日本人には高血圧が多く、実に3人に1人が高血圧です。高血圧は、適切な治療を行わないとその後様々な疾患を合併症として引き起こすことも言われている疾患です。ここでは、2014年に改定された高血圧ガイドラインに沿って、その治療薬について解説します。

目次

「高血圧」はどのくらいの数値を指すの?

「血圧が高い」といった時の基準となる数値は、下図のように定められています。
140/90mmHg以上が高血圧と定められていますが、これは日本だけでなく世界中で共通して用いられている基準です。

成人における血圧値の分類

  分類 収縮期血圧   拡張期血圧




至適血圧 < 120 かつ < 80
正常血圧 120-129 かつ/または 80-84
正常高値血圧 130-139 かつ/または 85-89


I 度高血圧 140-159 かつ/または 90-99
II 度高血圧 160-179 かつ/または 100-109
III 度高血圧 ≧180 かつ/または ≧ 110
(孤立性)収縮期高血圧 ≧140 かつ < 90

出典:高血圧ガイドライン p.19

収縮期血圧(最高血圧)は、心臓が収縮して血液を押し出したときの血管に最も圧力がかかる時の血圧、拡張期血圧(最低血圧)とは、収縮した後、心臓が広がり圧力がいちばん低くなる時の血圧です。

至適血圧が、心血管病の累積死亡率が最も低いとされる血圧です。
正常血圧でも、至適・正常・正常高値と上がっていくに従って心血管系の発症率が高くなることが知られています。

また、(孤立性)収縮期高血圧は、拡張期は上がらず収縮期だけ上がる状態のことをいいます。

正常高値を示すようであれば、定期的なチェックと食生活の見直しを始めても良いかもしれません。
高血圧を示す場合は、早めに医師の診察をうけるようにしてください。

 

なお、上記の表は病院や診察室で測定した時の値(診察室血圧、外来血圧)を分類したものです。
血圧は測定する環境によって値が異なる場合があります。

たとえば、医師の前では緊張して血圧が上がってしまうことがあるのです。
家庭で測定した血圧は家庭血圧といい、家庭血圧では上図よりやや低めの135/85mmHg以上が高血圧の基準とされています。

詳しくは、「高血圧って何がいけないの?高血圧が引き起こす主な病気5つ」をご覧ください。

降圧薬治療薬はどのようなものがあるの?

現在、高血圧の治療において用いられる主な薬(降圧薬)には以下のようなものがあります。ここからは、それぞれの特徴をご紹介します。

カルシウム拮抗薬

カルシウム拮抗薬は、血管を拡げて血圧を下げる、最もよく使われるタイプの薬です。

ジヒドロピリジン系とベンゾジアゼピン系とがあり、降圧目的ではジヒドロピリジン系が主に用いられます。

主な種類:アムロジピン(商品名:アムロジン・ノルバスク錠)、ニフェジピン(商品名:アダラート錠)など

主な副作用動悸、頭痛、ほてり感、浮腫、歯肉増生や便秘など

注意点:グレープフルーツやセントジョーンズワートとは併用しないでください。

ARB

ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)は、Ca拮抗薬に次いでよく使用されている降圧薬です。
血管の収縮を抑えることで血圧を下げるはたらきがあります。長期的に腎機能の悪化を抑えるといわれています。妊娠中・授乳中の方は服用できません。

主な種類:ロサルタン(商品名:ニューロタン錠)、テルミサルタン(商品名:ミカルディス錠)、イルベサルタン(商品名:アバプロ錠)など

主な副作用:めまいなど(ただし頻度は低い

注意点:慢性腎臓病患者さんが初めて内服する場合、腎臓機能が低下することがあるので要注意です。

ACE阻害薬

昇圧系と呼ばれ、血圧を上げる働きを持つ血中のレニン・アンジオテンシン(RA)系を抑制して血圧を下げます。冠動脈疾患の発症リスクを抑えるということがわかっています。

主な成分:カプトプリル(商品名:カプトリル錠)、エナラプリル(商品名:レニベース錠)、アラセプリル(商品名:セタプリル錠)など

主な種類:作用する過程で、体内で増えるブラジキニンという物質による空咳がみられることがあります。

2~3割の方に投与後1週間から数ヶ月で見られ、服用をやめると症状はすぐになくなります。
この副作用の空咳が、かえって高齢者の誤嚥性肺炎を防ぐのに有効だという報告もあります。

注意点:一部の糖尿病治療薬と併用した場合、血管神経性浮腫(突然皮膚や喉、舌などが腫れ、息苦しくなる症状)が起こる場合があります。

もしもこの症状がみられた場合、ただちに医師や薬剤師に連絡してください。
また、ARBと同様に慢性腎臓病患者さんが初めて内服する場合、腎臓機能が低下することがあるので要注意です。

利尿薬

日本人は塩分摂取量が多く、食塩摂取量を減じることで下がる高血圧が多いので、高血圧治療においてはまず減塩することが重要です。

減塩が困難な患者さんの場合、利尿薬を少量から服用することがあります。
利尿薬は塩分(Na)を尿からの排泄を促し、血圧を下げる薬です。

主な種類:トリクロルメチアジド(商品名:フルイトラン錠)、ベンチルヒドロクロロチアジド(商品名:べハイド錠)、ヒドロクロロチアジド(商品名:ヒドロクロロチアジド錠「トーワ」)など

主な副作用:低ナトリウム血症、低カリウム血症などの電解質異常、耐糖能低下、高尿酸血症などの代謝系への影響がみられることがあります。

注意点:塩分の排出を促す際に、正常だった体内のカリウムも減りすぎて低カリウム血症になることがあります。

低カリウム血症予防としては、カリウムを排出しないタイプの利尿薬やカリウム製剤を併用したり、果物などを積極的に摂取したりします。

β遮断薬

血管を拡げ、昇圧系を抑え、心拍出量(心臓から血液が送り出される量)を抑えることで血圧を下げます。
高血圧と診断された後、最初に使う第一選択薬からは外れていますが、必要に応じて使用することのある薬の一つです。

カルベジロールのようなαβ遮断薬は代謝性の副作用を示さなかったという報告があります。

主な種類:アテノロール(商品名:テノーミン錠)、ビソプロロール(商品名:メインテート錠)、ベタキソロール(商品名:ケルロング錠)など

主な副作用:作用の影響で脈拍数が減少する徐脈があります。また、糖・脂質代謝に悪影響を及ぼすことがあります。

注意点:喘息患者さんは服用することができません。

主要な降圧薬を積極的に適応する病態

カプセルと錠剤

以下の表では、症状や合併症に合わせ、積極的な適応が望ましいとされる場合は●が入っています。

薬の使用が制限されるような禁忌(後述します)がない場合、最初に投与するべき降圧薬としては「Ca拮抗薬」、「ARB」、「ACE阻害薬」、「利尿薬」があります。

  Ca拮抗薬 ARB/ACE
阻害薬
サイアザイド系
利尿薬
β遮断薬
左室肥大
心不全 ●*1 ●*1
頻脈 ●*2
狭心症 ●*3
心筋梗塞後
CKD (蛋白尿-)
(蛋白尿+)

脳血管障害慢性期
糖尿病/MetS*4
骨粗鬆症
誤嚥性肺炎 ●*5

*1 少量から開始し、注意深く漸増する *2 非ジヒドロピリジン系
*3 冠攣縮性狭心症には注意 *4 ACE阻害薬
出典:高血圧ガイドライン p.46より

主要降圧薬の禁忌や慎重使用となる病態

さらに、ガイドラインでは降圧薬の分類ごとに、使用してはいけないとされている場合や慎重に使用すべきとされる場合についても記載されています。

降圧薬 禁忌 慎重使用例
Ca拮抗薬 徐脈(非ジヒドロピリジン系) 心不全
ARB 妊娠高カリウム血症 腎動脈狭窄症*
ACE阻害薬 妊娠、血管神経性浮腫
高カリウム血症
特定の膜を用いるアフェレーシス/血液透析
腎動脈狭窄症*
利尿薬
(サイアザイド系)
低カリウム血症 痛風
妊娠
耐糖能異常
β遮断薬 喘息
高度徐脈
耐糖能異常
閉塞性肺疾患
末梢動脈疾患

*両側性腎動脈狭窄の場合は禁忌
出典:高血圧ガイドライン p.46

まとめ

本記事では、高血圧治療に用いられる代表的な薬をご紹介しました。この他にもいくつか種類があります。

医師は患者さんの治療を行う際に、合併症なども鑑みて使用するお薬を選びます。患者さんにとって重要なのは、処方された薬をきちんと飲み続けることです。

高血圧は、薬を飲めばすぐに治る病気というわけではありません。サイレント・キラーとも呼ばれる高血圧、命の危険が生じる前にきちんと治療しましょう。