糸球体(腎臓にある、フィルターの役割をするもの)の網の目が詰まってしまうことで、腎臓の機能が低下してはたらかなくなった状態を腎不全といいます。急性腎不全「慢性腎不全」があり、急性腎不全は症状が急激に悪くなりますが、多くは治療によって回復することが可能です。ここでは、徐々に進行して、回復も難しいことの多い慢性腎不全について説明します。

目次

腎臓は身体の浄化装置

腎臓はソラマメのような形をした、握りこぶしくらいの大きさの臓器です。背骨を挟んで左右に1つずつあります。もし片方が機能しなくなっても、1つでがんばることができます。小さな臓器ですが、生命を維持するためにとても重要なはたらきをしています。

老廃物の排泄

腎臓の中では糸球体で老廃物を濾過し、さらに尿細管という部分で、体に必要なものは再度血液の中に取り込み、必要のないものは尿として体外に排出しています。

腎臓病ではこの機能が低下し、体に老廃物や毒素が溜まることで体中に症状が出てしまうのです(尿毒症といいます。のちほど詳しく解説します)。

体液の量の調整

腎臓はそのろ過機能により、体内の電解質(ナトリウム、カリウム、リン、カルシウム、マグネシウムなどの「イオン」と呼ばれる物質)の量を調節しています。そして、体内の電解質の量を調節することなどで、体の水分(体液)のバランスをとっています。

電解質のバランスが崩れることで筋肉の痙攣、体液のバランスが崩れることで高血圧むくみなどの症状が出てきます。

ホルモンの分泌と調整

腎臓はホルモンを分泌する内分泌器でもあります。エリスロポエチンという血液を造るホルモン、レニンやプロスタグランジンという血圧を調整するホルモンを分泌しています。また、ビタミンDを活性化してカルシウムの吸収を促し、骨の代謝にも関与しています。

腎不全の原因は?

1.すべての腎臓病は悪化すると腎不全になる

腎臓病は糸球体や腎臓の血流を障害されることで起こります。そのため、悪化するとどれも腎不全の状態になってしまうのです。代表的な腎臓の病気には以下のようなものがあります。

  • 慢性糸球体腎炎・・・糸球体に障害が起こる病気
  • 腎硬化症・・・高血圧や動脈硬化がもとで、腎臓への血流障害が起こる病気
  • 多発性嚢胞腎・・・嚢胞(液体のたまった袋状のもの)が腎臓や肝臓にたくさんできて、腎機能が悪化してしまう病気
  • 糖尿病性腎症・・・糖尿病による高血糖がもとで、糸球体などに障害が出る病気

2.メタボリックシンドローム

糖尿病高血圧高脂血症といった生活習慣病は、血液や血流の障害を起こすので、腎機能を低下させやすくなります。特に近年では、糖尿病が原因となる糖尿病性腎症が増えています。

症状で病気はわかる?

慢性腎不全は徐々に進行するため、気づいたときにはすでにかなり進行していた、ということが珍しくありません。定期的な健診で早期発見できることもあります。症状としては以下のようなものがあります。

  • むくみやすい・・・腎機能の低下により、水分と電解質のバランスが悪くなっている
  • 尿が泡立つ・・・尿に蛋白が混じるようになっている
  • 頻尿と多尿・・・水分の調節機能が低下している

症状が進行して強くなったものを尿毒症といいます。全身のだるさ、思考力の低下、吐き気、食欲低下、高血圧、知覚異常、皮膚のかゆみ、網膜症など、体中のあらゆる症状が出てきてしまいます。

進行した腎不全ではしびれ、筋力低下、不整脈、心停止のリスクのある高カリウム血症、尿量低下に伴う体液過剰貯留による肺うっ血心不全に注意が必要となります。

腎臓が生命を維持している?

機械の歯車-写真

人間の身体は精密機械より精密にできています。例えば精密機械の工場では、ほんの少しの塵が、機械を止めてしまうことがあります。そのため、工場に塵が入らないように、高性能のフィルターを備えた装置がはたらいています。腎臓はいわば高性能のフィルターの役割をしています。

腎不全では、人間の身体の中でトラブルの原因となる老廃物(塵)を除去することができなくなります。精密機械にたくさんの塵がついてしまうことになる、と考えてみてください。塵のたくさんついた精密機械は止まってしまいます。人間の身体では、老廃物が溜まって最終的に止まってしまうのは心臓です。

ただ、ほんの少し老廃物が増えただけでは、身体にはそれほどの症状は出ません。ですが、その段階から検査では異常が見え始めます。身体に症状がないから、と放置しないでください。

検査で異常が見つかった段階から治療を始められれば、その分、腎臓の機能を保つことができるのです。適切な治療を早い段階から受けたいですね。

健康診断でわかる腎機能の低下

先に述べたように、腎臓の異常はある程度進行してから症状が出るようになります。そのため、検査での異常に気付き早い段階で対処する必要があります。

腎機能の確認をするために必要な血液検査の項目はいくつかあります。特に指定しなくても健康診断でも含まれるものが、クレアチニン尿素窒素です。

クレアチニン(Cr)

筋肉から出る老廃物のひとつで、腎臓からのみ排泄されます。そのため、この値が高くなるということは排泄がうまくいっていない、つまり腎臓の機能が低下している、ということになります。ただ、筋肉からの老廃物なので、筋肉が多い人はこの値が高くなり、筋肉が少ない人は低くなります。

尿素窒素(BUN)

たんぱく質の老廃物で、腎機能が低下すると腎臓に溜まるため、検査の数値が高くなります。ただし、たんぱく質の多い食事を摂ったあとや、脱水、消化管出血があるときも高い数値になるため、腎臓以外の原因がないかを確認する必要があります。

その他

このほか、尿検査で尿潜血や尿たんぱくが出ていた場合も注意が必要です。気になる項目があったら、受診しましょう。また、血液検査では、特に医師が指定して調べる項目としてe-GFR(推算糸球体濾過量)があります。クレアチニン値と性別、年齢から計算して求める値で、健診項目に入っていることもあります。5段階で評価して腎臓の機能がどの程度かを確認します。

まとめ

腎臓がはたらかなくなると、いらないものが溜まって悪影響が出るのが腎臓病、それが進行してしまった状態が腎不全です。腎臓のはたらきがないと、身体に老廃物が溜まること、それにより死に至ることもあることがお分かりいただけたでしょうか。処理できない老廃物が血中にたまってきていないか、尿にたんぱくなど出てはいけないものがないかを見つけるのが検査です。その老廃物が血中に増えないよう、腎機能をできるだけ保持することが治療のカギとなります。