生活習慣に少し気を配れば予防に繋がるのが、がんです。日頃の生活の中で、予防に取り組んでいる方もいることでしょう。しかし、そんな風にがん予防に気を配っている人たちには気になる情報が舞い込んできました。ソーセージやハムをはじめとする加工肉には発がん性があると、WHOの国際がん研究機関の研究グループが発表したのです。一体、これはどういうことなのでしょうか?

目次

今回の発表の概要

まずは、今回の発表の内容について確認しましょう。

IARC(国際がん研究組織)は2015年10月26日、加工肉には「Group1:人に対して発がん性がある」赤肉(牛・豚・羊などの肉。「赤身肉」とは異なります)は「Group2A:人に対しておそらく発がん性がある」との見解を発表しました。

このGroup1とは聞き慣れない分類ですが、これはIARCが判定している発がん性の強度です。Group1から4まであり、それぞれ以下のような基準です。

Group 1 ヒトに対して発がん性がある
ヒトにおいて「発がん性の十分な証拠」がある。例:アスベスト、喫煙、アルコール飲料、ディーゼル車の排ガスなど
Group 2A ヒトに対しておそらく発がん性がある
ヒトにおいて「発がん性の限定的な証拠」があり、実験動物において「発がん性の十分な証拠」がある。例:日焼けランプの照射、ディーゼルエンジンの排気ガスなど
Group 2B ヒトに対する発がん性が疑われる
ヒトにおいて「発がん性の限定的な証拠」があり、実験動物では「発がん性の十分な証拠」があると言えない例:アセトアルデヒド、ガソリン、コーヒー(膀胱がんのみ)など
Group 3 ヒトに対する発がん性について分類することができない
ヒトにおいては「発がん性の不十分な証拠」であり、実験動物にでは「発がん性の不十分な又は限定的な証拠」の場合例:原油、軽油、印刷インク、茶、ヘアダイ製品など
Group 4 ヒトに対しておそらく発がん性がない
ヒト及び実験動物において「発がん性がないことを示唆する証拠」がある例:カプロラクタム(ナイロンの原料となる化合物)

出典:IARC

IARCは加工肉の発がん性に関して、「sufficient evidence(十分な証拠)」に基いて分類したと発表しています。特に、加工肉を大量摂取すると大腸がんを引き起こす可能性があるということです。IARCは、加工肉を1日に50グラム以上摂取すると大腸がんのリスクが18%高まると警告しました。50グラムというとソーセージ3ハム4程度。ハンバーグを1個食べるだけで超えてしまう量です。

本当に加工肉は危険なの?

caution

かなりショッキングなこのデータ。世界中から問い合わせが殺到した結果、WHOは10月29日に「加工肉を食べる量を減らせば大腸がんになるリスクが減る。しかし、加工肉を一切食べるなということではない」との声明を発表しています。

とはいえ、加工肉がアスベストやタバコと同じくらいの発がん性を持っている、となると怖いですよね。一体、どうすれば良いのでしょうか?

日本人の赤肉加工肉量は世界で最も少ない

今回、IARCがデータの基とした全世界地域の赤肉摂取量は、1日に50~100gでした(中には、200g以上もの赤肉を摂取している地域もあったといいます)。では日本人はどのくらい赤肉・加工肉を食べているかというと、1日あたり63g(2013年の国民健康・栄養調査より)。このうち赤肉が50g、加工肉はわずか13gでした。これは、世界的に見て最も摂取量の低い国の一つに入ります。

日本人の赤肉加工肉摂取と大腸がんのリスク

さらに2011年に行われた調査によると、赤肉の摂取量が多い女性では結腸がんのリスクが高くなり、赤肉にかぎらず肉類全体を毎日100g以上食べる男性や、赤肉を毎日80g以上食べる女性の結腸がんリスクが高くなるというデータが得られました(男性では、赤肉摂取量による明らかな結腸がんリスク上昇はみられなかったということです)。

一方で男女ともに、加工肉を摂取したことによる結腸がん・直腸がんのリスク上昇は見られませんでした。ただし、加工肉の摂取量が最も多い10%の男性のグループでは、摂取量の少ない10%に比べて結腸がんの発生リスクが1.37倍になりました(多目的コホート研究)。

つまり、日本人が一般的に食べる量であれば、加工肉は大腸がんや結腸がんのリスクに影響はないか、あったとしても小さなものだといえます。しかし、著しく大量に食べる一部の男性では、結腸がんの発生リスクを高める結果となるようです。

日本人の肉類摂取量が増えてきている

加工肉の食べ過ぎは結腸がんのリスクを高めるというデータをご紹介しました。しかし、赤肉の摂取量とがんのリスクについては、上記の調査では特に関連が見られません。赤肉に限らず、すべての肉類の摂取量が多い男性の結腸がんリスクが高くなったという結果が出ていることから、注意すべきなのは赤肉以外も含めた肉類の食べ過ぎだといえるでしょう。

このほか、今回のIARCの発表に際して日常生活で気を付けるべきことを、消化器病専門医・高山哲朗先生にお聞きしました。

消化器病専門医高山先生のコメント

聴診器

発表を見ると「肉を食べると癌になる」または「肉はたばこと同じくらい悪い」というイメージが入りやすいかと思いますが、そういうことではありません。WHOの発表の意図も「肉を食べるな」ということではないでしょう。

肉の摂取と発がんの関係については昔から言われており、欧米式の食生活に伴い大腸がんが増えているということも言われ続けています。国内の研究ではがんセンターの研究にあるように、やはり肉の摂取は大腸がんのリスクを高めると言えます。

ただ、エビデンスのレベルとしては同じようにがんを起こしうるものだとしても、たばこやアルコール、排気ガスなどと同列に並ぶのには違和感があります。それは、肉については普段から誰もが摂取する食品ですが、他のものは嗜好品であったり、他の疾患のリスクも上げたりするなど、明らかに害があると思われるようなものだからです。煙草を吸わなくてもいいように、肉を食べないと死ぬわけではないという意見もありますが、程度の問題でしょう。

今回の事実でもあるように、食べ過ぎは良くない、がんとの関連が確かであると判断できるレベルになったので過剰に摂らないように程度の伝え方が妥当だったように思います。また、広く検証を行うためにも判断の根拠となった論文を明示する必要性があると思います。

摂取する必要が無いものと、日常的に摂取するものを同列に並べてしまって報告したところが一番の問題のように思います。繰り返しになりますが、肉類は食べなくても生きてはいけますし、加工肉についても同じことが言えます。ですが、それらによって摂れる栄養がある事も事実です。

このように、馴染みがあり、効果もありそうな食品が対象となるのであれば、それらの効能を示し、それらを天秤にかける必要性についても示す必要性があるように思います。また統計学的なことを考えた場合には、危険性が上がりはするが自分の場合に必ずなるというわけでもありません。食べなかった場合にはどうなるのかということも分かりません。

今回のWHOの発表は、影響力の強さを考えるとより慎重になっていただく必要があり、発表の仕方について問題があるように思います。しかし、肉を食べると癌になる可能性が上がると言われてきたことに見解を示した点は評価できることです。データとしては、国立がんセンターの出している日本人における発がんのリスクなどがより妥当であるし分かりやすく、論文の内容も示されているのでより分かりやすいものであると思います。

重要なのは肉の食べ過ぎはよくなさそうだと思うことくらいでしょう。

一つ注意したいのは、今回の発表では「加工肉に含まれている○○がいけない」とは言っていない点です。「WHOは本当はそのことを言いたいのだ」といった意見もありそうですが、これも捉え方の問題で、可能性を考えるきっかけの材料としてとらえるのはいいと思います。加工肉に共通して入っている成分が存在するのであれば可能性はありそうですが、「○○はだめだ」「だから△△をとれ」といった反応は行き過ぎた都合の良い理論展開になりかねないので、情報ソースにはよく注意が必要だと思います。

大腸がん予防のために必要なのは?

現時点で分かっている大腸がんリスクとしては、今回発表されたもの以外に以下のようなものがあります(詳しくは「大腸がんの5つの原因と9つの初期症状」をご覧ください)。

  • 喫煙
  • 過度の飲酒
  • 運動不足
  • 肥満
  • 遺伝
  • 野菜や果物の摂取不足

これらを避けるのと同様に大切なのは、大腸がんの検査を受けるということです。大腸がんの罹患率は40歳を超えると高くなるため(日本医科大学)、40歳以上になったら定期的に大腸がん検診を受けると良いでしょう。

最後に

今回のIARCの発表は、世界中の人たちに大きな衝撃を与えました。しかし、赤肉や加工肉に発がん性があるからといって、一概に「全く食べなければ良い」というものではありません。肉類には良質なタンパク質をはじめ、人体に必要な栄養分が豊富に含まれています。情報を精査し、「食べ過ぎない」という選択をするのが良さそうです。