乳房に痛みを感じたり、母乳の量が充分でなかったり…出産後、お母さん達は授乳に関わるトラブルで悩むことも少なくありません。特に初産婦さんの場合、お母さんも赤ちゃんも授乳と哺乳の初心者同士なので、さまざまなトラブルが起こりやすく、どう対処すれば良いかわからないことも多いのではないでしょうか。ここでは、授乳と哺乳に関わるトラブルとその対処法についてお話ししたいと思います。

目次

1.乳頭トラブル

授乳を通して、乳頭が傷ついてしまうことは少なくありません。特に出産後の早期は、乳頭亀裂などのトラブルが起きやすい時期です。

主な原因として、抱きかたと飲ませかたに問題があることが考えられます。赤ちゃんが適切な位置で適切に乳頭に吸いついているかがポイントです。

まずは乳頭にトラブルが起きたら、適切な抱きかた、飲ませかたができているかを確認しましょう。

1)適切な抱きかた

  1. リラックスして背筋を真っすぐにした姿勢をとり、楽に座ります。
  2. 前屈にならないように乳房を突き出します
  3. 赤ちゃんの頭をお母さんの肘の内側に乗せ、その同じ腕でお尻か大腿を支えます。
  4. 赤ちゃんを抱っこしたとき、胸と胸、臍と臍が合うようにすると、赤ちゃんの口が乳房の正面に来ます。
  5. 赤ちゃんも背筋を伸ばし、前屈しないように顔を少し上向きにします。赤ちゃんの顎が引けると浅い吸いかたになり、乳頭亀裂の原因になります。
  6. 抱きかたは「立て抱き」の他に、「横抱き」「脇抱き」「交叉抱き」などがあり、乳房の状態をみながら、お母さんのやり易い適切な飲ませかたを見つけます

2)適切な乳頭の含ませかたと外しかた

  1. 乳頭の含ませかたは、乳房をアルファベットの「C」の形で持ち、乳頭を真っすぐにして、乳輪部まで深く含ませます
  2. 赤ちゃんに優しく声をかけ、大きな口を開けてもらい、赤ちゃんを引き寄せて乳頭を含ませます
  3. 乳頭が赤ちゃんの口の真ん中にあり、舌の上に乗っていることを確認します。よく吸っていると、顎がしっかり動いて、耳のつけ根まで動きます。しかし、歯茎を乳頭に触れさせて吸わせると、乳頭が歪み、つぶれてトラブルになります。
  4. 乳頭の外しかたは、お母さんの小指を口角から口内に入れて、陰圧になっている口内に空気を入れて外します。または、赤ちゃんの口の端に近い乳房の部分を指で押し、空気を入れて外します。無理やり外すと乳頭を傷めます。

3)乳頭トラブルが起きたら

痛みを我慢して授乳を続けると状態が悪化し、母乳のつまりや乳腺炎、授乳への意欲低下に繋がります。症状の軽いうちに対処することが重要です。産後の入院中であれば看護師や助産師に相談すると良いでしょう。退院後なら、母乳外来や助産師外来をできるだけ早めに受診しましょう。

具体的な対処法の例として、傷のない方から授乳を開始します。授乳前に軽く絞るなどして張りを軽減させてから授乳する方法もあります。

2.乳汁うっ滞(母乳のつまり)

出産直後の早期母子接触に引き続き、早期の授乳と頻回な授乳による赤ちゃんの吸啜(きゅうてつ:おっぱいを吸うこと)によって、乳汁の出口である乳管口が開通します。また、赤ちゃんの乳頭吸啜刺激は、脳下垂体を刺激し、前葉から乳汁産生・分泌を促進するプロラクチンが、後葉から射乳を促進するオキシトシンが分泌されます。

産後3〜4日ほど経つと母乳の出る量が増えてきますが、母乳をうまく排出できない「うっ滞」の状態となることがあります

乳汁うっ滞の原因は乳頭にある乳管口の開通が不十分な場合と、いったん開通した乳管口の閉塞です。その背景として、扁平乳頭や陥没乳頭、お母さんの抱きかた・飲ませかた、食事の内容に問題がある場合など、さまざまなものが考えられます。授乳の際に助産師や看護師にチェックしてもらいましょう

3.乳腺炎

乳腺炎は、乳房が炎症を起こした状態です。

乳汁うっ滞の状態が長引いて乳腺炎になってしまうケース(うっ滞性乳腺炎)、細菌に感染したケース(化膿性乳腺炎)があります。

乳房の圧痛、熱感、腫脹などの症状のほか、悪化することで38.5度以上の発熱や悪寒、からだの痛みなどの症状が出る場合があります。

症状が出た場合にはすぐに産婦人科を受診しましょう。一般的な治療内容として、乳房熱感部の局所冷却、抗炎症薬・抗菌薬の投与などが行われます。

乳房の局所冷却は保冷パックをガーゼやタオルに包んで使用します。

また、細菌感染を防ぐためにも授乳前に手洗いをするようにしましょう

4.母乳分泌不全

母乳分泌不全とは、母乳の分泌量が足りない状態のことです。

初乳は出たものの、母体側の原因(肥満、糖尿病、乳房への手術既往、大量出血後の脳下垂体機能不全など)によってその後の母乳の生成が低下しているケース(原発性母乳不全)と、赤ちゃんへの授乳量が足りない状態が続くことで母乳の分泌量が伸びず、母乳が出なくなっているケース(続発性母乳分泌不全)があります。

母乳は赤ちゃんが吸う刺激や搾乳することによって分泌量が増えていくため、できるだけ早期から頻回に授乳することで母乳の分泌量アップにつながります

番外編-乳腺腫瘍

乳腺炎の治療で抗菌薬を使用しても治療効果が表れず、乳房に赤色もしくは暗赤色のしこりがあり、押さえると痛い場合、膿瘍(のうよう:膿がたまっている状態)ができている可能性があります。穿刺や切開を行い、膿を排出するなどの治療が必要になります。これらの治療でも効果がない場合には、悪性腫瘍の可能性があります。乳房にしこりを感じたら早めに産婦人科を受診しましょう。

まとめ

乳房や母乳のトラブルは、お母さん自身が辛いだけではなく、哺乳に支障をきたすため、赤ちゃんも辛い思いをします。授乳のしかたが原因となっていることもありますので、異常を感じたら早めに相談・受診し、適切な助言や治療を受けることが大切です。特に痛みを感じる時には放置してしまうと悪化してしまうこともあるため、我慢しないようにしましょう。できるだけ授乳を続けながらトラブルを解消することが肝要です。