高血圧を放置していると徐々に全身の血管の動脈硬化が進み、脳卒中、心筋梗塞、腎不全などの合併症を引き起こします。
高血圧はサイレントキラー(沈黙の殺人者)とも呼ばれており、気付かない間に心臓や血管に悪い影響を与えて命を落とす可能性もあります。

今回は高血圧の受診の目安や治療法などについてご紹介します。

目次

高血圧とは?

日本で高血圧がある人は約4300万人、つまり国民の3人に1人は高血圧と言われています。
また高血圧に関連する病気で死亡している人数は、1年間で約10万人です。

これらの理由には、日本人の塩分摂取量が多いことや食生活の欧米化で肥満傾向にあることなどが挙げられます。

血圧とは、心臓から送り出された血液が動脈の壁を押す力のことです。
心臓が収縮した時が最大の圧力となり、収縮期血圧(上の血圧)と呼びます。

逆に、拡張した時の最小の圧力を拡張期血圧(下の血圧)と呼びます。
心臓は収縮と拡張を繰り返して血液を送り出しており、それに応じて血圧は上がったり下がったりします。

高血圧は、この血管の圧力が何らかの原因で異常に高くなってしまっている状態で、血管は必死にその高い圧力に抵抗しようとします。
その結果、血管が酷使されて硬くなったり(動脈硬化)、耐えられなくなって破裂して脳の血管に出血を起こしたり(脳出血)、心臓の血管が裂けてしまうこと(大動脈解離)があります。

高血圧は90%が明らかな原因が特定できない本態性高血圧で、残りの10%が腎臓や副腎、甲状腺などの病気によって高血圧が誘発される2次性高血圧と言われています。

高血圧の合併症とは?

頭を抱えた女性

高血圧は様々な合併症を引き起こすので早期発見、早期治療が大切です。以下に主なものを挙げます。

心疾患

長期間の高血圧は動脈硬化を引き起こし、心臓の血管を傷つけ狭心症、心筋梗塞のリスクになります。

また体の中心を通っている重要な血管である大動脈は、高血圧により血管の壁に異常な圧力がかかり、血管が裂けてしまい大動脈解離を引き起こすことがあります。
この病気は、血管が裂ける激烈な痛み(胸痛や背部痛)が特徴で、死亡率も非常に高いです。

脳血管疾患

高血圧により異常な圧が脳の血管にかかり、その結果血管が破れ出血を起こした状態を脳出血と言います。
脳出血は緊急手術になることもあり、もし仮に助かったとしても重い後遺症が残る可能性があります。

また、高血圧による動脈硬化で脳梗塞認知症の発症も増加することがわかっています。

腎疾患

腎臓は血管に富んだ臓器のため、長期間高血圧にさらされていると徐々に腎臓の組織が破壊され、腎機能が落ちていきます
さらにこの状態が続き末期腎不全の状態となると、自分の力で尿や体の中の毒素などを排泄できなくなるので透析が必要になります。

末梢動脈疾患

高血圧による動脈硬化が進むと手や足の血管が徐々に狭くなり、さらに血管が詰まってしまう場合があります。
閉塞性動脈硬化症になると、生活に支障が出るくらいの痛みや冷感が出て、手術が必要になることもあります。

高血圧の受診の目安は?

健診で140/90mmHg以上、または家庭で血圧を測定して135/85mmHg以上であれば一度受診を検討しましょう。
時々、「血圧の薬を飲み始めると一生飲まなくてはいけないから嫌だ」と受診に気が進まないという人もいますが、生活習慣を修正して血圧のコントロールが良くなれば薬は不要になることもあります。

しかし、治療せず放置することで、高血圧の合併症の発症リスクが高まります。

もしどうしても気が進まない場合は、1か月間自宅で血圧測定し記録してみましょう。
それでもやはり血圧が高ければ、その記録を持って病院に行くとお医者さんの診断材料にもなりますし、自分の健康を考える良い機会になります。

高血圧に関する検査は?

高血圧の診断のための血圧測定検査は、以下のように3種類あります。

診察室血圧測定

診察室血圧とは、病院や診療所で測定する血圧のことです。病院に来ると緊張してしまい、いつもより血圧が高くなってしまうことを白衣高血圧と呼びます。
白衣高血圧で、血圧測定値にあまりに違いがある場合は家庭血圧を参考にします。

家庭血圧測定

理想的な家庭血圧測定方法は、1日2回朝・晩測定です。朝は起床後1時間以内、排尿後、座位で1-2分安静後、朝食前が良いです。
また晩は、就寝前に座位で1-2分安静後に測定しましょう。

家庭では診察室よりも低めになることが多いので、135/85mmHg以上の時に高血圧と診断します。
家庭血圧をきちんと測定すると血圧の日内変動を知ることができます。

早朝高血圧といって、朝に高血圧になっている人もいますので、家庭血圧測定をしないと分からないこともあります。

血圧計は上腕で測定するタイプがおススメです。日本高血圧学会も家庭血圧測定を推奨しています。

24時間自由行動下血圧測定

自動血圧計を体につけて、15-30分ごとに血圧を測定します。普段の行動に伴う血圧の日内変動を正確に把握できる方法です。
先ほど説明した白衣高血圧、早朝高血圧だけでなく、寝ている間に高血圧になる夜間高血圧、職場で高血圧になる職場高血圧なども診断できます。

また、これに加えて糖尿病脂質異常症(高脂血症)肥満心疾患の治療歴の有無喫煙歴などについて調べるために採血や身体検査を行います。

高血圧の治療法とその意義は?

カルテを見つめるドクター

高血圧の治療方法は、生活習慣の修正(非薬物療法)薬物療法の2つです。薬物療法を開始しても、生活習慣の修正は引き続き行います。
高血圧を治療すると怖い合併症の進行や命に関わる病気を防ぐことができます。

生活習慣の修正項目

  1. 減塩6g/日未満
  2. 野菜・果物:野菜・果物の積極的摂取
  3. 脂質:コレステロールを控え、魚を積極的に摂る
  4. 減量BMI(体重(kg)÷[身長(m)×身長(m)])が25未満
  5. 運動:有酸素運動を定期的に(毎日30分以上)行う
  6. 節酒:エタノールで男性は20-30ml/日以下、女性は10-20ml/以下
  7. 禁煙受動喫煙の防止も含む

出典:高血圧治療ガイドライン2014を元にいしゃまち編集部作成

2011年の国民健康・栄養調査では、国民1人1日あたりの食塩摂取量は平均10.4g(男性11.4g、女性9.4g)と以前の平均12gよりは低下傾向ですが、世界保健機関(WHO)が推奨している5g/日未満にはまだ到底及んでいません。

高血圧でなかったとしても、普段から健康のために減塩を心掛けることが大切です。

薬物療法

血圧を下げる薬(降圧薬)には多くの種類があります。大きく分けると7つのグループに分かれます。

具体的には、

  • カルシウム拮抗薬
  • アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬
  • アンジオテンシン変換酵素阻害薬
  • 利尿薬
  • ベータ遮断薬
  • アルファ遮断薬
  • 交感神経遮断薬

です。これらは作用する場所や方法が違い、薬によっては心臓や腎臓の保護作用があるものがあります。

医師は日本高血圧学会が提唱する高血圧治療ガイドラインに従い、それぞれの病気に最適な薬を選びます。
例えば高血圧で糖尿病や心臓の病気を伴う患者さんには、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬やカルシウム拮抗薬等が第1選択になることが多いです。

1種類で十分に降圧できない場合は、いくつかのグループの薬を組み合わせます。最近では合剤といって、1錠に2つのグループの降圧薬を含むものもあります。

 

まとめ

いかがでしたでしょうか。

高血圧は治療すべき病気で、生活習慣の是正や薬の内服で改善し、結果として命に関わる怖い合併症を予防できることを理解していただけたでしょうか。

まずは家庭で自分の血圧を測定する習慣をつけて、135/85mmHg以上が続くようであればお医者さんに早めに相談しましょう。