食事の後に胸やけがする、胃腸の不調がずっと続いている…こんな症状を感じているときは、胃腸炎、胃潰瘍、胃食道逆流症など様々な病気が思い浮かびますが、食道裂孔(れっこう)ヘルニアの可能性もあります。

この耳慣れない「食道裂孔ヘルニア」という病気について今回はご紹介いたします。

目次

食道裂孔ヘルニアとはどんな病気?

食道裂孔ヘルニア-図解

「ヘルニア」と聞くと一般的には腰痛などの原因となる「椎間板ヘルニア」を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。

しかしヘルニアとはもともとは、身体の中の臓器が体腔外へ脱出することを指していて、消化器(食道、胃、小腸、大腸など)の病気の中にヘルニアという病名がつくものもあるのです。

私たちがものを飲んだり食べたりすると、口から食道を通って胃まで届きます。
胸とお腹を隔てているところに筋肉の塊でできた横隔膜という壁があり、食道はこの横隔膜を通り抜けなければいけません。

このとき通り抜ける孔(穴)を食道裂孔と呼んでいます。食道に孔(穴)が開くのではなく、食道が通るためにもとから開いている孔のことです。

本来ならば孔が開いている部分はじん帯でしっかり固定されているのですが、じん帯が弱かったり筋肉が伸びすぎてしまったり、腹圧がかかりすぎたりすると、横隔膜の下に収まっているはずの胃が胸の方へ脱出してくることがあります。

このことを「食道裂孔ヘルニア」と呼んでいます。

なにが原因で起こるの?

生まれつき食道裂孔ヘルニアにかかることもありますが、多くの原因は加齢によるものだと考えられています。

また、肥満、骨粗しょう症のための腰や背中の歪曲、ぜん息や慢性気管支炎などによって起こるによって腹圧が上昇することも原因とされています。

これまでは日本には少ない疾患であると考えられていましたが、食生活の欧米化による肥満者が多くなったこと、高齢化が進んでいること、内視鏡の技術の進化などによって今まで原因不明とされていた胸の痛みなどが食道裂孔ヘルニアによるものであることが分かってきたことなどを理由として日本でも患者が増えてきました。

食道裂孔ヘルニアの症状は?

軽度の食道裂孔ヘルニアの場合は、あまり命に関係するようなことではなく無症状であることも少なくありません

時に胃液が食道内に逆流して逆流性食道炎を起こしたり、食べたものが詰まったり、食欲不振、便秘、などを起こすことがあります。

嘔吐などによって胃液が食道に逆流するために起こる症状としては、胸やけ、呑酸(酸っぱいものが胸の上のほうや喉の奥のほうにこみあげてくること)げっぷ、胸の痛みなどです。

稀ではありますが、脱出した胃が大きい場合には、肺や心臓を圧迫することもあるので呼吸困難動悸などの症状も見られます。

食道裂孔ヘルニアと逆流性胃腸炎の関係は?

胃が横隔膜から脱出した状態であると逆流性胃腸炎を起しやすくなる理由は、食道の筋肉の収縮が関係しています。

食道の壁の筋肉は二つの層からできていて、食道の内側の筋肉層は収縮すると食道内を狭くさせて、外側の筋肉層は収縮すると食道の長さを短くさせる働きを持っています。

食べ物を飲み込むと、口側の食道の筋肉が収縮して口から胃へと食べ物を押し出します。
同時に口から胃の方向へ並ぶ筋肉が食べ物と胃の距離を縮めるように収縮します。

この筋肉の動きの組み合わせによって食べ物が口から胃へと運ばれています。

食道の口側の端は喉に固定されていますが、胃側の端は横隔膜にあるじん帯によって横隔膜にくっついています。

このじん帯は弾力性があり、食道の中を食べ物が通って食道が短くなっているときは長く伸びて、食道に食べ物がなく長くなっているときには短く縮んでいます。
つまり毎日食事をして食べ物を飲み込むたびに食道が短くなり、じん帯が引っ張られているのです。

年を取るにつれてこのじん帯の弾力がだんだん低下して、引っ張られた後に伸びきったゴムのように元の長さに戻らなくなってきます。

すると下部食道が横隔膜に固定できなくなるので、食べ物が通ったときに短くなった食道をじん帯の弾力性によって元の長さに戻すことができなくなり、胃の上部がお腹から胸の方へ横隔膜を超えて出てきてしまう食道裂孔ヘルニアを発症するのです。

食道と胃の繋ぎ目噴門と呼ばれています)は、正常であれば食道に胃液が逆流するのを防ぐ役割を果たしています。

しかし、食道と胃の境目にある筋肉が収縮すると噴門が胸の方へ移動してしまい、食道に胃液が逆流しやすくなります。

食べ過ぎるとげっぷがでる理由は、一時的に噴門が開いて胃に溜まった空気を出しているのですが、食道裂孔ヘルニアがあるとげっぷをしたときに空気だけでなく胃液も逆流しやすくなり、逆流物を胃の中に押し戻す効率も悪くなってしまうのです。

まとめ

食道裂孔ヘルニアとは、横隔膜を通って胃の一部が胸の方へ出てくる病気です。軽症の場合は症状を感じないこともあるのですが、時に食べ物がつまったり、胸やけ、食欲不振などを感じることもあります。

食道裂孔ヘルニアになると胃液が食道に逆流する逆流性食道炎を起こすことがあります。
肥満の方や高齢の方、背骨が曲がっている方に起こりやすいと言われています。