多くの方がかかり多くの方が亡くなる大腸がん。最近では俳優の今井雅之さんが若くして亡くなられたことも記憶に新しいのではないでしょうか。今回はどのような症状で疑うのか、受診時の診断プロセス、治療方法、予防の可能性について紹介いたします。
疫学
大腸がんは女性においてがん死亡率の1位のがんです。男性でも3位、男女合わせても3位のがんです。がんにかかった患者さんの数でも男女合わせて2位と非常に多くの方がかかるがんといえます。
※編集部より:統計について詳しくは、国立がん研究センターがん情報サービスをご覧ください。
どのような症状が見られたら大腸がんの疑いを持つべきか
症状について、進行がんと早期がんに分けて説明します。進行がんと早期がんの医学的な分類は別に譲りますが、大まかに言って進行がんは進んでしまったために転移の可能性がある、手術で取りきれない可能性もあるがん、早期の大腸がんとは内視鏡で取りきれる可能性の高いがんというイメージです。
進行がん
この症状があったら大腸がんというものは存在しません。しかし、がんが大きくなってくると色々と症状が出ます。主なものは以下の通りです。
- 出血:がんは出血しやすく便が擦れるなどにより出血します
- 下痢:がんがある事で便が通過しにくくなり腸液が多く出るなどによって下痢することがあります
- 便秘:さらに便が出ないと通過できなくなり便秘になることがあります。最悪の場合には腸閉塞、腸管の破裂を引き起こします。
- 腹痛:便通異常による場合(下痢しているときに痛い、腸閉塞によって痛いなど)、転移による場合、腸管の破裂、腹膜炎などで腹痛が出ることもあります。
- 体重減少:がんが多量の栄養を消費してしまうために体重が減っていくことがありますが、かなり進行した状態に多いと考えられます。
早期がん
早期の大腸がんに自覚症状はほぼあり得ません。この時点ではほとんどの場合において病変が小さいために症状がありません。
この時点でみつかるのは主に大腸がん検診:便潜血検査で陽性になった場合がほとんどでしょう。または何らかの要因で便通がおかしいなどにより検査をすることで偶然みつかるといったものです。内視鏡で腸の粘膜を切っても痛みがないのに粘膜にとどまる早期がんには症状が出るはずが無いのです。
受診した場合の診断プロセス
さて、下血や腹痛、便通異常などによりまずは内科を受診されることでしょう。
受診すると以下のような経過になることが多いと言えます。
問診
症状はいつからか
出血の程度、便通の性状、腹痛の有無、体重減少の有無、家族歴、喫煙歴などが質問されることが多いでしょう。
血液検査:貧血の有無、一般的な採血(肝機能や腎機能)、腫瘍マーカーの検査が行われます。
また腸閉塞の有無、腸管穿孔(ちょうかんせんこう)などを診断するためにも(これらの場合には直ちに入院や手術などが必要となることがあります)、腹部レントゲン検査が行われます。立った状態と仰向けになった状態の2枚を撮影することが多いでしょう。立った状態で撮ると空気が上に行くことを利用して腸閉塞や腸管穿孔を診断します。
上記症状で示したような症状があり進行がんが疑われる場合には、早期に大腸内視鏡検査の予定が組まれます。
※腸管穿孔とは、腸に穴が開いてしまう状態のことを言います。穿孔すると腸の内容物(便や腸液)がお腹の中に出てしまい、ひどい炎症を起こしてしまいます。直ちに手術をしないと死に至ってしまいます。
便が出ない、出血量が多い(貧血になるなど)、腹痛が強いなどの場合には入院となります。
このような場合には、可能であれば直ちに造影剤を注射して腹部のCT検査が行われます。転移の有無や腸閉塞の程度などを診断し、緊急手術の可能性を検証します。こういう場合には消化器外科医にも診察してもらう必要性があります。
診断は内視鏡検査を行い、組織を一部採取して病理検査を行うことによります。このため、ほぼ必ず大腸内視鏡検査を行うことになります。
注腸造影といって肛門からバリウムを流す検査が行われることもありますが、疑いの強いものがみつかった場合にはやはり内視鏡の検査を受けることになります。
緊急入院の必要がない、緊急での検査の必要がないと判断された場合には大腸内視鏡の検査が予約されます。施設によっても異なりますが、おおむね1か月後程度になるかと思います。早期の大腸がんであれば1か月程度待ってもそれほど大きな変化はしないと考えられています。
治療
内視鏡治療
早期大腸がんの場合には大腸内視鏡検査を受け、見つかった時に同時に切除されることもあります。
全ての施設ではありませんが、大腸の粘膜を削ぐようにして内視鏡のみで治療するESDという治療が行えるところもあります。昔であれば開腹して腸管の切除が必要となる大腸がんの一部に対しこの治療ができる可能性があります。
手術
それ以上大きい場合、また進行がんであっても多くは手術によりがんとその近くの腸管の切除が行われます。
これも施設や病状によって異なりますが、一時的に人工肛門を造る必要性がある場合と、一度で癌のある腸管だけを切除して同時に腸を繋げることで人工肛門を造らずに済む場合があります。
進行大腸がんで転移があっても、大本の大腸がんは切除することが多いです。これは放っておけばいずれ腸が詰まってしまい、腸閉塞となり食事もとれないといったことを避けるという目的が一つあります。もう一つ、大腸がんは大本の病巣を切除することにより転移したがんへの抗がん剤の効果が高まるといったことが知られているためです。もちろん手術は体へ大きな負担をかけますから、全身の状態との兼ね合いで決定され、全員に当てはまるわけではありません。
化学療法
手術不能な場合、また手術で取りきれない場合などにおいては抗がん剤による化学療法が行われます。
大腸がんの化学療法のほとんどは外来通院しながら可能なものが多く、普段の生活を行いながら通院で化学療法を行うことが多いです。通院の頻度は治療回数や抗がん剤の組み合わせによっても異なりますが最初の頃は1週間に1度は通院が必要になることが多いです。
予防方法
巷に溢れる「○○を食べれば癌にならない」というのは残念ながらほぼ全て医学的な根拠がありません。そんなものがあれば医師も製薬企業もとびつきます。ノーベル賞ものです。
確実な予防方法とはなにか
ここで言う予防とは「大腸がんにならない」ではなく「大腸がんになったとしても根治の可能性が高い」という意味だと捉えてください。
それは
検査を受ける
です。
便潜血検査
まずは便潜血検査です。便を取るだけで済み、負担も少なくて済みます。精密検査をしても何も見つからないこともありますが、特に早期の場合には症状が出ないので、精密検査を受けるきっかけとしては重要です。便潜血検査を受けることにより40%もリスクが減ったとする報告もあります。
精密検査
注腸検査と大腸内視鏡検査です。病気の発見率はほぼ同等といわれています。いずれも2リットル近い下剤を飲む必要があるので、必要性については医師と相談するのがよいでしょう。
40歳を過ぎると大腸がんの罹患率が上がるので一つの目安として一度内視鏡検査を受けてみてもよいかもしれません。
ならないための方法
定期的な運動は大腸がんになるリスクを下げるという報告があります(国立がん研究センター)。
運動すれば確実にならないというわけではありませんが、全体でみるとなる確率は下がります。
最後に
便に血が混ざっていても「痔」だと思って受診されない方がいます。特に出産を経験された女性は痔になりますので出血していても気にされないこともあるようです。症状が出てきたときはかなり進行している危険性があります。症状があったら絶対、無くてもある程度の年齢になったら検査を受けることをお勧めします。
大腸内視鏡検査の名医としても有名な工藤新英先生は「大腸がんでは死なせない」という本を書いています。大腸がんは徐々に大きくなっていくことが多いと考えられており、早い段階で見つけて治療すれば大腸がんで亡くなる方はいなくなるという思いです。消化器内視鏡に携わる医師は同じ思いで診療にあたっています。是非参考にしてみてください。