わが子の心臓に異常があると言われたら、両親が受ける驚きと不安は大変大きなものだと思います。日本では1年間に約100万人の赤ちゃんが生まれますが、そのうちおよそ約1万人の赤ちゃんが先天性心疾患をもって生まれているとされています(成人先天性心疾患診療ガイドライン)。何が原因で起こってしまったのか、ちゃんと治って元気になれるのかというのが心配な点です。

今回は、先天性心疾患とはどんな病気かを説明します。

目次

心臓はどんな働きをしている?

まずは心臓の働きについて説明します。

心臓は全身に血液を送るポンプのようなものです。拍動し、全身に血液を巡らせています。心臓には心房と心室と呼ばれるものが左右1つずつあり、合計4つの部屋があります。それぞれ右心房・右心室・左心房・左心室と呼ばれています。それぞれの部屋の間には、心房と心室の間にある弁と呼ばれるドアのようなものがあり、開け閉め調整することで血液をうまく送り出しています。また、弁があるおかげで血液が逆流しないようになっています。

心臓から押し出されて、全身に巡ってきた血液は、右心房に入り、三尖弁という弁を経て右心室を出て、肺に流れていきます。そして、肺で酸素を受けとり、左心房に入り、僧帽弁という弁を通過して左心室を出て、全身へと送り出されます。心臓はこの一連の流れを絶えず繰り返すためにポンプ役として拍動し続けています。

心臓の働きについては「心不全ってどんな症状?原因となる7つの病気」の記事も参考にしてください。

心臓の構造-図解

大人の心臓の大きさは、自分の握り拳くらいで、赤ちゃんの心臓の大きさはピンポン玉くらいとされています。

先天性心疾患とは

「先天性心疾患」とは生まれつき心臓や血管の形が正常とは違う構造である病気のことです。

赤ちゃんの心臓は、お母さんお腹の中で複雑な過程を経て形成されていきます。心臓が完成した後に異常をきたすわけではなく、心臓が形成される途中、完成する前にその過程が止まってしまったり、違った向きで作られてしまったりすることで普通とは違う心臓の形になります。

先天性心疾患の原因

先天性心疾患ってなに?-図解

先天性心疾患は、赤ちゃん側の要因とお母さん側の要因があります。

赤ちゃん側の要因というのが、赤ちゃんの遺伝子や染色体の異常です。遺伝子に少しでも異常があると、心臓は不完全な形となってしまいます。多くの先天性心疾患は、赤ちゃんの遺伝子の異常で起こると考えられています

お母さん側の要因は、喫煙や過度の飲酒、赤ちゃんに害のある薬の服用、風疹などのウイルスの感染で、先天性心疾患が発症することがあります。

先天性心疾患の種類とそれぞれの特徴

 

先天性心疾患は主なものだけでも40~50種類と沢山ありますが、大きく非チアノーゼ性心疾患チアノーゼ性心疾患に分けられます。

チアノーゼとは、顔色や全身の色が悪く、特に唇や指先の色が紫色になることをいいます。子どもの心臓病の症状に多いものです。チアノーゼの原理については「指先が青白くなるチアノーゼ。原因は一体何?」をご参考ください。

ただし、先天性心疾患の場合はチアノーゼの原因が少し違ってきます。

先天性心疾患の場合、心臓の形や血管の異常(心臓の穴や動脈と静脈の間に横道があるなど)のため、本来動脈・静脈一方通行であるはずの血流が混ざってしまいます。静脈を流れる酸素の少ない血液が、全身に流れる動脈に入り込んでしまうのです。そのために、唇や指先が紫色になってしまうのです。

非チアノーゼ性心疾患

先天性心疾患の6~7を占めます。非チアノーゼ性心疾患には、代表的な病気として、心室中隔欠損症、心房中隔欠損症、房室中隔欠損症(心内膜床欠損症)、動脈管開存症の4つがあります。この4つが非チアノーゼ性心疾患の約9を占めます。この中で頻度が多いのは心室中隔欠損症です。

ケースバイケースではありますが、特徴的な症状として、呼吸が速く苦しそう、汗を沢山かく、ミルクがあまり飲めず体重が増えない、などの症状が出てきます。風邪を引くと呼吸状態がさらに悪くなることがあります。

1.心室中隔欠損症

心室中隔欠損症のメカニズム-図解

中隔は、心臓の各部屋の間の壁のことです。心室は左右が心室中隔という壁で区切られています。この壁に穴が空いていることで血流の異常をきたす病気が心室中隔欠損症です。小さい穴であれば1歳頃までに自然に閉じることがありますが、大きな穴の場合は症状も強く、手術が必要となります。

2.心房中隔欠損症

心房中隔欠損症のメカニズム-図解

左右の心房の間に穴が空いている場合です。1~2歳くらいまでに自然に閉じることがあります。症状があれば気づかれますが、比較的大きな穴が空いていてもほとんど無症状のため、健診などで心雑音を指摘されて診断に至るケースが多いです。手術は就学前に行うことがあります。

3.房室中隔欠損症(内膜床欠損症)

房室中隔欠損症のメカニズム-図解

最近は、世界的に房室中隔欠損症と呼ばれることが多いです。弁の不完全な形成と心房中隔欠損が合併しているもので、心室中隔欠損を伴うか伴わないかで完全型と不完全型に分けられます。どちらも症状が出やすく、早期からの手術が必要になることが多いです。

4.動脈管開存症

動脈開存症のメカニズム-図解

赤ちゃんは、生まれるまでお母さんのお腹の中でへその緒から血液を送ってもらい、肺を使わずに育ちます。肺を使わない胎児特有の血液の流れを胎児循環といいます。動脈管は、大動脈と肺動脈の間を結ぶバイパスとなっている血管のことで、胎児の間は血液の通り道として重要な血管ですが、生まれて間もなく不要になり自然に閉じます。

この動脈管が閉じずに残っているものを動脈管開存症といいます。動脈管が閉じないことで、その管を介して一部の血液が心臓と肺の間を空回りし、肺や心臓に負担がかかります。

 

非チアノーゼ性心疾患には、ほかにも肺動脈弁狭窄、大動脈縮窄症、僧帽弁閉鎖不全症などがあります。

チアノーゼ性心疾患

先天性心疾患の3~4を占めます。チアノーゼ性心疾患は、非チアノーゼ性心疾患に比べると重症な病気が多いです。これは、同じ病気の症例が少なく最適な治療法がはっきり分からない場合があることや、チアノーゼ等の苦しい症状があること、より心臓の形が異常な状態のため手術が難しいことが理由として挙げられます。

特徴的な症状として、体重の増加は比較的良いのですが、泣いたり、いきんだり、熱を出したりしたときに全身が紫色になり、危険な状態になることがあります。

チアノーゼ性心疾患の種類は非常に多く、比較的頻度が多い順に、ファロー四徴症、完全大血管転移症、両大血管右室起始症について説明します。

1.ファロー四徴症

ファロー四徴症のメカニズム-図解

心臓の形に4つの特徴がある病気(四徴)です。右心室の出口から肺動脈にかけて細く(肺動脈狭窄)、心室の壁に穴があり(心室中隔欠損)、大動脈が右心室の方にずれて乗り出し(大動脈騎乗)、その結果、右心室に負担がかかって壁が厚くなる(右室肥大)という特徴があります。

2.完全大血管転位症

完全大血管転位症のメカニズム-図解

大動脈と肺動脈の位置が正常とは逆の位置から出ている場合を完全大血管転位症といいます。完全大血管転位症は、心室中隔欠損のないⅠ型、心室中隔欠損のあるⅡ型、心室中隔欠損と肺動脈狭窄を伴うⅢ型の3つのタイプに分けられています。

心房中隔欠損症や動脈管開存症も合併しやすいとされています。

3.両大血管右室起始症

大動脈と肺動脈が右心室の上から出ている病気です。

そのほかに、三尖弁閉鎖症、総肺静脈還流異常症、右室性単心室症などの疾患があります。

まとめ

ここで挙げた病名であっても病気の程度と進行の仕方などはその子ども一人一人異なります。また、二つ以上の先天性心疾患が重なっていることもしばしばあります。症状の発現の仕方や実際の心臓の状態を確認し、その子に適した治療が選択されていきます。治療は、小児循環器を専門としている基幹病院で行われます。