脳卒中は頭の中の血管が詰まる、もしくは切れることによって起こる疾患で、世界的に見ても主な死因となるのみならず、障害をもたらす原因としても注目されています。
脳梗塞は脳卒中の1つで、頭の中の血管が詰まることにより生じる疾患です。脳卒中の中には他に、血管が切れることによって生じる脳出血、脳動脈瘤という血管の“コブ”が破れて生じるくも膜下出血があります。脳卒中は日本人死亡原因の第4位で、年間およそ11.4万人の方が脳梗塞が原因で死亡していると報告されています(厚生労働省人口動態統計2014年より)。そして、そのうちの約60%が脳梗塞による死亡とされています。
一方で脳卒中は罹患(病気にかかること)した場合に要介護状態となる原因の第一位である事実も重要です。脳卒中に関して、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血がどのような病気であることを理解していただくこと、更には予防法、治療法をご紹介することを目指して解説をさせて頂きます。本稿ではまず脳梗塞に関して解説いたします。
脳梗塞ってどんな病気?
「血管が狭くなったり詰まったりすることで脳へ酸素とエネルギーが十分に供給されないことで脳の障害が起こるもの」をまとめて虚血性脳血管障害と呼びます。
虚血性脳血管障害は、さらに「脳梗塞」と「一過性脳虚血発作(TIA)」とに分けられます。脳梗塞は脳細胞に既にダメージが起こってしまったもので、MRIという画像検査で梗塞巣(脳神経細胞が死んでしまった部分)を確認することができます。
一方、TIAとは症状が出る程度の虚血性のダメージがあるものの不可逆な脳梗塞にまでは至っていない状態を指します。以前は「虚血性脳血管障害の中で24時間以内に症状が消えるもの」と定義されていましたが、これではMRIの所見から脳梗塞との関係に齟齬が生じることになってしまい、最近はMRIの普及とともに「MRI画像には脳梗塞が写らないが虚血による一時的な神経学的機能障害を起こすもの」と定義が変わりつつあります。
ここで重要であるのは、TIAを起こした方の15~20%の方が90日以内に脳梗塞を起こしていて、特にTIA発症から48時間以内の早期に脳梗塞を起こすことが多いということです。いわばTIAは脳梗塞の前兆とも言える病態です。ですから最近は、TIA診断後直ちに脳梗塞発症予防の精密検査を行い、病態に合った治療を開始することが勧められています。
ここで気を付けなければいけないことは、必ずしも全ての脳梗塞に前兆としてのTIAが先行するわけではないということです。TIAを経ずに直接大きな脳梗塞を起こす場合もあるのです。
脳梗塞の分類
脳梗塞は、その発症のメカニズムと病気のタイプを組み合わせて診断します。
発症のメカニズム
1.血栓性(けっせんせい)
主な原因は動脈硬化です。動脈硬化によって脳の動脈がだんだん狭くなり、そこに血栓(血のかたまり)ができ、最終的に血管が詰まって脳梗塞が起こります。
2.塞栓性(そくせんせい)
心臓や、頸部等、血液が頭に至る手前の血管に出来た血栓などの塞栓源が血流に乗って脳へ飛んで行き、血管が詰まって起こるものを塞栓性脳梗塞と言います。
代表的なものに心原性脳塞栓症があります。これは心臓で例えば心房細動というタイプの不整脈が原因で血栓ができ、それが脳に飛んで行き脳の血管を閉塞することで脳梗塞を起こします。
突然に生じ、太い血管が侵されることが多いため重症で死亡率が高いことが多いことが特徴です。
3.血行力学性(けっこうりきがくせい)
もともと血管の狭窄(血管がせまくなること)があるものの脳梗塞を起こしてない状態に、血圧低下や脱水などが原因となって、脳の血流量が低下する事によって起こるものです。
病気のタイプ
発生のメカニズムによる分類は、先の「血栓性、塞栓性、血行力学性」の3つに分類されますが、実際の臨床現場では、病気がどんな原因で起きているかによって治療方針が違うため、以下のような臨床病型分類が使われます。
1.アテローム血栓性脳梗塞
近年の食生活欧米化により増加傾向にあります。大動脈や頸動脈等の頭蓋外の動脈、更には頭の中の比較的太い動脈の動脈硬化に起因するタイプの脳梗塞です。
①動脈硬化によって細くなった血管が血栓により閉塞する場合と、②動脈硬化を背景に生じた血栓が血流にのって飛んで行って頭の中の血管を閉塞する場合があります。半分弱のケースで前触れとしてのTIAを認めると言われています。
2.ラクナ梗塞
原因として高血圧との関連が強いと考えられているタイプです。日本人に多いとされていましたが、近年は減少傾向です。
脳梗塞の大きさが1.5cm未満のものが該当し、穿通枝領域(せんつうしりょういき)と呼ばれる脳の比較的中心辺りに発生する小さな脳梗塞です。
3.心原性脳塞栓症
心臓に血栓ができ、その血栓が脳に流れて動脈を塞いで起こる梗塞です。原因となる代表的な病気には心房細動、急性心筋梗塞、心臓弁膜症などがあります。
4.その他
上記のどの病型にも分類されないものです。BADと呼ばれる穿通枝(せんつうし)領域の1.0㎝を超える縦長の梗塞(臨床的には適切な治療を行っても進行することが多く治療が難しい病態です)などはその他に分類されます。
その他、動脈解離(解離:血管の内層が裂ける)が原因で起こる脳梗塞などがあります。
脳梗塞でどんな症状がでる?前兆は?
以下に脳梗塞の症状を紹介していきますが、これらの症状が自然に軽快し、MRI上も脳梗塞と考えられる異常所見をきたさなければ、TIA、MRIで異常所見を認めれば症状に関わらず脳梗塞の診断となります。
つまり、症状が脳梗塞の前兆の症状であるのか起きてしまった脳梗塞の症状なのかは最近の新しい定義においてはMRI検査をしてみるまで分からないのです。
アテローム血栓性脳梗塞では40%程度に前兆としてのTIA症状があると報告されています。症状を起こして数日後に大きな脳梗塞が発症する場合もあるので、注意が必要です。
脳梗塞は、起こった場所と大きさにより多種多様な症状を示します。例えば突然の半身麻痺等、エピソードをお伺いしただけで脳卒中を強く疑う症状はありますが、比較的軽微な症状に関しては、実際の臨床においても症状をお伺いしただけでは脳卒中かどうかの判断に迷う場合も多く存在します。現実的には様々な診察結果を考え併せて、脳卒中らしいか、らしくないかを判断し、その後の検査、治療方針を立てることになります。
ここで、これまでの脳梗塞ではなく脳卒中と申し上げるのは、実臨床において状況はさらに複雑で、診察上の異常所見があり、脳のダメージを疑った際にそれが本稿で解説している脳梗塞である場合と、脳の血管が破綻して出血することで脳にダメージを来たす脳出血である場合があり、それらを鑑別する必要があるからです。
以下に、比較的頻度が高く分かりやすい脳卒中の症状をご紹介します。
運動障害、感覚障害
典型的には右側もしくは左側の片方の手足に麻痺や痺れるような感覚障害が起こったりします。脳の中で、手に命令を出す細胞と足に命令を出す細胞は近くに存在していますから、典型的には手にも足にも同じような症状が出るわけです。
但し前述のラクナ梗塞が手の領域もしくは足の領域だけに限局して起こることがあり、この場合は手だけ、足だけの症状もあり得ます。
感覚障害に関しては「直接手足を触れているのに、服の上から触っている感じがする」等の感覚障害を生じることもあります。
手足以外にも、顔面の筋肉にも麻痺が起こることがあり、顔の筋肉が片方だけ緩んだり、口角が下がって水を飲もうとすると口角から水がこぼれ落ちたりする事もあります。
言語障害、失語症
ろれつが回らず何を言っているのか聞き取れなくなったり(構語障害)、話したいのに言葉が出なくなったり(運動性失語)、言葉が理解できなくなったり(感覚性失語)します。
構語障害は声を出す筋肉の麻痺の症状で、失語は言語中枢の障害です。言語中枢は右利きの方の場合99%程度、左利きの方の場合は50%程度左大脳半球に存在することが知られています。症状はご本人ではなく、ご家族が「いつもと違う」と気付いて下さる場合が多いです。
視野障害
後大脳動脈という後頭葉に血流を送る血管が閉塞すると半盲と呼ばれる視野の半分だけが欠ける症状が生じます。
症状はご本人が自覚しづらい場合があり、「横の壁に気づかずにぶつかってしまった」等の症状で来院されることがあります。
平衡感覚の障害
小脳に脳梗塞が生じた場合には体のバランスが取れなくなって転倒したり、ふらついたり、めまいが起こる事があります。
日常でできる予防方法
脳梗塞を誘発する危険因子の「高血圧」「糖尿病」「高脂血症」の予防がそのままリスクを減らすことになります。
今すぐ日常生活で改善できるものとしては「禁煙」「過度な飲酒を避ける」「肥満解消」などがあります。特に高齢者の方は脳梗塞になるリスクが高くなっているので、自らの生活習慣を見直すことで、より一層脳梗塞の予防に繋がります。
まとめ
本稿では脳梗塞の病態に関してその病態と症状に関して解説いたしました。次の機会に脳梗塞の予防や最新の治療法に関してご紹介させていただく予定です。