化を起こすこと)、尿道狭窄(陰茎内部の尿の通り道「尿道」が放射線治療により萎縮してしまい、尿道が狭くなってしまうこと)などがあります。尿道狭窄を改善させるためにはときに手術が必要になることがあります。

化学療法

化学療法は、リンパ節転移がみられる場合にリンパ節郭清と併せて用いられることがあります。この他、進行したがんで特に診断時に手術不可能と考えられるケースにおいて、化学療法を先に行うことがあります。これは手術が行えるよう、腫瘍を縮小させることを目的としています。

ブレオマイシン(BLM)、メソトレキセート(MTX)、シスプラチン(CDDP)による多剤併用でよく行われますが、有効率は 32.5% と報告されており、また副作用も強い治療です。その他、フロオロウラシル(5-FU)、シスプラチンによる併用療法や、近年ではタキサン系薬剤の有効性が報告されていますが、症例数が少なくいずれも有効性が明らかとはいえません。

治癒率

執筆者はがん専門病院に在籍しておりますが、陰茎がんはまれな疾患であるため、自施設のみで多数症例に基づくまとまった治療成績を出すことはできません。これまでに報告されている成績について示します。

一般的に鼠径リンパ節転移のないT2(※) までの症例ではがんを完全に切除できれば5年生存率 85%前後です。比較的に多くみられるT3(尿道への浸潤) や あまりみられないT4の 症例では手術のみならず、化学療法などを用いて5年生存率は 50%前後です。

一方、鼠径リンパ節に転移すると生命予後は急に悪化し、50%未満となります。ただし、そのような症例でも化学療法・手術・放射線などの治療を組み合わせる(集学的治療と呼びます)ことで治療成績の改善が期待できます。

治療については主治医の先生とよく相談するようにしましょう。

※…Tはがんの浸潤度を表しています。詳しくは「男性特有の陰茎がん。原因や症状は?専門医が紹介」をご覧ください。

最後に

陰茎がんは自分ですぐに視触診が可能な陰茎にできる悪性腫瘍です。見た目や触った感じで「なにかおかしい」と思ったらすぐに泌尿器科を受診するようにしましょう。