関節リウマチの治療は、できるだけ早期に開始することが大切です。近年では、2010年にリウマチ新分類基準が作成され、関節リウマチの早期診断が可能になりました。詳しくは、「専門医が語る関節リウマチ:関節リウマチの検査・診断とは?何科にかかれば良い?」で記載しています。

目次

リウマチと診断された場合、基本的にはメトトレキサート(MTXという薬を用いた治療を行います(ただし、妊娠中や授乳中、肝疾患・腎障害のある患者さんなど、この薬を使用することができない方(禁忌)は他の治療を行います)。MTXはリウマチ治療における「アンカードラッグ(鍵となる薬)」といわれる、大変重要な治療です。このMTX治療を行っても効果がなかなか見られない場合は、生物学製剤(TNF阻害剤、トシリズマブ、アバタセプト)の導入を考えます。

このように、関節リウマチにはいくつかの治療法があります。しかし、全ての治療法において目指す所は一つであり、それが寛解(かんかい)」といわれる状態です。

リウマチにおける3つの「寛解」

関節リウマチにおける3つの「寛解」-図解
寛解とは、病気の症状がほぼ消失し、臨床的にコントロールされた状態をいいます。関節リウマチの寛解、つまり治療目標には、次の3つがあります。

  1. 臨床的寛解:炎症と自覚症状および他覚症状の消失
  2. 構造的寛解:関節破壊の進行がほとんど止まること
  3. 機能的寛解:身体機能の維持

この3つの目標を達成できると、関節リウマチという病気にかかっていることをほぼ自覚せずに日常生活を送ることが可能です(抗リウマチ薬を服用しながらではありますが)。さらに、患者さんの中には抗リウマチ薬の服用を休止し、治癒したといえる状態(完治)にまでなる方もいるのです。

そして、完治を目指すために欠かせないのが、適切な早期診断および適切な早期治療だというわけです。

I.リウマチの臨床的寛解と疾患活動性評価

まずは、臨床的寛解について見ていきましょう。

その前に、リウマチの活動性(病気の進むスピードや炎症の強さなど)はどのように判断されるのでしょうか?以前は、「なんとなく良い」「だいたい大丈夫」といった曖昧な判断基準が用いられていました。しかし現在は、もっと明確な数値目標が定められています。

他の病気をイメージすると分かりやすいでしょう。例えば糖尿病では、HbA1cという値を用いて病気の様子を判断します。高血圧では、血圧数値が重要な指標となりますよね。同じように、リウマチの疾患活動性を評価する上で重要な指標が、DAS28SDAICDAIの3つです。そして、この3つが「臨床的寛解」に大きく関わってきます。

これらの指標は、28個の関節を調べて数値化したものです。それぞれについての簡単な説明と、指標となる数値をご紹介します。

1.DAS28

DAS28(Disease Activity Score)は、腫脹関節数、圧痛関節数、患者全般評価、急性期反応物質によってリウマチの病状を表す指標です。

関節リウマチ DAS28で評価する28関節-図解

2.SDAI

SDAI(Simplified Disease Activity Index)は、腫脹関節数、圧痛関節数、医師全般評価、患者全般評価、急性期反応物質によってリウマチの状況を示します。

3.CDAI

CDAI(Clinical Disease Activity Index)は、腫脹関節数、圧痛関節数、医師全般評価、患者全般評価で病状を示します。

また、基準となるのは以下の値です。

  寛解 低疾患活動性
LDA
中疾患活動性
MDA
DAS 2.6未満 2.6以上3.2以下 5.1以下
SDAI 3.3以下 11以下 26以下
CDAI 2.8以下 10以下 22以下

高疾患活動性、中疾患活動性、低疾患活動性、寛解とは

これらの用語は、その時の状態を表すものです。DAS28にしても、CDAI、SDAIにしても、この数値が寛解になるように治療戦略を軌道修正していくことが大切です。

  • 高疾患活動性:疾患活動性が高い
  • 中疾患活動性:疾患活動性が中等度
  • 低疾患活動性:疾患活動性が低いけれど寛解には至っていない状態

関節リウマチの活動性の評価法-図解
つまり、DAS28<2.6SDAI3.3CDAI2.8の状態を「臨床的寛解」というのです。

自分の病気を知るためには、「なんとなく良くなった気がする」と思うだけでなく、これらの値によって現在の疾患活動性について把握している必要があります。診察を受ける際は、必ず主治医にこの数値を確認してください。

さらに上の寛解基準「Boolean寛解」を目指して

上記の通り、リウマチの臨床的寛解基準にはDAS28寛解、SDAI寛解、CDAI寛解の3種類があります。それぞれ、DAS28は2.6未満、SDAIは 3.3以下、CDAI は2.8以下になった状態を「寛解」と呼びますが、実はこれらの基準以上に厳しい寛解基準があります。それが、Boolean(ブーレアン)寛解と呼ばれるものです。

Boolean寛解とは、

  1. 腫脹関節数
  2. 圧痛関節数
  3. 患者疾患活動性全般評価(VASで0~10cm)
  4. CRP(mg/dl)

上記4つの全てが1以下の状態を表します。

このBoolean寛解を達成し、その状態を維持することで、より可能性の高いバイオ(生物学的製剤)フリードラッグフリー(すべての薬剤を休薬・中止できる状態)が待っています。

生物学的製剤は高価な薬ですので、休薬・中止できるということは大変重要です。また、ドラッグフリーの状態を維持できれば、いわゆる完治・治癒の可能性があるのです。

II.構造的寛解とは

関節リウマチの症状は、単に関節が腫れて痛むだけではありません。関節が破壊され、徐々に変形していってしまうのが関節リウマチの主たる症状です。この関節破壊が抑止された状態を、構造的寛解と呼んでいます。

この関節破壊の「程度」「進行」も、定量的に評価していく必要があります。そのために行われるのが、レントゲン検査です。

関節破壊の程度を表すstage分類

関節破壊の程度は、Steinbrocker(スタインブロッカー)によるstage分類で、破壊が最も進んだ関節の様子を診断します(Steinbrockerら, 1949)。初期から末期まで、4つのステージに分けられます。

  • Stage Ⅰ(初期):骨・軟骨の破壊はない状態
  • Stage Ⅱ(中等期):骨の破壊はないが、軟骨が薄くなり、関節の隙間が狭くなっている状態
  • Stage Ⅲ(高度):骨・軟骨に破壊が生じた状態
  • Stage Ⅳ(末期):関節が破壊され、動かなくなってしまった状態

 

以下の表で、各ステージについてさらに詳しく解説します。

Stage Ⅰ
(初期)
Stage Ⅱ
(中等期)
Stage Ⅲ
(高度)
Stage Ⅳ
(末期)
*X線写真で
骨の破壊が
みられない
*X線写真で
軽度の軟骨下骨の
破壊
びらん

骨が一部
欠けていること)
を伴う
あるいは伴わない
骨萎縮がある
*骨萎縮の他に、
X線学的に軟骨
及び骨の破壊
骨びらん)が
ある
*線維性あるいは
骨性強直
がある
X線写真で骨萎縮
(骨の代謝が
悪くなり、
骨が
減少した状態)

はあっても良い
それ以外は
StageⅢの基準を
満たす
軽度の軟骨破壊は
あっても良い
*関節運動は制限
されても良いが、
関節変形はない
*亜脱臼、
尺側変位、
過伸展
のような

関節変形がある
線維性あるいは
骨性強直を
伴わない
関節周辺の筋萎縮
(筋肉が痩せて

減少した状態)が
ある
強度の筋萎縮
がある
結節および腱鞘炎
のごとき関節外軟
組織の病変

あっても良い
結節及び
腱鞘炎のような
関節外軟組織の
病変はあっても
良い

*印のある基準項目は特に、その病気あるいは進行度に患者を分類するためには必ずなければならない項目です。

関節破壊の進行を表すmTSS

他方、1年間で関節破壊がどれだけ進行したかを表す指標がmodified Total Sharp Score(mTSSです(van der Heijde DMら、1989)。mTSSでは、手と足のびらんErosion:骨が欠けていること)と関節裂隙狭小化JSN (Joint space narrowing):関節軟骨が磨耗により減ってしまうこと)を点数化します。すべての関節の合計点数が、その患者さんのTotal Sharpスコア(総 Sharpスコア)です。

手の場合はErosion16関節・JSN15関節、足の場合はErosion6関節・JSN6関節で判断します。Erosionは、手では1関節につき最大5点、足では1関節につき最大10点で評価します。JSNは、手足ともに最大4点です。つまり、手の最大点数は280点(Erosion:160点、JSN:120点)、足の最大点数は168点(Erosion:120点、JSN:48点)となります。Total Sharpスコアの最大点数は448点というわけです。

 

構造的寛解は関節破壊が抑止された状態であり、年間mTSS増加量(⊿mTSS)が0.5以下である状態をいいます。

構造的寛解のためには、臨床的寛解の達成と維持が欠かせません。そのため、まずは診察の度に客観的活動性指標(DAS28、SDAI、CDAI)を確認し、把握しておくことが最重要です。

III.機能的寛解とは

リウマチになると、早いうちから関節の痛みや腫れが起こります。また、進行するにつれて関節の変形や筋萎縮も起こってきますので、日常生活動作(ADL:activity of daily living)に制限が生じてきてしまいます。これらの身体機能障害に加え、患者さんは他にも精神的・社会機能的に大きな影響を受けるため、リウマチでは発症してすぐに関節疼痛や腫脹を抑え、関節の破壊や変形を防ぐ治療を受けることがとても重要です。

この身体機能障害の度合いを評価するのが、Health Assessment Questionnaire(HAQ)といわれる基準です。8項目の動作の難易度をはかるアンケートで、

  • 0点:難なくできる
  • 1点:少し難しい
  • 2点:かなり難しい
  • 3点:全くできない

とし、8項目すべての平均点(0~3点)で評価します。

Health Assessment Questionnaire (HAQ)

  1. 衣類着脱・身支度動作(1人で着替えることができるか、1人で髪を洗えるか)
  2. 起床動作(椅子から立ち上がれるか、就寝・起床の動作が可能か)
  3. 食事動作(皿の上の肉を切れるか、コップを口元へ運べるか、牛乳パックの口を開けられるか)
  4. 歩行動作(戸外の平坦な地面を歩けるか、階段を5段以上登れるか)
  5. 衛生動作(体全体を洗いタオルで拭けるか、浴槽に浸かれるか、トイレで座ったり立ったりできるか)
  6. 伸展動作(店にある2kgの荷物を降ろせるか、腰を曲げて床にある衣類を拾えるか)
  7. 握力動作(自動車のドアを開けられるか、ビンの蓋を開けられるか、蛇口の開け閉めが可能か)
  8. 活動動作(買い物等で出かけることができるか、車の乗降ができるか、家事ができるか)

参考:湯川リウマチ内科クリニック 問診票(PDF)

 

上記のHAQが0.5未満になった状態を、機能的寛解(HAQ寛解)といいます。

 

リウマチを発症したばかりで関節破壊や変形がみられない患者さんの場合、臨床的寛解・構造的寛解・機能的寛解の3つに達した完全寛解を目指し、治療を行います。

関節破壊や変形が既に進んでしまっている患者さんの場合、完全寛解に到達するのは困難です。しかし、適切な治療を行えばHAQは少しずつ低下し、生活の質も徐々に改善していくのが実感できることでしょう。ですから、何歳になっても、また高度な関節破壊が起こっていたとしても諦めず、適切な治療を受けることが大切なのです。