皆さんは「泌尿器」という言葉に対して、どのようなイメージを持っていますか?場所が場所だけに、積極的に話題にせず、むしろ避けることが多いかもしれません。しかし、泌尿器で覚えた違和感を放置しておくと、重大な疾患を見落としているかもしれません。今回はがん専門病院で泌尿器がん外科に長年従事されてきた専門医の先生に、「泌尿器がんにともなう症状について」具体例を交えて解説していただきます。

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泌尿器の症状は来院まで時間がかかりやすい

「泌尿器科医です」。自分は病院の外で職業を聞かれた時、「医師です」とか「病院職員です」と答えたことはありますが、このように答えたことはありません。一方で同じ質問に脳神経外科医、消化器外科医、内科医、皮膚科医…どの科でも良いのですが他の科の先生なら診療科まで含めて答えることは少なくないと思われます。

自分が診療科をなるべく言わないようにするのはなぜでしょう。ズバリ、「なんとなく恥ずかしいから」です。自分の勝手な印象ですが、「泌尿器科」という言葉自体に性行為感染症・勃起障害・包茎など、下半身に関するイメージというか、かつて「花柳科(かりゅうか)」と呼ばれていた頃のアヤシイ響きというか、そういった雰囲気があり、泌尿器科医であっても名乗ることを自然と自重してしまうのです。一生をかけるつもりで選んだ職業なのですが…。

泌尿器科医自身ですらこんな感じですから、泌尿器科の患者さん、特に若い方は言わずもがなで、症状が出ているのに泌尿器科にかかるまで長い時間がかかってしまい、病状が進行してから来院される方は他の科よりも多いと思います。

そうした状況が考えられる中で,これまでに私が経験したいくつかの泌尿器がん患者さんの症状を紹介します。ぜひ参考にしてみてください。

泌尿器がんにともなう症状について

下腹部を押さえる女性。白いシャツと青いジーンズの色の対比は美しい。

ケース1:陰嚢内容の腫大

20歳前の患者さんでした。1年近く前から右の「タマ」が腫れていることに気づいていましたが痛みがなく,勃起も可能でパートナーとの性交を問題なく行えていたのでそのまま放置。いよいよ腫れが大きくなりゆるいズボンを履いても外からみて分かるくらいのサイズになり、次第にみぞおちあたりの痛みや血痰も自覚するようになって、最初は内科を受診されました。胸部レントゲンで肺に多数の腫瘤を認め、右精巣がんのリンパ節・肺転移と診断されました。

精巣がんは化学療法(抗がん剤)が非常に有効ですので 4 コースの化学療法を行った後、残ったリンパ節と肺の病変を手術で摘除することで病変をすべて治療することができました。最後の手術から 3 年以上経過しておりますが、幸い再発なく元気に来院されています。

ただ、陰嚢内容が腫れてきたことに気づいた頃すぐに来院されていれば、もしかすると化学療法と手術は避けられた可能性があり、症状出現時になるべく早く泌尿器科を受診してくれていればと思います。精巣がんはタマが腫れても痛みがないのでしこりを感じたら必ず泌尿器科を受診してほしいです。

ケース2:血尿

50歳を少し越えた女性の膀胱がんです。血尿には気づいていましたが、痛みがなかったために6ヶ月以上経過して受診された患者さんでした。膀胱を摘除し元気に過ごされていますが、症状を自覚した時すぐに受診していればもしかすると膀胱は取らずに済んだかもしれません。

女性は男性と異なり膀胱と外部をつなぐ尿道の長さが短い(約18 cm vs.約3 cm)ために膀胱炎をよく発症します。急に症状が出る場合は急性膀胱炎と呼ばれ、血尿がみられますが、膀胱炎ですと患者さんは排尿時に痛みを感じることから早めに病院を受診され、速やかに治療されることが多いです。一方、痛みを感じない血尿でみつかる疾患の代表格として膀胱がんがあります。膀胱がんでは血尿があっても痛みを伴うことは少ないため、なかなか来院されないで様子を見てしまう患者さんがおられます。肉眼的に(自分の目で見て)血尿があったら泌尿器科にかかるようにしましょう。

特に膀胱がんは喫煙者に多いので、スモーカーの方が肉眼的血尿を見たら泌尿器科を受診すべきです。

ケース3:全身倦怠感

倦怠感とは「だるさ」のことです。初めは内科を受診されることが多い症状です。

以前半年以上続く倦怠感を放置し、受診したときには腎がんが肝臓に転移していた患者さんを担当したことがあります。泌尿器がんに限らず倦怠感はすでに転移している方が自覚する初めの症状となることがありますので、少しだるい、という症状が数日以上続く場合は自己判断で風邪や体調不良と決めつけずに受診するようにしましょう。この場合は最初に受診するのは内科でもよいと思います。

ケース4:腰痛

持病で腰痛持ちであった 70 代の男性の方でした。月に 1 回足腰のマッサージを受けるのを習慣にしていたのですが、腰痛がひどくなってきたため回数を月に 2 回、3 回、4 回と増やしていきました。それでも改善せず、これまでと違う腰痛を感じてから 3 ヶ月以上経ってから整形外科を受診されました。検査の結果、痛みの原因は腰椎への腫瘍の骨転移で、前立腺がんからのものでした。この患者さんはよく問診してみると1ヶ月以上前からの血尿もあったそうです。

すべての腰痛に対してがんの骨転移を考える必要はありませんが、これまでと異なる痛み、特に徐々に強くなっていく痛みは要注意といえるでしょう。

いつもと違うと感じたらすぐ受診を

泌尿器科はその言葉のもつイメージや雰囲気から受診しづらい診療科かもしれませんが、いつもと違うと感じる症状がありましたら是非とも受診するようにしてください。もちろんわれわれ泌尿器科医も自分の一生を捧げた仕事に誇りを持って胸を張って「泌尿器科医です」と自己紹介しつつ、上記のような様々な泌尿器がんについて啓蒙していきたいと思っております。