自分で自分の髪の毛を抜いてしまう、無意識に眉毛をいじったりむしったりして、やめるのが難しい…。毛を抜く行為をやめたいと思いながらも、繰り返しているのであれば、もしかすると抜毛症と呼ばれる疾患の可能性があります。抜毛症とは一体どのような病気なのでしょうか。
抜毛症とは?
体毛自体の病気ではなく、自分で自分の髪の毛、眉毛、まつげなどを繰り返し抜いてしまい、頭皮などの皮膚が脱毛状態になってしまう病気です。皮膚には異常はありませんから、毛を抜くことをやめれば、毛は再度生えてきます。全ての部位の体毛が抜毛の対象となりますが、最も多いものは頭皮です。その他の部位では眉毛、睫毛、あごひげなどが挙げられます。たいていは、利き手側の髪の毛を抜くことが多く、健康的な毛を無理やり抜くことで、毛が抜けた部分に切られた毛が不規則に残り、ところどころ皮膚が傷つき赤くなることもあります。
平均発症年齢は10代前半の学童期です。以前は、「抜毛癖(トリコチロマニア)」と呼ばれていましたが、アメリカ精神医学会による「DSM」という診断基準では、2013年に改訂された最新の「DSM-5」から、「抜毛症」と呼ばれるようになりました。
なぜ毛を抜いてしまうの?
抜毛症を発症するきっかけは人それぞれですが、多くの場合は、その日常生活に何らかのストレスがある状況が見られます。また、退屈や不安を紛らわすためだったり、特にきっかけもなく毛を抜くことが習慣となってしまったりすることもあるようです。
どの毛をどのように抜くかは人によって異なりますが、抜毛には二つのやり方があります。一つは、毛を抜く直前に緊張感を感じたり、毛を抜いたときに開放感や快感を覚えることで、抜毛への欲求を持つようになり、その欲求を自覚して行うものです。もう一つは座って過ごしている時などに無意識に抜毛するものです。大抵の抜毛症ではこの二つの抜毛のやり方 のどちらも見られます。
抜毛症の特徴は?
その特徴は、患者さん自身は抜毛を望ましくない行為と自覚しているにも関わらず、やめようと思っても、なかなかやめられずに繰り返してしまうことです。
患者さんは抜毛を恥ずかしく感じている場合が大半なので、他の人に隠れるように毛を抜いていることが多く、同居する家族が行為に気づきにくいことがあります。毛を抜くことを注意され、隠れて行うようになることもあります。繰り返しの抜毛によって抜毛部位が広がり、それが目立つようになることに苦痛を伴うため、症状が酷くなると日常生活に影響することがあります。抜毛部位を気にし、人前に出ることが難しくなる場合もあります。
抜毛症の診療科は?
「DSM-5」では、抜毛症は強迫症/強迫性障害の関連疾患とされています。抜毛行為をやめたいと思っているにもかかわらず、内面的な衝動に強いられるようにそれを繰り返してしまう、という特徴が強迫性障害に類似しているからです。治療をご希望される場合には、精神科、精神神経科、または心療内科で対応してくれます。ただ、あまり多い疾患ではないため、受診の前に治療が可能かどうか、病院に問い合わせをしておいた方がいいでしょう。
抜毛症の対処法は?
標準的な治療はまだ確立されていませんが、精神療法の一つである認知行動療法と薬物療法が行われています。抜毛症を発症するきっかけとして環境的、心理的要因が考えられるため、患者の置かれている状況や抜毛に至る心理状態をよく理解することが、症状の改善には重要なのです。
認知行動療法
症状に関わる患者さんの歪んだ認知(考え方)や、それに伴う行動を修正することで、症状の改善を目指す治療法です。まずは、毛を抜く行為の始まりに注意するようにします。そして毛を抜いている時に特徴的な周囲の状況、または内面の感覚や気分を観察します。さらに、その時の状況や、心の状態を書いて記録します。書き出すことが、無意識のうちに行っていることに気付くきっかけになることがあります。
例えば、一人でいるときに毛を抜く癖があることが分かれば、家族と一緒にいる時間を増やすなどして毛を抜かないように対処をします。それでも毛を抜きたくなったときは、両手を動かす、回すなどして毛を抜く行為の代わりになる行動をとれるように練習をします。
抜かなければ抜毛部の毛は再び生えてくるので、その様子を鏡で確認できれば、治療の励みになります。家庭では患者がリラックスして治療に取り組めるように、毛を抜く行為を批判せず、少しでも改善しようという努力を認めるようにし、心理面でも支えていくことが大切です。
薬物治療
確実な治療効果が認められている薬はまだありませんが、うつ病や強迫性障害などの治療に使われる抗うつ薬「SSRI」が有効であったという報告があります。子供に抗うつ薬を処方するときは、副作用に注意し、慎重に少量から用います。
まとめ
抜毛症とは、身体の毛を繰り返し引き抜く行為によって、頭皮を主とする皮膚の一部が脱毛状態に至る病気です。平均発症年齢は、10代前半の学童期です。原因はまだ分かっていませんが、患者さんが置かれた状況のストレスがきっかけとなっていることが多いようです。治療法も確立までには至っていませんが、認知行動療法と薬物治療が試みられています。抜毛症の認知行動療法では、抜毛が起こる状況やその時の感情に気づき、抜毛の代わりとなる行動を取れるように訓練することで症状の改善を目指します。患者さんのご家族や周囲の方は、この病気についての理解を踏まえ、患者さんの抜毛行為を批判せず、治療に取り組む努力を認め、焦りすぎずに見守ることが大切です。