「チョコレート嚢胞がある」と言われても、どういう状態なのかピンと来る人は少ないかもしれませんね。名前だけなら甘いお菓子を思い浮かべそうですが、実は卵巣がんのリスクを高めてしまう病気のため、しっかりと管理、治療していかなくてはいけないものです。ここではチョコレート嚢胞の症状や放置した場合のリスク、治療・検査法などについてお話ししたいと思います。
チョコレート嚢胞とは
チョコレート嚢胞は、子宮内膜症が卵巣にできた状態です。
子宮内膜症とは、本来は子宮の内側にしかないはずの子宮内膜が、卵巣や腹膜などで増えてしまう病気です。
生理のある女性の約10%に見られると言われており、決してめずらしいものではありません(日本婦人科腫瘍学会より)。一方で、原因はまだ明らかになっていない病気でもあります。
子宮内膜は生理周期に合わせて増殖し、子宮から剥がれて生理として体外に出て行くものです。
卵巣に子宮内膜が増殖したらどうなるでしょうか?子宮は膣と繋がっており、出血は体外に出ていくことができますが、卵巣は外に繋がる器官がありません。
そのため、卵巣で子宮内膜症が発症すると、出て行くことのできない出血が古くなり、ドロドロのチョコレート状になって溜まって嚢胞となります。この状態からチョコレート嚢胞と呼ばれているのです。
他の内膜症と比べて破裂や感染をきたしやすく、がんなどの卵巣腫瘍との鑑別が必要です。また、病変そのものや手術が卵巣の機能に直結するという特徴があります。
どんな症状が出る?
チョコレート嚢胞(子宮内膜症)の症状としては下記が挙げられます。
- ひどい生理痛
- 生理時以外の下腹痛
- 腰痛
- 性交痛
- 排便痛
生理痛は生理のたびに痛みが強くなっていく特徴があり、患者さんの約90%が訴えます。
このほか、子宮内膜症の患者さんは不妊症になるリスクが高くなります。
卵巣がんとの関係
チョコレート嚢胞は卵巣がんとの関係が大きく、患者さんの約0.7%に卵巣がんの合併が見られます。
特に40歳以上もしくは、嚢胞の大きさが10cmを越えている場合、卵巣がんとの合併率が高くなるため注意が必要です(産婦人科診療ガイドラインより)。
もし、無治療の場合や治療を中断した場合、卵巣がんのリスクが高くなるだけでなく、嚢胞の破裂や感染の危険性もあります。ですが治療を受けることで危険性はかなり低下しますので、放置せず早めに婦人科を受診しましょう。
検査方法について
まず、問診で自覚症状のチェックが行われます。そして、内診やエコー検査で、子宮や卵巣の状態を見ていきます。必要な場合にはMRI検査などでより詳しく状態を確認していくことになります。
血液検査では卵巣がんの診断に必要なCA125やCA19−9という腫瘍マーカーなどの項目が検査されます。
治療法について
年齢や嚢胞の大きさ、将来も含めた妊娠の希望の有無などを考慮して治療方法が選択されます。
妊娠希望があり、嚢胞が比較的小さい場合などには経過観察となることもあります。
ですがチョコレート嚢胞は他の内膜症に比べて破裂や感染をきたしやすいことなどから、手術療法が優先されることが多い状態でもあります。
手術と聞くと身構えてしまうかもしれませんが、多くの場合は傷が小さくてすむ腹腔鏡下手術で行われます。
卵巣摘出、嚢胞摘出、嚢胞壁焼灼、エタノール固定、吸引洗浄など、どのような手術をしていくかは患者さんの状態や妊娠希望なども鑑みて選択されます。
また、子宮内膜症の治療にあたっては、痛み止めやホルモン剤などの薬物を使うことがあります。
ホルモン剤は、子宮内膜症の進行を止め、病巣を委縮させる効果が期待できます。さらに、手術療法の後にホルモン剤を利用することで再発率が低下することがわかっています。
まとめ
チョコレート嚢胞は卵巣がんの合併率が高いため、放置しないことが大切です。
がんと聞くと不安になってしまうかもしれませんが、きちんと治療すればコントロールできるものでもあります。
また、治療によってそれまで月経痛に悩まされていた方は症状が軽くなることが多いですので、主治医と相談して治療方法を決めていきましょう。