LOH症候群は、「テストステロン(男性ホルモン)」の低下によって起こる男性の更年期障害です。Late-Onset Hypogonadism syndromeの頭文字をとったもので、日本語では「加齢男性性腺機能低下症候群」と呼ばれます。テストステロンは加齢で低下し、20歳をピークに緩やかに下降します。ストレスや環境の変化によって低下スピードが加速することもあります。LOH症候群の症状は主に精神・身体・性機能の3本柱にあらわれるのが特徴です。
男性は「更年期」を自覚しづらい
女性の更年期障害は閉経を契機に現れ、数年で症状は軽快します。女性の更年期障害は、この時期に起こりやすいホルモンバランスの突然の変化に体が付いていけず、身体や精神に様々な不調が起こる自律神経失調症です。
女性の場合、更年期は閉経を機に「エストロゲン」という女性ホルモンの産生(作り出されること)が一挙に0になるため更年期障害は明確に自覚しやすいといわれます。
一方、男性は閉経に相当する現象がなく、男性ホルモンの分泌低下が緩やかで、発症するタイミングも人によって様々です。自分が「更年期」を迎えていることに実感が持てない男性も多いと思われます。
そのため、40〜60歳の時期に、疲れやすい、眠りが浅い、落ち込みやすいなど身体や精神に異常が現れても「更年期障害ではないか?」と疑う男性はあまりいません。
LOH症候群の存在は、最近ようやくメディアで取りあげられるようになってきましたが、それでも社会認知がいまひとつ広がっていないのは、男性が更年期を自覚しづらいせいかもしれません。
また、男性の更年期障害は症状が持続する場合も多く、うつだと思って心療内科を受診する男性も少なくありません。
「男性らしさ」を作るホルモンの主成分「テストステロン」

LOH症候群は、男性ホルモンである「アンドロゲン」が減少することで生じる様々な症状です。アンドロゲンは、精巣(睾丸)や副腎皮質(副腎の外側)で作られる男性ホルモンです。
そして、アンドロゲンの約95%以上を占めるのが精巣で産生される「テストステロン」というホルモンです(Int J Urol.2015(12):1084-95より)。血中のテストステロンの量は、LOH症候群の診断、治療の際の指標となります。
生体内で男性らしさを作るために働くことができるテストステロンは限られています。男性ホルモンとしての働きを持つもの(生物学的活性テストステロン)は遊離テストステロンとアルブミン結合テストステロンです。そうではないものをSHBG結合テストステロンといいます。
総テストステロンのうち占める割合はそれぞれ、遊離テストステロンで1~2%、アルブミン結合テストステロンで25~65%、SHBG結合テストステロンで35~75%となっています(千葉西総合病院より)。
テストステロンは脳の性差・精子形成・男性らしい筋肉や骨格・男性生殖器・声変わり、体毛などに作用するホルモンです。特に、思春期ごろの男性としての発達成熟に関わる作用がよく知られていますが、成人以降は、筋肉や骨の形成や造血機能、性機能、脂質代謝などを促す役割を果たします。
加齢との関連では、総テストステロンが減少すると同時にSHBG結合テストステロンは増加します。このため生物学的活性テストステロンが相対的に減少し、男性ホルモンの働きは顕著に衰えていきます。
主な症状は「3つ」に分類される
LOH症候群の主な症状は「心」「体」「性」、つまり精神的な症状、身体的な症状、性機能の症状の3つに分類されています。
精神的な症状
うつ病、気力低下、意欲減退、倦怠感、不安感、仕事が辛い、集中力の低下、毎日が楽しくない、イライラするなど
身体的な症状
疲労感、不眠、筋肉痛、肩こり、頻尿、ほてり、のぼせ、手足の冷え、多汗など
性機能の衰え
性欲の低下、勃起不全、朝起ちの減少など
現在実施されている検査
LOH症候群は、症状の有無を質問票により調べ、症状を発生させる他の原因疾患がないことを確認したうえで診断を行います。また、ホルモン治療の導入は血液中の遊離テストステロンの量をもとに検討されます。
質問票による検査
質問票により、症状の有無を調べます。質問票には様々なものが使用されていますが、AMS(Aging Male’s Symptoms)調査票と呼ばれる自己記入式の質問票は、複数の国で翻訳され広く使用されているものです(日本泌尿器科学会/日本メンズヘルス医学会・LOH症候群診療の手引き(PDF)より)。
身体の症状(7項目)、精神の症状(5項目)、性機能の症状(5項目)の計17項目で構成され、各項目を「なし(1点)・軽い(2点)・中程度(3点)・重い(4点)・非常に重い(5点)」の5段階で自己評価を行います。他の原因疾患がない場合、合計点が27点以上で軽度のLOH症候群が疑われます。
- 総合的に調子が思わしくない
- 関節や筋肉の痛み
- ひどい発汗
- 睡眠の悩み
- よく眠くなる、しばしば疲れを感じる
- いらいらする
- 神経質になった
- 不安感
- 身体の疲労や行動力の減退
- 筋力の低下
- 憂うつな気分
- 「絶頂期は過ぎた」と感じる
- 力尽きた、どん底にいると感じる
- ひげの伸びが遅くなった
- 性的能力の衰え
- 早朝勃起(朝立ち)の回数の減少
- 性欲の低下
血液検査
LOH症候群では、男性ホルモンの補充療法が施されることがあり、血液中のテストステロンの量はひとつの客観的な指標となります。日本泌尿器科学会と日本メンズヘルス医学会のLOH症候群診療の手引きに、日本人の場合であれば血中の「遊離テストステロン」が11.8pg/ml未満であればホルモン治療の実施が検討され、8.5pg/ml未満の場合にはホルモン治療の適応となるとされています。
これまで血中遊離テストステロン値8.5pg/mlがLOH症候群に対して治療を実施する基準値でしたが、2015年に測定キットは変更されました。
現在の測定キットでは12.5pg/ml以下が赤信号(治療が必要)、16.2pg/ml以上が青信号(正常)、その間は黄信号(相談の上で治療するか決める)になります。国際的には血中の総テストステロン値が300~320ng/mlを治療を行う基準値としています(千葉西総合病院より)。
テストステロン分泌には日内変動(1日の中で変動すること)があり、朝高く、夕方低くなるという特徴があります。夜の睡眠中に上昇し、再度朝にはピークを迎えるため、睡眠は非常に重要です。
検査は午前中(10~11時まで)に行うことが基本とされています。しかし、テストステロンの値と重症度が必ずしも一致するわけではないことから、テストステロン補充療法の導入のためには症状の有無や程度なども考慮されます。治療法について詳しくは「男性更年期障害(LOH症候群)は何科で治療する?治療方法は」でご紹介します。
まとめ
LOH症候群は、男性ホルモンの低下によって起こる男性の更年期障害です。まだ治療が必要な疾患としての認知が低いことなどから、単に加齢からくる不調やうつ病として症状を放置してしまってたり、心療内科で治療を受ける人が多くいるようです。
最近では、男性専門のクリニックや男性更年期外来を扱うクリニックもあります。ぜひ、一度受診してみてください。