長引く咳の症状に悩まされ、「風邪かな」と思って病院に行ったところ、医師から結核であることを伝えられて驚いた、ということがあります。結核は、かつては亡国病と呼ばれるまでに恐れられていました。その後急激に減少したため、過去の病気というイメージがありますが、現在でも少数ながら結核に苦しめられている人がいます。結核とはどのような病気なのか見てみましょう。

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根絶が難しい「結核」という病気

日本では昭和20年代まで国民病と恐れられてきた結核ですが、予防対策と治療法の発展によって現在では100分の1にまで激減しています。とはいえ、完全になくなったわけではありません。

結核は、人口100万人あたり1人以下にまで減った時に初めて「制圧」と判断されます。なお、人口10万人あたり10人以下の国を「低まん延国」と呼び、日本の場合は、人口10万人あたり18.2人(2010年)となっているため「中まん延国」に該当します(公益財団法人結核予防会より)。日本は、先進国としては結核の患者数がかなり多いといえます。

結核は決して、過去の病気ではありません。世界の3大感染症は、HIV、マラリア、結核です。世界では、総人口の約3分の1が結核に感染しています。日本だけでなく、世界に目を向けると、さらに重大な感染症です。

結核の症状は?

ウイルス

結核の症状は風邪や肺炎に似ている

結核の初期の症状は、・痰・発熱(微熱)などが長く続くのが特徴です。そのため、風邪や肺炎、喘息と混同されることがあります。悪化すると、だるさ・息切れ、血の混じった痰が出る、喀血(血を吐く)、呼吸困難といった症状が出ることもあります。

結核の感染者が咳をすると、肺で増殖した結核菌が外に放出されます。これを吸い込むことで新たな感染者が生じてしまいます。

以上のことから、咳・痰・微熱などの症状が2週間以上続いてしまったら風邪ではありませんので、レントゲン検査を受けた方が安全です。

すぐに発病しないことも多い

ただし、結核菌に感染したとしても発病するとは限りません。免疫力の働きによって、感染者の多くは発病しないといわれています。発病するのは免疫力がもともと低い人、または、何らかの理由で免疫力が一時的に下がってしまった人です。

増殖せずに抑えこまれた菌は、体内で冬眠状態となります。そして、感染者の免疫力が落ちると再び増殖し、病気を起こすのです。これを内因性再燃といいます。最初の感染から1年以上、中には数十年経ってから発病するケースもあります。

結核菌は肺以外に悪さをすることも

肺に入って増殖した結核菌が他の臓器に飛び火することがあります。代表的な例が、背骨に生じる「脊椎カリエス」です。脊椎カリエスは腹腔内に膿がたまって、最悪の場合は死に至ります。また、脳を保護する髄膜という膜に飛び火すると「結核性髄膜炎」を発症します。こちらも、生命に危険が及ぶ可能性のある疾患です。

こんな人は結核になりやすいので要注意

  • 乳幼児期の赤ちゃん・思春期の人
  • ストレスが多く不規則な生活をしている人
  • 糖尿病の人や人工透析をしている人
  • 免疫抑制剤(ステロイドなど)による治療を受けている人
  • HIVに感染している人
  • ヘビースモーカー
  • 以前にも結核を経験したことがある人
  • BCGを受けていない人

また、家族や親しい人に結核患者が出た場合は、自分も同様に感染していないか確認するための検査を受けると良いでしょう。

以前はツベルクリン反応で検査しましたが、最近は血液検査(T spotというインターフェロンγ遊離試験)が有効です。結核患者と接触後、2カ月経過すれば、感染したか否かの判定が可能です。

新たな問題「耐性菌」とは?

薬剤

結核の世界的な減少の背景には、薬の進歩があります。1944年、ストレプトマイシンという薬が劇的な効果を示し、「魔法の弾丸」と称されたといいます。その後も次々に薬が登場し、結核は薬で治すことができる病気となりました。

しかし今、新たな問題が生じています。薬に対する抵抗力をつけた菌が現れたのです。このような菌を耐性菌といいます。耐性菌はしぶといので、治療は非常に困難です。それを防ぐには、ある程度の期間内で菌を叩いてしまうことが重要です。薬を飲んだり、飲まなかったりすることは、耐性菌を生む原因になるので注意が必要です。

また、2種類以上の薬を同時に使用することも耐性菌への対策になります。結核の治療の中心となる薬の服用については、主治医とよく相談して根気よく続ける必要があります。

まとめ

結核菌は決して「過去の病気」ではありません。風邪や肺炎、喘息だと思い込んでいる人のなかにも結核の感染者が含まれているでしょう。問題は、感染者によって新たな感染者が生み出されてしまうことです。そのため、早期に感染を発見して発病前に治療すること、発病してしまったら、症状が重くなる前に治療することが求められます。長引く咳には結核を疑い、適切に医療機関を受診することが大切です。