高血圧が動脈硬化や心臓病、腎臓病を引き起こすことは広く知られていますが、なかでも早朝の高血圧と病気との関連が注目されています。早朝高血圧とはどういうものでしょう?原因や予防法を、医師・吉澤 威勇先生による監修記事で解説します。

目次

血圧は変動する

血圧は常に変動しており、運動や入浴時のほか、痛みがあるときや興奮したりストレスがあったりするときには血圧は上昇しています。また夜間の睡眠・臥床から早朝の覚醒・起立に変化し、それに一致して血圧も上昇します。

こうした活動や刺激を原因として起こる一時的な血圧上昇のほかにも、血圧は1日の中でも変動(日内変動)しています。

血圧の日内変動-図解

血圧は1日中一定しているわけではありません。体の動きや感情の変化などに影響されて、高くなったり低くなったりしています。通常、血圧は夜寝ている間は低く、朝方から午前中にかけてゆっくりと上昇し、昼間は高くなっていきます。
ところが最近、治療している高血圧の患者さんの中で、昼間の血圧は正常でも朝の血圧が高くなる患者さんがいることが分かってきました。このような高血圧が早朝高血圧と呼ばれ、注目されています。

早朝高血圧とは、早朝家庭で測定した血圧平均値が135/85mmHg以上の場合と定義しています。早朝高血圧は外来の診察室で測定すると正常で、治療を受けている場合でも、あたかもうまくいっているようにみえるため見過ごされやすい疾患です。また、高血圧の中でも特に危険なのは早朝高血圧といわれています。早朝には脳卒中や心筋梗塞などの発症が多く、早朝血圧は脳・心臓・腎臓すべての心血管リスクと有意に関連しています。

症状もなく、気づかないうちにこれらの疾患が発症する可能性があり非常に危険です。

早朝高血圧が起こる原因と危険性

睡眠から目覚める早朝時には交感神経の働きが活発になることから血圧は生理的に上昇します。

こうした生理的な血圧変動は健康な若年層には問題になることがありませんが、以下のようなケースには注意が必要です。

1.高血圧の服薬治療が不十分である

降圧剤(高血圧の治療薬)を服用している人の中には、効果が十分に得られていないため夜間から明け方にかけて血圧が上昇するケースがあります。

2.糖尿病や腎臓病、睡眠時無呼吸症候群などの持病がある

自律神経の障害を来すとされるこれらの病気は、夜間も血圧が下がらず明け方にかけて上昇し、早朝高血圧の状態になりやすいといわれています。

3.高齢者

高齢者の場合は、夜間血液が濃くなった状態血圧上昇が起こることで、脳卒中心筋梗塞などの病気を発症するリスクが高くなります。

4.不規則な生活、精神的なストレス、深酒

日中の血圧が正常値で健康診断などで高血圧と診断されていない人の中にも、早朝高血圧の状態にあったり、そのリスクが高い場合があります。

自律神経の障害を起こしやすい睡眠不足不規則な睡眠睡眠の質を低下させるストレスなども早朝高血圧の原因となります。

また、深酒は睡眠の質を低下させるだけでなく脱水を引き起こすことからも、さらに早朝高血圧のリスクを高めます。

早朝高血圧の症状

一般的に、高血圧は自覚症状のない場合もあれば、頭痛、頭重感、めまいなどの症状がみられる場合があります。早朝高血圧もこれらの自覚症状と相違はありません。

しかし、前項のようなリスクがある場合は、脳卒中や心筋梗塞などの重篤な症状を突然発症する場合があります。

早朝高血圧の予防法

1.急に起床しない

急激に身体を動かすことを控え、まずは布団の中でゆっくりと深呼吸し軽く身体を動かしましょう

目が覚めてから5~10分ほど布団の中で過ごしてから起床するとよいでしょう。

2.急激な血圧の変動を予防する

暖かい布団の中から冷えた室内に出るだけでも血圧は変動します。特に冬期はあらかじめ室内やトイレを暖めておくことも有用です。

このほか、冷たい水で顔を洗うことや冷たい飲み物を飲むことも急激な血圧変動を引き起こすため注意が必要です。

3.血圧の自己測定

医療機関や健診機関、会社の保健室などで血圧を測る場合、緊張や不安、環境によって通常よりも数値が高く出る傾向があります。

自分の血圧を正しく把握するためには、自宅で決まった時間条件で血圧を測定し、記録していきましょう。

降圧剤を服用中の人は、適切な薬の効果を得るためにも、主治医に血圧測定時間を相談し、その経過を報告しましょう。

4.正しい服薬

服薬は指示された用法容量を守り、正しく服用しましょう。

夜勤などの変則勤務、食事や睡眠が不規則になる場合は、服用時間について医師に相談しておくことも必要です。

他の薬や食事との飲み合わせに注意が必要な薬もありますので、薬を受け取る際に薬剤師の説明も充分に聞いておきましょう。

5.基本的な食事療法

早朝高血圧の場合も、一般的な高血圧の食事療法と同じく減塩カロリーコントロールを心掛けましょう。

詳しい食事療法については、こちらの記事「高血圧を防ぐ生活習慣とは」をご参照ください。

6.自律神経を整える生活を

自律神経障害をきたしやすい不規則な生活やストレスを解消しましょう。

寝る直前までTVやDVDを視聴したり、パソコン、スマホなどを使用したりすることも自律神経を興奮した状態にすることから、質のいい睡眠の妨げになります。

日頃から適度な運動を行うことも自律神経を整えることに繋がります。しかし、早朝のジョギングやウォーキングは注意が必要です。できるだけ起床時から時間をおき、高血圧の治療を受けている人は必ず主治医に相談しましょう。

今回の記事の内容を、一枚の図にまとめました。

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早朝血圧のメカニズムと予防法-図解

まとめ

早朝高血圧は脳卒中や心筋梗塞の原因となりやすい症状です。しかし、日中は血圧が正常な場合もあることから気付かずに過ごしているかもしれません。

日頃から生活習慣を整え、気になる症状がある場合は早めに医療機関を受診しましょう。