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歯を失う原因の一つに、歯が割れたり欠けたりする破折、歯が抜け落ちしまう脱臼といった歯の外傷が挙げられます。むし歯や歯周病と比べるとその頻度は決して多くありませんが、スポーツの現場では注意する必要があります。

歯の外傷を防止するために使用するのが、マウスガード(マウスピース)です。アメリカンフットボールなど一部の競技では装着が義務化されていて、それ以外のスポーツ(柔道など)でも選手が自主的に使用しているケースがあります。スポーツ中継などで目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

今回は、マウスガードのタイプやその効果などについて、東京医科歯科大学 スポーツ歯科外来担当の上野俊明先生にお伺いしました。

※トップの画像は東京医科歯科大学スポーツ医歯学分野 様よりご提供いただきました。

お話を伺った先生の紹介

未装着者では歯の外傷リスクが装着者の1.6~1.9倍

--歯の外傷はどういったスポーツにみられますか。

アメリカンフットボールや格闘技、ラグビーなどマウスガードの装着が義務化(一部競技では年齢指定あり)されている競技以外では、レスリングや水球で発生率が高いです。

また、部活動の競技で最も多いのは野球で、ボールのイレギュラーバウンド、ファウルチップなどで発生しています。その次はバスケットボールで、ゴール下でのプレー中に怪我することがあります。

--マウスガードはどんなタイプの歯の外傷にでも効果があるのでしょうか。また、その効果はどれほどなのでしょうか。

歯の外傷は大きく破折性外傷と脱臼性外傷の二手に分かれますが、マウスガードの防御機能はどちらに対しても十分にあります。また、例え外傷が起きても、装着していたことで重症化を防げた例は多々あります。

国際歯科連盟は、様々な競技に関するレポートを総括した結果、未装着の人は装着した人と比べて怪我の発生率が1.6~1.9倍高くなると報告しています。また、連盟は2008年に選手の競技レベルを問わずすべてのスポーツでマウスガードの装着を推奨する声明を出しています。

--歯の外傷予防以外には、どういった効果が期待できるのでしょうか。一部の販売店では、「パフォーマンスの向上」や「脳振盪(のうしんとう)予防」を謳うケースもみられます。

プレー中に「歯の怪我をしない」という安心感につながるかと思います。選手は歯の外傷に対してたかをくくっている部分がありますが、一度経験すると、それ以降(怪我を恐れて)ひるみながらプレーしてしまいがちです。マウスガードを装着して安心と思えれば、しっかりと踏み込めて力を出し切れるのではないかと考えています。

パフォーマンスとの関係については、様々な機関で研究が進んでいます。日頃から噛みしめる習慣がある人では、装着時に筋パワー(筋力×スピード)が少しプラスに働く効果が確認されていますが、まだしっかりとしたエビデンスは出ていません。

脳振盪の予防効果は指摘されていて、実際に装着している人たちから実感する声も挙げられてはいますが、今のところは調査段階です。また、ヘルメットと同様、装着していても起こるときは起きてしまいます。ポイントは装着するだけではだめという点です。例えばラグビーで相手からタックルされるときは、マウスガードを噛んでしっかり構えをとれれば、脳振盪を減らせるというデータが拾えてきています。

--いつごろから装着した方が良いのでしょうか。

体格が大きくなり、また練習内容が本格化していく部活動が始まるので、中学生からが望ましいと思います。また、小学生でも激しくぶつかるスポーツに取り組む場合は、安心のために装着しても良いでしょう。

フィット感などを考えて歯科医師によるカスタムメイドを選ぼう

マウスガード

カスタムメイドのマウスガード。既成品よりフィット感や話しやすさ等が優れています。

--マウスガードにはどういった種類がありますか。また複数あった場合、どれを選択すれば良いのでしょうか。

既成品とカスタムメイド(オーダーメイド)があります。

既成品は安価ですが、どうしてもフィット感に問題が出てきます。既成品は基本的に、熱湯で製品を温めて柔らかくした上で口に入れて成形するタイプです。しかし、熱いうちは口に入れにくいですし、火傷の恐れがあります。また、冷えてから入れたのでは固くなってしまってうまく成形できません。結果として、フィットしないものができあがってしまいます。

うまくフィットしなければ、口を動かしたときに外れやすいですし、しゃべりにくく、呼吸もしにくいです。そうするとマウスガードに対して印象が悪くなってしまう方が多くなってしまいます。「安かろう悪かろう」の体験は避けてほしいです。

--ウェブで検索してみると、カスタムメイドは歯科でつくるパターンと、歯科医師ではない方が作成するパターンが見受けられます。両者で違いはありますか。

マウスガードは医療機器ではないので、法律上は誰でも作れます。ただ、歯型を取れるのは歯科医師だけなので、歯科以外で注文する場合は自分で歯型をとらなければなりません。歯型を取る行為はそれなりにテクニックが必要だと思いますので、良いフィット感を求めるのであれば歯科医師に作成してもらうことをお勧めします。

また、歯科で作成した場合、フォローアップができます。出来上がった後にはめてプレーしてみて、(違和感を覚えて)おかしいなと思ったら、歯科医師に依頼すれば調節することができます。

--カスタムメイドは、歯の治療中や矯正中でも可能でしょうか。

もちろん作れます。マウスガードを装着していたせいで矯正の装置を壊したり、治療の妨げになったりすることがあってはいけません。治療や矯正は進行していくので、デザインや設計、調整の判断はプロに任せる必要があります。

--その他にカスタムメイドの特徴はありますか。また値段はどれくらいでしょうか。

マウスガードはシングルレイヤー(単層式)とマルチレイヤー(複層式)が選べます。マルチレイヤーは、必要な箇所に必要な分だけ厚みがほしい方や、話しやすさ・呼吸しやすさを重視して特定の部分だけ薄くしたい方などに適しています。これらの点が気にならない場合は、シングルレイヤーで十分かと思います。

装着するのは前に出ている上の歯が基本です。ただ、受け口など噛み合わせの関係で下の歯の方が良い場合は、そちらにも対応できます。これもカスタムメイドの強みでしょう。

値段は概ね1万~1万5千円ぐらいかと思います。素材を変えたり、マルチレイヤーにしたりすれば値段は高くなります。予防が目的ですので、保険は残念ながら適応外となります。

--メンテナンスはどのようにすれば良いのでしょうか。また、マウスガードはどれくらい保ちますか。

装着した後はその度に洗浄して乾燥させた状態で、収納ケース(コンテナ)に入れて保管してください。そうした日々のケアをして、歯の定期検診に行くときにゆるんでいないか、裂けていないかなど歯科医師にチェックしてもらってください。そうすれば大体1年は保つかと思います。素材の劣化や修理が効かない場合は、作り変える必要があります。

歯の治療などで形が変わってしまう場合、調整が効けば対応できますが、できなければやはり新調することになります。

いずれにしてもフィットしなくなったときには、自己判断せず歯科を受診してほしいです。

取材後記

一生モノと言われる自分の歯を、できる限り長く残したい気持ちはすべての人に当てはまるかと思います。スポーツは怪我がつきものですが、マウスガードを装着することで外傷、重症化を少しでも防ぐことができます。スポーツに取り組んでいる人は、検討してみてください。また、スポーツ観戦を楽しむ人も、応援している選手が装着しているかどうか確認してみるのも面白いかもしれません。