胸膜炎とは、胸膜に炎症が起こり貯留した胸水によって肺が圧迫され、息切れや息苦しさ、胸の痛みや発熱などの症状があらわれる病気です。胸膜炎は細菌感染のほか、結核やがん、膠原病などに合併して起こることも多く、その原因によって治療法が異なります。胸膜炎の診断と治療について詳しく解説します。

目次

胸膜炎とは

胸膜は肺を包む2枚の薄い膜でできており、その2枚の胸膜の間の胸膜腔(胸腔)には通常少量の胸水が溜まっています。

胸膜炎とはこの胸膜に何らかの原因で炎症が起き、胸水が過剰に増えた状態です。
炎症を起こす原因には感染がんなどの腫瘍、膠原病などがあります。

胸膜炎の症状や原因について詳しくはこちらの記事「胸膜炎ってどんな病気?胸に水が溜るってどういうこと?」をご参照ください。

胸膜炎の診断

聴診器

胸膜炎は息切れ胸の痛み発熱などの症状がありますが、これらは肺炎などのほかの呼吸器疾患と同様の症状で、これらの症状だけで胸膜炎と診断することはできません。
そのため、問診と併せて以下のような検査を行います。

胸部レントゲンなどの画像検査

胸水の貯留は通常の胸のレントゲン写真によって確認することができます。
心不全や肝不全など炎症を原因としない胸水(漏出性胸水)の場合は、両側の肺に胸水が貯留しますが、胸膜炎の場合(滲出性胸水)は、通常左右どちらか片側だけに胸水が貯留する特徴があります。

少量の胸水でレントゲン検査では明らかでない場合には、胸部CT検査が行われます。

胸腔穿刺

画像検査によって胸水の貯留が明らかになると、その原因を調べるために胸水を抜いて性状や成分を調べる胸腔穿刺(きょうくうせんし)を行います。
検査は、座った状態で胸の脇(肋骨と肋骨の間)から細い針を刺して胸水を採取します。

局所麻酔で行うため、麻酔時の痛みのみで検査中の痛みはありません。検査は10~30分ほどで終了しますが、検査後1時間ほどの安静が必要です。

採取した胸水を培養検査、細胞診検査し、結核菌やがん細胞が確認されると、結核性胸膜炎やがん性胸膜炎の診断につながります。

胸膜生検

胸腔穿刺によっても原因が明らかにできない場合には、胸膜の組織を直接採取して調べる胸膜生検が行われます。
胸水穿刺同様に胸に針を刺して組織を採取しますが、より専門的な技術が必要となるうえ、気胸や肺出血の合併症のリスクがあります。

胸腔鏡

胸水検査や経皮的胸膜針生検を行っても、約25%の症例は診断がつかないとされており、胸腔鏡を用いた、内視鏡下胸膜生検が有効です。

胸腔鏡は多くの場合、全身麻酔下で外科医によって行われますが、最近では、先端がフレキシブルな細径胸腔ビデオスコープが開発され、呼吸器内科医による局所麻酔下での簡便な胸膜生検を行う施設も増加してきました。

原因によって異なる胸膜炎の治療

赤と白のカプセル錠

検査により原因が明らかになった後は、原因に合わせた治療を施します。

一般細菌やウイルス感染による胸膜炎

細菌による胸膜炎の場合、抗生物質による治療と安静が基本となります。

現在では、一般細菌によって起こる肺炎に対して広く抗生物質が用いられるようになり、その効果も充分なものとなったため、肺炎に続発する胸膜炎は随分少なくなっています
しかし、肺炎の発見・治療が遅れた場合には肺炎と同時に胸膜炎が発見されることがあります。

また、ウイルス性の胸膜炎の場合は、抗生物質は無効です。数日の自然経過で治癒するため、発熱や胸の痛みに対する鎮痛解熱剤などで対症的に治療を行いながら、安静にして経過を観察します。

結核性胸膜炎

結核菌による胸膜炎は、初感染から引き続いて発病する特発性胸膜炎と、肺結核から炎症が波及して起こる続発性胸膜炎の2種類があります。

いずれの場合も抗結核薬による治療が行われます。胸水が大量に貯留しており、なかなか減少しない場合にはドレナージによる排液を行う場合もあります。胸腔ドレナージとは、胸にチェストチューブ(胸腔ドレーン)と呼ばれる管を挿入し、胸腔内に溜まった胸水を排出する方法です。

特発性胸膜炎の場合、比較的胸水が少なく胸痛もないケースもあり、また、病巣が閉塞されているため他への感染もほとんどありません。
しかし無治療のまま経過すると、肺結核を発症する可能性があるため、必ず治療が必要です。

がん性胸膜炎

がん性胸膜炎は肺などの臓器にできたがん細胞が胸膜に達する直接浸潤や血行性転移で生じ、比較的がんが進行しており予後は不良です。
もととなったがんの状態(他への転移や進行度)や全身の状態により、可能であれば胸膜癒着術が行われます。

胸膜癒着術とは、胸腔を人為的に癒着させることにより、胸水が溜まらないようにする処置です。

病状が進行すると胸水貯留による呼吸困難が強くなるため、胸腔穿刺または胸腔ドレナージにより胸水を取り除く処置を行います。
一度、胸水を取り除いても再び貯留するため、症状の緩和を目的に繰り返し行われます

膠原病性胸膜炎

膠原病は慢性に経過し、軽快と再燃を繰り返す病気です。
膠原病では胸膜炎だけでなく、間質性肺炎や細気管支炎など、ほかの肺疾患を起こしたり、治療薬による肺病変が見られたりすることもあります。

治療は膠原病の治療に準じて、ステロイド剤や免疫抑制剤によって行われますが、将来的には在宅酸素療法が必要になる場合もあります。

在宅酸素療法(HOT:Home在宅Oxygen酸素Therapy療法)

在宅酸素療法とは、慢性的な呼吸器の病気により常に酸素吸入を必要とする患者さんに対して、自宅に酸素供給機を設置したり携帯用の酸素ボンベを利用することで、24時間あるいは必要時に酸素吸入を可能にするものです。

まとめ

胸膜炎の治療は原因となった病気によって異なります。

元来健康な人が一般細菌やウイルス感染によって発症したものは、自然経過で治癒に至ることもありますが、結核やがん、膠原病に併発したものは、それぞれの専門治療を必要とし、そのためには正しい診断が不可欠であることを理解しておきましょう。