お酒が美味しい季節ですが、飲み過ぎには注意です。アルコールの過剰摂取は、急性膵炎を引き起こす可能性があります。
急性膵炎とは、何らかの原因で膵臓の消化酵素が活性化され、炎症が波及する病気です。
多くの場合、絶食や点滴などで軽快しますが、重症例では死亡に至ることもある恐ろしい病気なのです。
今回、アルコール性急性膵炎について、症状、診断、治療や予防法などについて解説します。
急性膵炎とは
膵臓は胃の裏側にある細長い臓器で、その主な役割は、食べ物を消化するための消化液(膵液)を作る外分泌(がいぶんぴ)機能と、インスリンなどの血糖値をコントロールするホルモンを作る内分泌(ないぶんぴ)機能です。
急性膵炎とは、何らかの原因で膵臓に急性の炎症が起こり、強力な消化酵素が周りの組織や臓器を消化しながら広がっていく病気です。
このうち、膵臓が腫れるだけのものを「浮腫性膵炎」、膵臓や周囲に壊死(えし)や出血をみとめるものを「壊死性膵炎」と呼びます。また膵臓に留まらず、腎臓、肺、肝臓、消化管などの重要臓器にも障害を及ぼすものや、重篤な感染症を合併する致命率の高いものを「重症急性膵炎」といいます。
急性膵炎の原因にはアルコール、胆石、特発性(原因不明)などがありますが、日本ではアルコール性が最も多く、急性膵炎のおよそ30%を占めています。
アルコール性急性膵炎は、過度の飲酒が原因となります。
アルコール性急性膵炎を発症した患者の1日あたりの平均飲酒量は、純アルコールにして約100g 近くであったと報告されています。これは、
- ビール・酎ハイ(アルコール度数5%)であれば中瓶5本(500ml)
- ワイン・日本酒(度数15%)であれば5合(900ml)
- 焼酎(度数25%)であれば3合(550ml)
- ウイスキー(度数43%)であればダブル5杯(300ml)
に相当します。
しかし、アルコール性急性膵炎のなりやすさには個人差があり、少量のアルコール摂取でも発症することがあります。
特に、女性では男性に比べて少ない飲酒量や短い飲酒期間で急性膵炎を発症しやすいと報告されています。
症状

急性膵炎の最も多い症状は上腹部痛(みぞおちの痛み)で、しばしば背中も痛くなります(背部痛)。痛みの程度は軽いものから、じっとしていられないほどの激痛まで様々です。
そのほかの症状としては、吐き気、腹部膨満感(ふくぶぼうまんかん)、発熱などがあります。また、炎症の波及によって腸の動きが悪くなることがあり、腸閉塞の症状(嘔吐など)が加わることがあります。
重症度の高い急性膵炎になると、顔面が蒼白になる、冷や汗が出る、血圧が低下する、心拍数が増加するなどのショック症状や、意識障害などがみられることがあります。
飲酒後に上記の症状が出現した場合には、早めに病院を受診することをおすすめします。
診断
急性膵炎の診断基準は、
- 上腹部に腹痛発作と圧痛(押さえたときの痛み)がある。
- 血液検査で膵酵素であるアミラーゼやリパーゼの上昇がある。
- 腹部超音波、CT、あるいはMRI検査にて急性膵炎を示す所見がある。
の3項目であり、このうち2項目以上を満たす場合に急性膵炎と診断されます。
特に、造影CTによって膵炎の程度(重症度)や合併症の有無を評価することが重要で、炎症が波及した範囲が広い場合には、重症急性膵炎と診断されることがあります。
治療と予後
アルコール性急性膵炎の治療は重症度に応じて行われますが、ほとんどの場合、入院による治療が必要です。
軽症の場合、絶食と輸液(点滴)にて経過観察を行います。また必要に応じて痛みをとる治療を行います。
中等症~重症例では、たんぱく分解酵素阻害薬や抗生剤の投与を行います。
重症の急性膵炎によって膵臓やまわりの組織が壊死に陥り、化膿した場合、手術によって壊死物質を除去したり、チューブによってお腹の外に膿が排出されるようにする外科的処置(ドレナージ術)を行ったりすることがあります。
多くの場合、急性膵炎は保存的(内科的)治療で軽快します。
しかし、全身への炎症の波及によって多臓器不全やショックを合併する重症例(重症急性膵炎)もあり、死亡率はおよそ10%と報告されています。
アルコール性急性膵炎を防ぐには:「適度な飲酒」はどのくらい?

アルコール性急性膵炎を防ぐには、過度の飲酒を避けることが重要です。
アルコールの適正な摂取量は、年齢、男女差、体格、またアルコールを分解する酵素など体質によっても異なりますが、厚生労働省によると、「節度ある適度な飲酒」というのは1回量として純アルコール量20g程度です。
具体的には、
- ビール・酎ハイ(アルコール度数5%)であれば中瓶1本(500ml)
- ワイン・日本酒(度数15%)であれば1合(180ml)
- 焼酎(度数25%)であれば0.6合(110ml)
- ウイスキー(度数43%)であればダブル1杯(60ml)
とされています。
また急性膵炎の再発率は全体で約20%ですが、アルコール性では約50%と高く、飲酒を継続することが最大の原因となっています。
従って、アルコール性急性膵炎を起こしたことがある人では、再発を防ぐために断酒を含めた生活習慣の改善が必要です。
まとめ
お酒の飲み過ぎが急性膵炎の原因となります。特に、女性では少ないアルコール量でも危険ですので、適度な飲酒を心掛けましょう。
また、急性膵炎のなかには死亡に至る重症例があるため、飲酒後にお腹の痛みが続く場合には早めに病院を受診しましょう。