不安なことがあって眠れない、ストレスが溜まって眠れなくなってしまった、そんな経験のある方は多いと思います。

このような不眠は、眠れないことでよりストレスを感じてしまうこともあり、どうすれば悪循環を断ち切れるのか…とお悩みかもしれません。

この記事では精神科専門医の鹿島直之先生に、ストレスによる不眠の対処方法をうかがいました。

目次

不眠の原因、最も多いのはストレス?

不眠の原因は下記のように、大きく5つに分けられます。

  1. 心理的要因(ストレス)による不眠
  2. 生理的要因(騒音や光、室温)による不眠
  3. 身体的要因(身体疾患による、痛みやかゆみなどの身体的苦痛)による不眠
  4. 精神疾患(不安障害や気分障害、統合失調症など)による不眠
  5. 何らかの薬物の影響による不眠

このうち①の心理的要因(ストレス)でもたらされる不眠は最もよく見られるものです。この場合の不眠によって、日中にさらにストレスを感じやすくなり、悪循環になることがあります。その悪循環がうつ病や不安障害の誘因や悪化につながることも珍しくありません。

今回は望ましい睡眠のためのストレス解消法、ストレス解消になるとされている習慣と睡眠の関係についてお伝えします。

1.就寝時のストレス解消法

音楽

眠りの妨げになるストレス、それに対する対処

解決困難に思える物事に対する不安や緊張が、不眠の原因になることは、普通の人でも良く体験することでしょう。

それに対する対処法として有効なことは、それを紙に書き出してみることです。
紙に書き出してみると、心配事が多少整理されるように感じることがあります。そのうえで、それに対して自分が出来ることは何かを考え、それも書き出してみましょう。
すぐに出来ることが思いつかなければ、また翌日に考えるようにし、少しでも気持ちが落ち着いたなら横になりましょう。

横になっても心配なことを考えてしまう場合には、心配事が起こってしまった場合を想像するのではなく、それとは逆に、自分の希望通りに心配事を解決できている自分の姿をイメージするようにしましょう
最初は難しいかもしれませんが、心配事を繰り返し思い浮かべてしまうことも習慣の結果なのです。不安に流されるのではなく、粘り強く望ましいイメージを繰り返し思い浮かべるようにしてみてください。

身体感覚によって不毛な思考から抜け出す

それも無理そうなら、呼吸に集中してみてください
深くする必要はありませんから、ゆっくり自然な呼吸に集中してみましょう。呼吸に集中すれば、心を引っ張っていこうとする不安のことについて考えずに済むからです。

寝ようとして部屋を暗くして横になると、注意を向ける対象がなくなってしまうために、つい望まない考えごとに思いが向かいがちになります。手頃な身体感覚に注意を向けることで、そういった不毛な考えから解放される助けになるのです。

呼吸以外にも、寝床で出来る簡単なストレッチも有効です。片方のこぶしを数秒間握りしめ、力を抜く、これを数回繰り返してみる。あるいは足の指を握りしめ、同じように力を抜いてみるのものいいでしょう。身体の力が抜ける感覚が緊張を緩め、思考から多少とも抜け出せてくれるものです。

音楽

寝る時に睡眠用のBGMを聴くことも役に立ちます。
気持ちを落ち着かせる音楽は寝つきを良くし、睡眠の質を改善させるからです。自然音や、クラシック音楽を集めた睡眠用BGMが市販されています。リラックスさせてくれるものを探してみることも一法でしょう。

ただ、音楽は睡眠の維持には逆効果なので、寝付いた後の睡眠の妨げにならないように、音楽のタイマーをセットするなどして、寝る間際の30分から1時間で音楽が切れるようにしましょう。

15分以上寝付けないとき

寝付けずかえってイライラするときには、寝床から抜け出しましょう
起きた時には、リラックスできるストレッチや瞑想、明るすぎない暖色系の光の下での眠気をもたらすような読書がお勧めです。そういった行動で、眠気が強まったら、再度寝床に戻りましょう。

2.生活習慣

スマートフォン

昼寝

日中の短時間の昼寝はその後の覚醒度や集中力を高める効果があります。しかし、夜間に望ましい睡眠をとるためには、昼寝は午後3時前までの、30分程度が望ましいとされています。

夕方以降の昼寝や、1時間を超える昼寝はかえって睡眠のリズムに悪影響をもたらし、夜の寝つきを悪くします。

運動

就寝2時間以上前の運動は、深い睡眠であるノンレム睡眠を増加させ、眠りの質を改善します。運動すること自体がストレスの発散や、うつ状態の予防にもなるため、毎日の運動は有意義でしょう。

しかし、就寝直前に運動すると深部体温を上げてしまい、眠りの妨げになります。運動で上がった体温が下がってくる頃に眠気が強まるため、運動をする場合には、就寝の2時間以上前にしましょう。

食事

遅く帰宅した後に、過食によってその日のストレスを発散している方がおられますが、これは睡眠には悪影響です。寝る間際に食べた物で睡眠中に消化管が働かされることによって、深部体温が上がり、睡眠に悪影響となるからです。

睡眠の3時間前までに食事を済ませ、それ以降であれば軽めに、揚げ物や肉類は控え、消化のいいものにしましょう

ディスプレー(スマホ、パソコン、テレビ)と日光

ストレス解消のために、寝る前にスマホのSNSを使って友人とコミュニケーションをしたり、ゲームをする人、ないしは動画を見る方が多くおられます。

しかし、ディスプレーから発せられるブルーライトという光を就寝前に見ることによって、睡眠リズムを保ち、寝つきをよくするメラトニンというホルモンが分解されてしまい、寝つきや睡眠の質に悪影響がもたらされます。

そのため、就寝前2時間はディスプレーを見ることを控えたほうがいいでしょう。しかし、朝起きた時、および日中外出して日光を浴びることはむしろ睡眠リズムを維持し、睡眠に好影響があります

入浴

就寝の1~2時間前位にリラックスできるぬるめのお湯(3940度)につかっておくことが、入浴後体温の下がってくる時期に眠気をもたらすことで、寝つきをよくします。ただ、体温が上がること自体は交感神経を興奮させ、不眠をもたらすため、熱すぎるお湯や睡眠直前のお風呂は控えましょう

3.嗜好品

嗜好品

タバコ

リラックスするためと、寝る間際や夜中に目覚めた時に、喫煙する方が多くおられます。

しかし、タバコの主成分であるニコチンは鎮静効果に加え、覚醒作用があり、寝つきを悪くし、眠っている途中で起きやすくなります。しかも体内で代謝されるまで数時間かかります。

タバコは就眠の4時間前までには控えた方がいいでしょう。ただ、ニコチン依存になっている喫煙者の大半の方では数時間の禁煙に耐えられませんから、基本的には禁煙をお勧めします。

なお、睡眠とは直接関連がありませんが、喫煙者では非喫煙者と比べ、10年程度寿命が縮まる報告がなされており、タバコは日常的な嗜好品としても、極めて危険なものです

アルコール

アルコールも催眠効果はあり、寝つきはよくなります。ストレスの解消に用いられるばかりか、寝酒として睡眠薬代わりに用いる方も少なくありませんが、アルコールは医師が処方する一般的な睡眠薬よりもその依存性、毒性ともに強いものです

寝酒として用いているうちに、その効果に慣れてしまい、量が増えていくこともあります。その場合には、アルコール依存症に陥る危険もあるので、精神科の受診をお勧めします。

なお、アルコールは数時間で代謝されてしまうため、睡眠後半のレム睡眠が増え、眠りが浅くなり、早く目覚めてしまうこともあります

また、利尿効果があり、夜間にトイレに起きやすくします。さらに、筋肉を弛緩させる作用から、寝ている時に舌根を沈下させてしまい、気道を狭め、いびきを増やし、睡眠時の呼吸状態を悪化させ、睡眠にも悪影響をもたらすことがあります

晩酌したい方は、睡眠への悪影響を避けるためにも、晩酌は就寝の3時間前までとし、量は日本酒1合、ビール中瓶500ml一本程度が望ましいでしょう

カフェイン

お茶やコーヒー、栄養ドリンクに含まれるカフェインの効果は4時間から6時間は持続するといわれます。カフェインは睡眠を促進する脳内のアデノシンという物質の働きを妨げ、不眠の原因となります

その効果には個人差がありますが、望ましい睡眠のためには、夕方以降はカフェインを含む飲料を控えるか、飲むとしても、一杯程度の控え目にした方がいいでしょう。

まとめ

睡眠には様々な日常生活の習慣や嗜好品が関係します。一般的に、ストレス解消になると考えられている習慣や嗜好品が実は不眠をもたらすことがあります。

しかし、不眠は日中の集中力を低下させ、ストレスや不安をかえって強めてしまいます。ストレスを適切に管理するために、正確な知識に基づき、毎日の良好な睡眠を維持することが重要です。