腎臓の役割は、老廃物を体の外に排出することです。
腎臓にある「糸球体」という組織(毛細血管が集まった組織で、小さな穴があいている)がろ過装置となって、1日に約150リットルの血液から、老廃物や毒素などが尿として排出されます。
ネフローゼ症候群は、糸球体に障害が起こり、体に必要なタンパク質が尿に漏れ出る症状です。
原因不明の一次性と、糖尿病などから発症する二次性に分かれます。一次性は、厚生労働省の特定難病に挙げられています。
紀元前400年「古代ギリシア」でも、知られた症状?
ネフローゼ症候群とは、糸球体の障害によって、大量(1日当り3.5g以上)のタンパクが、尿に漏れ出す状態をいいます(東京女子医科大学病院・腎臓病総合医療センターより)。病名ではありません。
ネフローゼは、ドイツ語では「Nephrose」と書きますが、ギリシア語の「nephro(腎臓)」が語源のようです。
古くから確認されていた症状と言われ、紀元前400年頃ヒポクラテス(古代ギリシアの医師)の時代から知られていたようです(日本腎臓学会・ネフローゼ症候群診療指針・P.v(PDF)より)。
なぜ「タンパク尿」で、全身がむくむのか?
タンパクが尿に漏出するため、血液中のタンパクが減少します。
これを低タンパク血症といいます。洩れ出たタンパクはアルブミンと呼ばれ、血液のなかにもっとも多く含まれるタンパク質です。
アルブミンの役割は、血管の内外の水分の濃度を均一に保つことです。本来は、糸球体のろ過機能により尿に漏れ出ることはありません。
しかし、糸球体の障害によりそれが尿に排出されてしまうと、血管のなかの水分が保持できなくなり、血液中の水分は血管の外に移動します。
その水分が体のあちこちに溜まり、全身がむくむのです。
尿の量が減り、泡立つのが特徴
ネスローゼ症候群の初期は、疲れやすく休んでも体のだるさがとれないことが続きます。
そのあと、尿の泡立ちと顔のむくみが目立つようになります。やがて「むくみ」は手足に起こり、症状が進むと腹や胸がむくみはじめます。
日中は下半身に、夜間は上半身がむくみやすいともいわれています。
血管内の水分が減少して腎臓に血液が行き渡らなくなり「尿の量が少なくなる」、タンパクを含んだことで「尿が泡立つ」という症状が特徴です。
主な症状をまとめると、次のようになります。
初期症状
中期以降
- 腹水(胃や腸などを包む腹腔に水が溜まること)
- 胸水(肺の表面と肋骨の空間に水が溜まること)
- 体重増加
- 血圧低下
発症年齢は「子供」から「高齢者」まで
ネフローゼ症候群は、特定の年齢層に発症するものではありません。ただし、小児では1歳半〜4歳までの男の子に多くみられます(メルクマニュアル医学百科より)。
それ以外では、男女の差はありません。発症の経緯によって、ネフローゼ症候群は大きく次の2つに分類されます。
- 一次性(原発性):糸球体の異常によって発症するもの
- 二次性(続発性):他の病気が原因となって発症するもの
原因不明の「一次性ネフローゼ症候群」
糸球体の障害がなぜ起こるのか、原因は不明です。
ネフローゼ症候群の患者のうち、子供の約90%以上、大人の約70~80%が「一次性」と診断されています(総合南東北病院より)。一次性は、糸球体の状態によって大きく次の4つに分類されます(メルクマニュアル医学百科より)。
- 微小変化群:糸球体の障害が軽度で、小児や若年者に多く見られる
- 巣状糸球体硬化症:一部の糸球体で血管が硬くなり、青年期や黒人に多くみられる
- 膜性腎症:糸球体の障害が軽度で、成人や白人に多く見られる
- 膜性増殖性糸球体腎炎:比較的稀な症状で、おもに8~30歳に見られる
2015年7月から、厚生労働省の特定難病に指定されています(厚生労働省・健康局疾病対策課より)。
申請して、難病医療費助成制度が受けられます。難病指定されたことにより、国内患者の様子が把握されつつあります。
一次性ネフローゼ症候群は、毎年2200〜2700人が新たに発症し、現在約1万6000人の患者がいると推定されています(難病情報センターより)。
糖尿病膠原病などによる「二次性ネフローゼ症候群」
二次性ネフローゼ症候群は、タンパク尿の原因となる全身の疾病が特定できます。
原因には、糖尿病・悪性腫瘍・感染症(マラリア、B型肝炎など)・アミロイドーシス・膠原病などがあります。
小児では「紫斑病性腎炎(紫紅色の皮下出血を伴う腎炎)」が多く、成人は「糖尿病」と「悪性腫瘍」が多くみられます。
病名ではないため、患者数を把握するのは難しいでしょう。
まとめ
ネフローゼ症候群は、腎臓にある糸球体(血液をろ過する組織)の障害によって、「アルブミン」と呼ばれる血液に必要なタンパク質が大量に尿に漏出することで、全身のむくみ・倦怠感などの症状があらわれます。
場合によっては腎不全へと発展する可能性もあるため、病院で適切な治療を受けることが必須となります。