子宮脱という疾患は、子宮を支えている骨盤内の筋肉や靭帯が緩むことにより、子宮の一部が膣内に降りてきてしまう病気です。産後の女性にとっては、非常に不安になる疾患として知られています。この子宮脱は現在では様々な治療法や予防法が知られていて、早くに症状に気づくことができればその症状の悪化を食い止めることができます。

子宮脱で治療を受けている患者さんが年間5~10万人であるのに対し、潜在患者(受診していない患者さん)は500万人にものぼるといわれています(市立札幌病院より)。命に関わる病気ではありませんが、生活の質を著しく下げてしまうため、症状に関する知識をしっかりと身につけることが大切です。

目次

女性の悩みの種、子宮脱とは

子宮脱は、骨盤内臓器脱という疾患の一つです。

本来、女性の骨盤の中には膀胱、子宮、直腸など様々な臓器が収まっています。これらの臓器は通常、骨盤を左右前後に走っているハンモック状の靭帯によって支えられ、落ちてこないような仕組みになっています。

この骨盤内部の靭帯が、様々な原因によって切れてしまったり伸びてしまったりすることによって、重みに耐え切れずに骨盤内の臓器が本来の高さから下がってきてしまうことがあります。すると、臓器が膣を経由して体外に出てきてしまうのです。この中でも、子宮が下がってしまった(膣からは出ていない)状態を子宮下垂、膣から外に脱出してしまった場合を子宮脱と呼びます。これ以外にも、膀胱が脱出してしまった場合を膀胱瘤(ぼうこうりゅう)、直腸が脱出してしまった場合を直腸瘤(ちょくちょうりゅう)と呼びます。

子宮脱では、子宮の位置がずれることで様々な症状が同時に発生します。そのため、症状に個別に対処しながら、同時に子宮脱の治療も行わなくてはなりません。

子宮脱の原因や、起こりやすい年齢は?

子宮脱は子宮を支える靭帯が伸びたり断裂を起こしたりする病気なので、様々なことが原因で発生します。

1.加齢多産

まず、一番多いのが、出産を何度も経験した女性が高齢化した時に起こるものです。40代後半以降の女性に多くみられ、特に閉経後はおよそ20%もの女性が患っているともいわれています(茨木市医師会より)。

出産経験が多いとどうしても子宮を支える靭帯に無理が加わってしまい、靭帯への小さなダメージや断裂が発生してしまいます。また、加齢によってエストロゲンという女性ホルモンの分泌が低下すると、子宮周囲の組織が徐々に変化し、この結果として子宮が脱出してしまうのです。

特に、子宮を左右で根元から支えている基靭帯や子宮を後ろ側から支えている仙骨子宮靭帯などはダメージを負いやすい靭帯です。子宮脱を疑った時には、これらの靭帯について調べます。

2.骨盤への強い負荷

出産以外にも、骨盤への負荷が大きいことは子宮脱のリスクとなります。例えば、以下のような事柄が挙げられます。

  • 出産後、早いうちから力仕事をする
  • 立ち仕事や、重い物を持ち上げる仕事をしている
  • 肥満
  • 便秘

3.骨盤内の臓器の手術

さらに、子宮以外の骨盤内の臓器の手術がリスクの要因として知られています。特に直腸の手術や膀胱の手術、大腸の末端にあるS状結腸という部分の手術などでダメージを負うことがあります。このような手術の経験がある人は子宮脱の症状に注意しなくてはいけません。

子宮脱の症状は?

聴診器

子宮脱は、子宮が下りてきて様々な器官を圧迫することで発症します。

まず、尿道や膀胱の圧迫による尿路の障害が知られています。主な症状は排尿困難、夜間の頻尿、尿意の切迫感などです。このほかにも直腸を圧迫することで便意が1日に何度も生じるようになったり、排便が困難になったりすることがあります。

実際に子宮がかなり下りてきてしまうと、子宮が膣を圧迫する違和感を覚えるようになります。この圧迫感が強くなるにつれて、排尿困難などの症状が悪化していきます。起床直後の症状は軽く、夜になるにつれて症状が悪化していくことも特徴の一つです。

子宮脱の症状の程度には、骨盤内臓器脱の分類であるPOP-Q分類という分類法が用いられます。子宮本体がどれだけ下がってきているのかにより、ステージ1〜4までに分類しています。

ステージ1

子宮が膣の入り口部分から1cmまで近づいてきている時は、子宮下垂という状態です。この段階では、下腹部や膣内に違和感を覚える程度です。

ステージ2~3

膣の入り口1cm前後以内に子宮の入り口の部分が降りてきている状態は不全子宮脱とよばれている段階で、ステージ2〜3に相当します。

この段階から排尿障害などが出てくるので、人によっては、膀胱に常に尿が溜まってしまう尿閉という状態になることがあります。

ステージ4

さらに悪化した状態がステージ4です。膣から2cm以上子宮が露出している状態で、全子宮脱と呼ばれます。この状態では、膀胱まで子宮に巻き込まれて降りてきてしまう場合があります(膀胱瘤)

膀胱瘤が悪化すると尿閉が加速し、最終的には腎臓にまで負担がかかることがあります。腎臓がダメージを負ってしまってはなかなか復活が難しいので、しっかりと早期に治療を行う必要があるのです。

子宮頸部の炎症にも要注意

子宮脱でもう一つ気をつけたい症状が子宮頸部の炎症です。子宮が外に露出してしまうので、子宮頸部が常に下着などと擦れてしまい、子宮頸部の炎症や潰瘍を起こすことがあります。このような子宮の炎症が続いてしまうと子宮内部に細菌が感染する原因にもなるので、注意が必要です。

子宮脱の治療法って?

治療方法としては、ステージ1~3であれば、ペッサリーリングというシリコン製のリングを膣内に挿入し、下垂している子宮や膀胱・直腸を骨盤内へ押し上げます。ステージ4以降では、手術が望ましいでしょう。

まとめ

子宮脱は子宮が露出してしまう疾患で、早期の治療をすれば子宮自体にダメージを負うことなく治療が可能です。症状を知り、体に大きな負担が出る前に医師に相談して治療を行うようにしましょう。