みなさんは日和見感染症という病気をご存知ですか?健康な人には聞きなれない病気かもしれません。日和見感染症とはどのような病気なのでしょうか。また普通の感染症とどのような点が異なるのでしょうか。日和見感染について詳しく解説します。

目次

日和見感染とは…健康な人には発症しない感染症

人間の身体には多くの細菌が存在しています。そのすべてが病気を発生させるものではなく、腸内のビフィズス菌のように、腸内の感染防御や免疫の活性化など身体の健康を高める働きをもつ善玉菌も存在しています。また、健康な人であれば病気にはならない菌(日和見菌)も多く存在し、この日和見菌によって起こる感染症を日和見感染と言います。

一方、普通の感染症は身体に害を及ぼす病原体(細菌、ウイルス、原虫など)が侵入し、感染症を引き起こすものです。病原体による感染症には症状を発症しない不顕性感染もありますが、日和見感染症と普通の感染症とでは、原因となる菌が違うと考えてよいでしょう。

代表的な日和見菌とその感染症

手洗い場

セラチア菌

セラチア菌は洗面台などの水場に存在する菌です。洗面台や浴室のタイルなどにピンクのカビのようなものが発生することがありますが、それがセラチア菌です。健康な人がこの菌に感染しても病気を発症することはありませんが、手指を介しての接触感染などによる飛沫感染、さらには医療用のカテーテルなどを介して感染することがあります。免疫力が低下した人に感染すると、肺炎や腸炎、さらには敗血症を引き起こすことがあります。

アスペルギルス症

アスペルギルスは、通気口やエアコンの吹き出し口、空気中のほこりの中などに普通に存在している真菌(カビ)です。ほとんどの人が日常的にこの菌を吸い込んでいますが、健康な人であれば病気を発症することはありません。しかし免疫力が低下している人や、もともと肺や呼吸器に病気がある人が感染すると、肺の中に真菌の塊を形成し、これによって肺組織を破壊する病気(肺アスペルギルス症)を発症することがあります。

カンジダ症

カンジダはおもに性器周囲の皮膚に存在している真菌(カビ)です。カンジダ菌は通気の悪い環境で増殖しやすいため、性器の構造上、男性よりも女性に多く発症します。健康な人であれば異常に増殖することはなく、病気も発症しませんが、免疫力が低下していると菌が繁殖し、強いかゆみやカッテージチーズ様のおりものを伴うカンジダ症を発症します。

結核菌

肺結核を引き起こす病原菌です。感染しても、健康な状態であれば発病はしません。身体の免疫機能が、結核菌の働きを封じ込めてくれるのです。

ただし、封じ込められた結核菌が死滅せず、体内に留まり続けることがあります。体力が低下していたり、他の病気によって免疫機能が働かなかったりした場合に、これらの結核菌が肺結核を発症させてしまうことがあるのです。

結核菌や肺結核については「長引く「咳」は結核が原因!? 感染の連鎖を断ち切るには」で詳しく解説しています。

サイトメガロウイルス感染症

サイトメガロウイルス(CMV)は、世界中のあちこちで見られるウイルスです。成人の多くが感染しますが、症状が出るのは主に胎児や未熟児、先天性免疫不全患者などです。

妊娠中に初めて感染した場合、胎児に感染することがあります。胎児の段階で感染した場合、早産や小頭症、黄疸などをはじめ、出生時に様々な異常が起こる可能性があります。

ニューモシスチス肺炎(カリニ肺炎)

ニューモシスチス肺炎は、真菌(カビ)の一種が原因となる病気です。存在する場所や感染経路は、まだ明らかになっていません。AIDS指標疾患の一つで、HIV感染者のうち4割程度が、ニューモシスチス肺炎によって発症します(国立国際医療研究センターより)。発症すると、発熱、咳、呼吸困難などの症状がみられます。

レジオネラ感染症

自然界の土壌や川・湖に生息する、レジオネラ属菌によって起こる感染症です。発症するとまずは全身倦怠感・頭痛・筋肉痛などの症状が起こります。その後、乾いた咳や痰、高熱、悪寒、胸の痛みが続きます。

高齢者、糖尿病や悪性腫瘍・血液疾患の患者さん、重喫煙者、大量飲酒者、免疫抑制剤を服用している方、自己免疫疾患の方などが感染した場合、肺炎を起こしやすいので要注意です。

帯状疱疹

水痘・帯状疱疹ウイルスが原因となる病気です。生まれて初めてこのウイルスに感染した場合には、水疱瘡として発症します。水疱瘡が治った後に体内の神経節に潜伏したウイルスは、加齢・ストレス・過労などによって免疫力が低下すると再び活動を始めます。このときにみられるのが、帯状疱疹です。

帯状疱疹では、身体の左右どちらか片側に、帯状の水ぶくれと強い痛みが生じます。50~70代に多くみられますが、若い人でも発症することがあります。その他、帯状疱疹についての詳細は「帯状疱疹の症状や原因って?よく似た病気「ヘルペス」との違いは?」をご覧ください。

 

また、以下の2つの菌は、抗生物質の投与を繰り返した場合に感染しやすくなります。

MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)

黄色ブドウ球菌は髪の毛や皮膚、鼻の粘膜、傷などで比較的よくみられる菌です。特に傷口から感染が広がると化膿することがありますが、基本的に弱毒菌のため、健康な人であれば特に重症化することはありませんMRSAはこの黄色ブドウ球菌の仲間で、抗生物質に対する耐性ができた菌です。高齢者や病気の治療中で免疫力が低下した人がMRSAに感染すると、肺炎や敗血症を起こすことがあり、病院内や施設内で起こる感染症のおもな原因菌とされています。

健康な人がMRSAに感染しても発症することは少なく、高齢者や患者さんの中にも感染はしているけど発症はしていない保菌の状態の人がいます。これらの健康な人や保菌の状態の人が媒介となり、手で触れるものや、咳、分泌物などを介して、接触感染を起こすため注意が必要です。

緑膿菌

緑膿菌は、自然界に広く分布している菌です。水周りによくみられ、消毒薬や抗生物質に対する強い抵抗性を示す特徴があります。健康な人がこの菌に感染しても病気を発症することはほとんどありませんが、免疫力が低下した高齢者や病気の人が感染すると肺炎や尿路感染症、さらには敗血症などの重篤な感染症を引き起こすことがあります。また、治療で用いられる医療用のカテーテルの刺入部や褥瘡などの創傷から感染することもあります。

免疫力の低下はなぜ起こる?

マスクをしてつらそうな男性

人間の身体には、有害な物質や病気の原因となるウイルスや細菌と闘う免疫力が備わっています。免疫には生まれつき備わっている自然免疫と、一度その病原菌に感染することで産生される獲得免疫があり、白血球がその働きに大きく関与しています。

免疫力の低下の原因には以下のようなものがあります。

1.病気

免疫力の低下の原因はとして最も問題となるは病気の存在です。先天的な免疫不全症のほか、白血病再生不良性貧血などの血液疾患、HIV感染症(AIDS)糖尿病腎臓病膠原病などは免疫力の低下を引き起こします。

2.治療薬

病気の治療に用いられる薬の中には、免疫力を低下させる薬があります。

関節リウマチや様々な自己免疫疾患などでは、過剰な免疫応答を抑えるためにステロイド免疫抑制剤が使われます。がんに対して使用される抗がん剤では、副作用で骨髄の機能が低下し、免疫を担当する白血球が減少するため免疫力が低下します。

また、臓器移植に対しても免疫抑制剤を使用します。

3.加齢、喫煙、ストレス、疲労、食事などの生活習慣

歳をとると細胞の働き自体が弱くなり、免疫細胞も弱まってくることがあります。

また、喫煙は血管の収縮と炎症を引き起こし、血行不良によって血液中の免疫細胞の働きを阻害します。ストレスや疲労、睡眠不足なども、自律神経の乱れにつながり免疫力を低下させてしまいます。脂性の強い食品やインスタント食品、加工食品などに偏り、タンパク質やビタミン、ミネラル類が不足した食生活は身体を酸化させ、免疫力の低下につながります。

まとめ

日和見感染症とは、健康な人であれば発症しない常在菌や弱毒菌による感染症で、免疫力の低下した人に発症します。原因菌は様々ですが、肺炎敗血症などを引き起こすと重症化し、死に至ることもあります。医療機関ではカテーテルなどの医療器具や人の手を介して感染しないように対策がとられていますが、在宅でも日和見感染症は起こりうるため、早期の発見と感染予防が重要です。