「レジオネラ症」という感染症を聞いたことはありますか?日本国内でもこれまで、何件かの集団感染の事例が報告されており、死亡者も発生しています(東京都健康安全研究センターより)。集団感染は、温泉やレジャー施設といった公衆浴場などを中心に発生しています。誰もがかかる病気ではなく、免疫力の低下が原因となる病気ですが、ここでは感染した場合の症状や、集団感染が起きた原因を詳しく見ていきましょう。

目次

レジオネラ症とは?

レジオネラ症とは、レジオネラ属菌が原因となって起こる感染症で、「在郷軍人病」とも呼ばれます。1976年にアメリカ・フィラデルフィア市のホテルで開かれた在郷軍人の集会(the Legion)で、参加者に肺炎の集団発生が起こったことで発見され、ここから「在郷軍人病(Legionnaires’ disease)と呼ばれるようになりました。

レジオネラ属菌は、河川や湿った土壌など自然環境のなかに生息するありふれた細菌です。自然界ではほとんど感染することはなく、人から人への感染もないとされています。

感染した場合の症状としては、比較的軽い症状で済む「ポンディアック熱」と、症状が重く死亡例もある「レジオネラ肺炎」の2つのタイプがあります。

症状は「肺炎型」と「発熱型」の2タイプ

レジオネラ肺炎

レジオネラ症で怖いのは「レジオネラ肺炎」です。潜伏期間は約2~10日(平均約4〜5日)といわれています(三重県感染症情報センターより)。レジオネラ肺炎にかかると、全身の倦怠感・疲労感・頭痛・食欲不振・筋肉痛からはじまり、発病から3日以内に悪寒をともなって高熱を発します(東京都健康安全研究センターより)。

その後、呼吸困難・吐き気・下痢・意識障害などの強い症状があらわれます。急激に重症になるなど容態が急変しやすく、適切な治療がなされないと発病から7日以内に死亡するケースが多いとされています(東京都健康安全研究センターより)。

ポンティアック熱

ポンティアック熱は、インフルエンザに似た熱性疾患で、風邪の症状とよく似ています。約2〜5日で自然に回復することが多く、集団化しないと報告されないことが多いようです(横浜市衛生研究所より)。潜伏期間は約1~2日(平均38時間)といわれ、倦怠感・筋肉痛のあと約6〜12時間以内に悪寒をともなった発熱があらわれます(東京都健康安全研究センターより)。肺炎はみられず、死亡例の報告はありません。

集団感染はなぜ起きた?

露天風呂-写真

冒頭でもふれたように、国内では公衆浴場での感染事例などが報告されています。また、海外で起こった集団感染では、加湿器冷却塔といった人工設備で使用されている水が菌に汚染されていたという事例もあります。

レジオネラ症は、こうした人工環境水がレジオネラ属菌によって汚染され、汚染水から発生したエアロゾルを吸い込むことによる経気道感染が感染原因と考えられいます。また集団感染の原因としては、衛生管理が不十分だったことで人工環境水の中で菌が増殖したことも指摘されています。加湿器を使用する際には、清潔に十分気を配ってください。

エアロゾルってなに?

エアロゾルとは、空気中に浮遊する液体または固体の粒子のことです。土壌粒子や海塩粒子のように自然で発生するものもありますが、ばいじん(すすや燃えかす)やディーゼル黒煙、アスベストなど、人為的に発生して環境や人体に悪い影響を及ぼすものもあります。レジオネラ属菌を含んだ水はエアロゾルとなり空気中を漂い、このエアロゾルを吸い込んだ人に感染し種々の症状を発生させます。

エアロゾル粒子は、人間のひと呼吸で数百万個が肺に入るといわれています(気象庁気象研究所より)。また、2003年にフランス北部で起きるレジオネラ症の集団感染では、感染源の冷却塔から約6km離れた場所で感染者がでており(横浜市衛生研究所より)、広い範囲に飛散する場合もあるようです。

菌が増殖したのはなぜ?2つの理由

レジオネラ属菌は自然界にも生息する菌ですが、数はそこまで多くありません。感染者の報告があったケースや集団感染事例では、人工環境水の中でレジオネラ属菌が異常増殖したことも感染原因のひとつと考えられています。人工環境水は、次の2つの理由からレジオネラ菌が増殖しやすいといえます。

まず、レジオネラ属菌は、約25〜45℃の温かい停滞した水で増殖することがわかっています(横浜市衛生研究所より)。人工環境水は、レジオネラ属菌が好む温度で安定しているために、菌が生息しやすい環境といえます。

さらに、レジオネラ属菌は、免疫の低下した細胞の中で生息・増殖する性質を持っており、彼らはふだん水中のアメーバに寄生し数を増やします。アメーバは水中の微生物や細菌を餌に増殖しますが、入浴施設では人が入浴する際に浴槽内に有機物質が持ち込まれることから、アメーバの栄養源が豊富で、宿主となるアメーバがたくさんいることもレジオネラ菌にとって好ましい環境を作る要因となります。

まとめ

レジオネラ属菌は人から人へ感染する菌ではないものの、好条件下であれば増殖し、ときには広い範囲に飛散します。これまで、国内での集団感染も報告されており、中には感染の疑いのあるものも含めて295人という大規模な感染事例もあります(東京都健康安全研究センターより)。

厚生労働省は、団感染や死亡者を発生させる重大な感染症として、旅館や公衆浴場に対しレジオネラ対策を呼び掛けています。身近にできる対策としては、加湿器などを使用するときは清潔を保つよう気をつけてください。他の病気や治療によって免疫力が低下している方は、特に注意が必要です。