食道裂孔ヘルニアとは、胃の上部が横隔膜の食道裂孔を通って胸の方へ脱出した状態のことを指します。胃食道逆流症の原因ともなるこの疾患の治療法はどのようなものがあるのでしょうか。今回はセルフケアを中心としてご紹介したいと思います。食道裂孔ヘルニアの症状や胃食道逆流症との関係については、「食べたものが逆流する!?食道裂孔ヘルニアの原因と胃食道逆流症との関係って?」をご覧ください。

目次

食道裂孔ヘルニアはどのように診断される?

食道裂孔ヘルニアの典型的な症状は胸やけですが、胸やけと胃もたれについて誤解をしている人も少なくないのではないでしょうか。

胸やけとは、胸の下の方から上の方へ向かって熱くなる感じがします。それに対して胃もたれは、胃が重くむかむかする感じがします。症状のない場合には治療は必要ありません。しかし胸やけや酸っぱいものがこみあげてくる感じなどの自覚症状が辛いのであれば、胃腸科や消化器科を受診しましょう。

食道裂孔ヘルニアの診断は、バリウムを飲んで行うレントゲン胃食道造影検査や内視鏡検査によって判断されます。食道裂孔ヘルニアと診断されれば、胃食道逆流症によって起こっている症状に対しては薬物治療を行います。食道裂孔ヘルニアが大きいために内服治療などで治癒しない場合は外科的治療(手術)を検討することもあります。

どのような治療が行われる?

治療は生活・食事指導、薬物療法、内視鏡を使った治療、手術治療の四種類があり、一般的には薬物療法が主体となって進められます。主に胃酸の分泌を抑える薬のプロトンポンプ阻害剤やH2ブロッカーなどが処方されます。内視鏡を使った治療はまだ始まったばかりですが、胃と食道の境目の締りを強くする治療が考案されています。

内服薬で効果が得られない場合には、胃を切るのではなく、形を変えるための手術による治療を行います。手術は、まずは胸の中に上がった胃をお腹の中に戻し、緩んだり大きくなった裂孔を縫って縮めます。そして胃で食道を巻きつけて胃と食道の繋ぎ目である噴門を作ります。胃の一部を食道の後ろから約2/3周巻きつける方法を「Toupet手術」と言い、食道を胃で全周巻きつける方法を「Nissen手術」と言います。最も、標準的で効果も十分にある方法は内服薬による治療なので、手術治療が行われるのはそう多くはありません。

日常生活の注意は?

ベットで横たわる女性-写真

食道裂孔ヘルニアの治療の主力は薬物治療ですが、病院では様々な生活指導や食事指導も行っています。薬物治療と生活指導を同時に行うことで症状が緩和して生活の質も良くなることが分かってきました。食道裂孔ヘルニアの治療では、患者自身の積極的な参加がとても重要になるのです。

食事の注意

1.刺激物を控える

酸味の強いものや激辛のもの、熱すぎるものは食道を刺激して胸やけを起こす原因となることがあるので取り過ぎないように気をつけます。

酸度の強いものの例として、お酢、レモンなどの柑橘系の果物、コーラ類、スタミナドリンク類が挙げられます。一般的に酸っぱいものは酸度が高いのですが、梅干しは酸性ではありません。牛乳やお茶は中性の飲み物なので、胸やけなどの症状があるときに飲むと一時的に症状が落ち着くことがあります。

激辛カレー、麻婆豆腐、ラー油などの辛いものも胸やけ症状を起こしやすく、熱いものは胸の奥が熱く焼けるように感じることがあります。熱い激辛カレーを食べた後にオレンジジュースを飲むなど、酸味、激辛、熱いものを同時にとると胸やけを非常に起こしやすくなります。カレーを食べたいときは、甘口にして温度が少し冷めた頃に食べ、食後に牛乳などを飲むなどの工夫をしましょう。

2.甘いものはほどほどにする

刺激物だけではなく、甘いものも胸やけを起こすことがあるので注意が必要です。甘い物は糖質を沢山含んでおり、胃液の中で溶けると浸透圧が高い濃い液体となります。食道の表面の粘膜に浸透圧の高い濃い液体を垂らしておくと小さい傷ができることがあることが分かっているので、甘い物を食べるときは量を控えめにして少しずつ食べるようにしましょう。

3.脂っこい料理を減らす

最近の日本人は食生活の変化によって脂肪の摂取量がどんどん増えてきました。脂を含む食べ物が胃から十二指腸に届くと十二指腸からコレシストキニンというホルモンが分泌されて食道と胃の境目の締り具合を緩めてしまうことがあります。また、脂肪を沢山食べると太りやすくなるので、食道裂孔ヘルニアの原因と考えられている肥満にも注意する必要があります。

脂っこい食事は一見美味しそうに見えることも多いので、避けることは難しくもありますが、和食を中心として献立をするなどして脂肪の摂取量を少なくしましょう。また、食べる量は腹八分目にすることも大切です。満腹になると胃の上の方の食道に近い部分が膨らみ境目の締りがゆるんでげっぷが出ることがあります。げっぷと一緒に胃液が食道内に逆流をすると胸やけを起こすので、いつも食べ過ぎてしまう方は食事量に気を遣うことも意識してみましょう。

姿勢の注意

前かがみになると胃よりも食道の方が低い位置にくるので、逆流が起こりやすくなり胸やけに繋がります。また、お腹が圧迫されることで胃が外から押されて胃の中の物が食道へ逆流しやすくなるとも考えられています。

仕事や勉強などで、長時間机に向かうことも普段の生活では多いと思いますが、できるだけ前かがみにならないように、姿勢をまっすぐに保つようにしましょう。食道裂孔ヘルニアは重症になると食道と胃の境目が緩んでしまうので、身体を横にすると逆流を起こしやすくなります。食道の防御機能が低下しやすい夜間は上半身を少し上げるなどして、胃液を重量によって胃の中へ押し戻すようにしてみましょう。ベッドの頭側にクッションを置いて上体を高くして眠るなど、試してみると良いかもしれません。

まとめ

食道裂孔ヘルニアは、レントゲン胃食道造影検査や内視鏡検査によって診断されます。治療は主に薬物療法が中心となって進められますが、効果を高めるためにもセルフケアを続けることがとても重要です。食事の面では、刺激物を控える、甘いものはほどほどにする、脂っこいものは避けて食べ過ぎないことに気を付けます。

また、前かがみになると胸やけを起こしやすくなるので、なるべくまっすぐな姿勢をとることも大切です。ストレスはどの病気にも悪影響を及ぼすので、過労やストレスを避けてできるだけゆとりのある生活を送るようにしましょう。