秋の夜長といいますが、日本には四季があり、季節により日照時間も異なります。私達ヒトにおいて、季節の変化、すなわち日照時間の変化と睡眠はどのように関わっているのでしょうか。近年、注目されている睡眠ホルモンであるメラトニンの観点から、みていきましょう。

目次

ヒトの体内時計

ヒトは朝、体と脳が目覚めます。布団の中では休息モードですが、起きて活動するためには脳が活発に働く必要がありますし、色々な体の動作には筋肉が働きます。食事をすれば消化をするために胃や腸、肝臓などが働きます。

体や脳は、目覚めればいつでも働くという訳ではありません。夜中にトイレや物音で目覚めても、脳はまだ活発になっていないためボーっとしていますし、すぐに何か食べようとしても気持ち悪くなってしまうことでしょう。やはり自然と朝に体と脳のスイッチがオンになるから、様々なことができるのです。

このように朝になって体と脳が活動を始めるのは、四六時中、時計を見ているからではありません。体の中に体内時計というのがあるためです。そしてこの体内時計の遺伝子は様々な細胞にあるのです。

体内時計の遺伝子は大きく分けて、中枢のものと末梢のものに分けられます。中枢のものは脳の視交叉上核(しこうさじょうかく)にあり、これは25時間周期です。一方、末梢のものは様々な臓器(肝臓や小腸など)にあります。これは、24時間周期です。

中枢と末梢とで周期が少しずれています。早起きするのは大変なのに、徐々に夜更かしして、寝る時間が遅くずれ込んでしまうのがいとも簡単なのは、中枢の時計遺伝子の周期が25時間であるためです。

睡眠ホルモン「メラトニン」

睡眠ホルモン-メラトニン- ヒトの体内時計-図解
メラトニン体と脳をリラックスさせ、眠気を誘うホルモンです。夜になると分泌され、体の深部体温を下げ、休息モードへと導きます。脳の松果体というところで作られ、血液中に分泌されます。

日中には分泌されず、夜間に分泌されます。もう少し正確にいうと、朝、日光を浴びてから15時間前後経過すると分泌されます。そして夜中に血中濃度がピークになり、朝方になると減り、朝日を浴びると分泌が止まります。

このメラトニンの分泌のリズムの調節をしているのが、先に述べた中枢の体内時計です。

ちなみにメラトニンの血中濃度は年齢別では10歳未満のときにピークで、以降、加齢に伴って減少します。お年寄りが早朝に目が覚めるのはこのためです。

神経伝達物質「セロトニン」

夜間にメラトニンが分泌するのに対して、日中はそれに代わる物質があるのでしょうか。結論から言うとあります。脳の中の神経伝達物質の一つであるセロトニンがそれです。セロトニンは脳をスムーズに覚醒させたり、心の安定を保ったり、物事への集中力を保つはたらきがあります。脳内のセロトニンが不足すると、うつ病になることが知られています。

セロトニンは朝日を浴びることによって分泌が開始されます。その他、リズミカルな運動、例えばウォーキングや貧乏ゆすり、歯磨き、物をよく噛んで食べるといったことで分泌がより増えます。

日照時間とセロトニン

秋から冬にかけて日照時間が短くなると、セロトニンの分泌量が減り、うつ症状を発症する人がいます。冬季うつ病ウィンターブルー季節性情動障害と呼ばれるものです(以下、冬季うつ病で統一します)。

北欧など高緯度の地域ほど冬季うつ病の発症率が高い傾向があります。ちなみに女性は男性よりも脳内セロトニンが少ないため、女性の方が発症しやすいです。

冬季うつ病の特徴として、うつ症状以外に過眠といって長時間眠ってしまう、過食、特に炭水化物を好んで食べるといった特徴があります。体重が数kg増えることもあります。動物の中には冬眠するものもありますが、冬季うつ病を冬眠の名残だとする捉え方もあります。

セロトニンとメラトニンの関係

セロトニンとメラトニンの関係-図解
セロトニンは必須アミノ酸であるトリプトファンから作られます。そして脳内の松果体においてセロトニンは、いくつかの酵素のはたらきでメラトニンに作り替えられます。

日照時間とメラトニンの関係は?!

日照時間が短くなると脳内セロトニンの分泌量が減ることは前述しました。では日照時間が短くなるとメラトニンの分泌量は増えるのでしょうか、減るのでしょうか。結論から言うと、まだわかっていません。現在でも研究中の部分であり、また色々な仮説や論争があります。

セロトニンがメラトニンの材料だと考えれば、日照時間が短くなると松果体におけるセロトニンの供給量が減るのだから、メラトニンが減るのではないかと考えることもできます。

また、1日を日照時間によって、セロトニンが分泌される時間帯とメラトニンが分泌される時間帯とに分けると考えれば、日照時間が短くなる(夜が長くなる)とメラトニンが増えるのではないかと考えることもできます。

血液中や唾液中のメラトニンを測定した研究も様々な結果を示しており、まだ一定の見解を出すのは難しく、今後の解明が待たれます。

ただ日照時間が長い夏に比べ、日照時間が短い秋~冬には、メラトニンの分泌のリズムが乱れている可能性は十分考えられます。日中はメラトニンが分泌されず、セロトニンが分泌され、夜間にメラトニンがしっかりと分泌される状態が望まれます。

まとめ

日中は脳内セロトニンがしっかり分泌され、夜間はメラトニンがしっかり分泌されるようにする生活を心がけましょう。

まず朝、起きたら眠くても布団から出てカーテンを開け、朝日を浴びることから始めてみてはいかがでしょうか。こうすることで体内時計が朝だと認識します。特に中枢の体内時計は25時間周期なので、朝に日の光を浴びることによってリセットします。こうすることにより、日中、しっかりとセロトニンが分泌されるようになるのです。

また朝食を毎朝食べることも重要です。朝食を摂ると小腸や肝臓といった末梢の体内時計も朝だということをしっかり認識します。朝日を浴びる+朝食で、少しずつずれてしまった中枢の体内時計と末梢の体内時計を同期させるのです。

さらに、夜間はメラトニンが分泌される環境を整えることが重要です。夜間に光を見ると、中枢の体内時計がまだ日中であると勘違いをしてしまい、メラトニンの分泌が抑制されてしまうのです。特に青い色の光(ブルーライト)にて顕著に抑制されます。ブルーライトはテレビやパソコン、タブレットやスマートフォンなどの画面から発生します。就寝する1時間位前からは、なるべくこれらを見ないようにした方が、メラトニン分泌のためには良いでしょう。

食生活で心がけると良いことについては、「女性ホルモンの周期と効果的なダイエット」をご参照頂けましたら幸いです。