尿崩症、心因性多飲症という病名を聞いたことはありますか?いずれも「口が乾く」「水を飲み過ぎる」「尿が多くなる」という症状が出る疾患です。
症状が似ていることから判別が難しいとされています。しかし両者はその原因が異なることから、検査方法や治療も大きな違いがあります。どのような検査、治療を行うのでしょうか?
尿崩症の検査
基本的な検査
尿検査で尿量を調べます。尿崩症の場合、1日尿量が3000mlを超えます。
また、尿浸透圧(尿中に含まれるカリウムやナトリウムなどの濃度)を測定します。尿崩症では、尿中の水分の量が多くなるため、尿浸透圧は低下します。
併せて、高張食塩水負荷試験という検査を行います。これは、血漿内の抗利尿ホルモン(ADH)の濃度を調べるものです。
また、特に必要な場合には、水制限試験(水分を制限して行う尿検査)という検査を行うこともあります。ただしこの検査は強い苦痛を伴うものであるため、患者さんの状態を絶えず観察できる状況においてのみ行われます。
タイプに応じた検査
尿崩症には、原因により2つのタイプがあります。人間の尿の排泄はホルモンにより調節されています。尿崩症では、この排泄を調節するホルモンのうち、腎臓での水分の再吸収を促す抗利尿ホルモンに不具合が発生することで症状が出ます。
ホルモンの分泌に異常をきたすものが中枢性尿崩症、ホルモンの受け取りに異常をきたすものが腎性尿崩症です。
中枢性尿崩症の検査所見
中枢性尿崩症では、ADH(抗利尿ホルモン)の分泌が低下します。血液検査により、血液中のADH(抗利尿ホルモン)の量を測定します。脳の視床下部・下垂体の腫瘍、脳血管疾患が原因で尿崩症を発症することが多いとされています。必要に応じてMRIやCTなどの画像検査を行い、脳血管疾患の有無を調べます。
腎性尿崩症の検査所見
腎性尿崩症では、ADH(抗利尿ホルモン)の分泌に正常に行われるものの、このホルモンを受け取る受容体の遺伝子に異常があることで、ホルモンがうまく受け取れず症状が出ます。重大な合併症として、血液中のナトリウム濃度が高くなる高ナトリウム血症がみられます。
加えて、多尿により腎臓や膀胱が拡張し、水腎症や巨大膀胱などの尿路系の疾患がみられることがあります。悪化すると腎機能が低下し、腎不全を引き起こすため、早期発見が必要です。腹部超音波検査や腹部CT検査などの画像検査を行い、腎臓や膀胱の状態を調べます。
水腎症の検査・治療については「水腎症の検査と治療を解説!小児の場合はどうする?」の記事を参照にしてください。
尿崩症の治療
中枢性尿崩症の治療
主に薬物療法を行います。不足している抗利尿ホルモンを補うために、抗利尿ホルモンと同じ働きをするデスモプレシン製剤を投与します。鼻から投与するデスモプレシン点鼻液、デスモプレシンスプレーや、水なしで飲める口腔内崩壊錠のデスモプレシン錠剤(商品名:ミニリンメルトOD錠)が一般的です。
デスモプレシンは、副作用として低ナトリウム血症(水中毒)や口の渇きなどが報告されています。全身のだるさや頭痛、吐き気などがみられた場合、低ナトリウム血症を引き起こしている可能性がありますので、医師に相談してください。
脳腫瘍などの脳血管疾患が原因にある場合は、原因疾患の治療を行うことで、症状が改善されます。
腎性尿崩症の治療
腎性尿崩症は遺伝子異常により発生しますが、原因がはっきりしておらず完治させるための治療法は開発されていません。軽度の腎性尿崩症では、中枢性尿崩症と同様にデスモプレシン製剤を投与することで、症状が改善することがあります。
合併症の予防のために、必要に応じて水分の排出を促す利尿薬を投与します。また、インドメタシンなどの非ステロイド系抗炎症薬が効果的な場合もあります。
心因性多飲症の検査
心因性多飲症は、ストレスや不安などの心理的な問題が原因となります。そのため、内科的な検査をしても、腎機能障害や脳血管疾患などの原因疾患がみられません。この点、心因性多飲症では多飲行動により尿量が増えるので、水分制限を行うことで尿量の低下がみられるという特徴があります。
また、重度になると、過度な飲水により体内のナトリウムやカリウムの濃度が低下し、低ナトリウム血症や低カリウム血症などを引き起こします。血液検査により、血中のナトリウム濃度やカリウム濃度を測定します。
また、ストレスや他の精神疾患を抱えていることも多いため、精神科・心療内科での問診を行い、必要に応じて心理検査を実施します。
心因性多飲症の治療とケア
心因性多飲症は、精神科や心療内科で治療を行います。飲水量を制限させるだけでなく、心理面へのケアが重要です。
心理カウンセリングにより心の不安やストレスを取り除いたり、心理教育によって飲水への正しい知識を身に付け、飲水量を減らします。また、同じ病気の患者同士で話し合いをすることで、自らの病気と向き合う治療を行うこともあります。
不安やストレスの原因として、うつ病や不安障害などの精神疾患がある場合には、疾患に応じて抗うつ剤や抗不安薬などの薬剤を投与することもあります。
さらに、過度な飲水により低ナトリウム血症や低カリウム血症を引き起こすなど合併症がみられた場合には、体内のナトリウムやカリウムを補うための点滴を行います。
まとめ
尿崩症と心因性多飲症は、いずれも簡単に治療できる病気ではありません。多飲は無意識のうちに行ってしまうことも多く、悪化するまで放置されてしまうことも多い病気です。しかし、全身にさまざまな合併症を引き起こすこともあるため、気になる症状がある場合には早めの検査が必要です。
検査を受けることで、早期診断だけでなく、隠されていた原因疾患や、心のストレスに気付く可能性もあります。