「シャーガス病」という病名は、あまり耳慣れないものだと思います。世界中でおよそ600~700万人が感染している病気です(FORTHより)。日本国内では2013年8月に、中南米出身の男性が献血した血液の検査で、シャーガス病の抗体陽性が初めて確認されました。

2017年1月、この病気の治療薬候補を、日本の研究チームが発見しました。まだ研究段階ではありますが、今後開発が進めば、多くの人の命を救うことに繋がると考えられます。

本記事では、「シャーガス病」とはどのような病気なのか解説します。

目次

 サシガメが媒介するシャーガス病

シャーガス病は「顧みられない熱帯病」と呼ばれる病気の一つです。1909年、ブラジルの医師・リベイロ・ジュスティニアーノ・シャーガスが発見した病気で、その名にちなんで命名されました。主にラテン・アメリカを中心としたアメリカ大陸でみられますが、他の地域でも見られることがあります。

シャーガス病は、寄生虫トリパノソーマ・クルーズによって引き起こされる病気です。このトリパノソーマ・クルーズは、サシガメという昆虫の一種(カメムシの仲間です)に刺されることによって感染します。

サシガメに吸血された際に感染する恐れがあるほか、サシガメの糞を介して感染したり、母子感染や輸血、臓器移植などによって感染したりする場合もあります。

 アフリカ大陸で発病するのは「アフリカ眠り病」

トリパノソーマ・クルーズは、アフリカ大陸ではツェツェバエという昆虫によって媒介されます。この虫に刺されて発病する場合はシャーガス病ではなく、アフリカ眠り病と呼ばれる病気となります。アフリカ眠り病では眠気や激しい頭痛などの症状が起こり、適切な治療を行わなければ死に至ります。

シャーガス病の症状:急性期と慢性期がある

シャーガス病の症状は、急性期慢性期の2段階に分けられます。急性期の症状は感染直後に表れる一方、慢性期の症状は急性期の後、何十年も経ってから表れます(生涯にわたって発症しないことも少なくありません)。

 急性期

急性期の症状は、感染直後の数週間~数ヶ月にわたってみられます。発熱、疲れ、頭痛、下痢、かゆみといった症状がみられることもありますが、ほとんどの場合は無症状か、ごく軽い症状です。また、ロマーニャ症候と呼ばれるまぶたの腫れや、シャゴーマと呼ばれる皮膚病変(原虫が侵入した箇所が赤く腫れたりしこりになったりする)がみられることもあります。

急性期の症状は、しばらくすると自然に消滅します。ただし、症状が消えたからといって治癒したわけではありません。

慢性期

急性期から何十年も後に、2~3割の感染者が慢性期の症状を発症します(エーザイより)。原虫は心臓や消化器系の筋肉に潜伏しており、3割の患者さんに心疾患(心臓肥大、心不全、不整脈、動脈瘤など)が、1割の患者さんに消化器疾患(食道や結腸の肥大)がみられます。心筋や神経系の組織破壊が進むと、突然死に至ることもあります。

治療方法:新しい薬の開発が進行中

研究者-写真

急性期や慢性期の早期には、駆虫薬を用いた治療を行います。従来はベンズニダゾールニフルチモックスという2種類の薬が使われてきましたが、これらの薬は副作用の発生頻度が高かったり、使用できない患者さん(妊娠中の方や腎臓疾患・肝臓疾患の患者さん等は使用不可)が多かったりと、様々な課題を抱えています。

2017年1月、日本の2つの研究チームが、シャーガス病の治療薬の候補となる化合物を特定しました。現在はまだ人での効果は確認されていませんが、今後の研究に期待が寄せられています。

 

また、心臓や消化器系の症状が現れた場合は、それぞれの症状に合わせた治療(対症療法)を行います。

日本で感染する可能性はあるの?

冒頭でも記載しましたが、2013年8月、シャーガス病に罹患した男性が献血した血液が輸血に使用されたことが発覚しました。二次感染の被害は確認されませんでしたが、これを受けて現在、日本赤十字社では下記の条件に当てはまる献血者の血液に対して、シャーガス病の抗体検査を行っています。また、下記条件のいずれかに該当する方のうち、中南米の対象地域を離れて6ヶ月以上経っていない方の献血は制限されています。詳しくは、日本赤十字社のWebサイトで確認してください。

  • 中南米諸国で生まれた、または育った。
  • 母親または母方の祖母が、中南米諸国で生まれた、または育った。
  • 中南米諸国に連続して4週間以上滞在、または居住したことがある。

サシガメによる感染は、日本国内で確認されたことはありません。ただし、発生地域に行く際は虫除けなどの対策を十分に取ってください。シャーガス病の発生地域は、カリブ海諸島を除いたラテン・アメリカ諸国(ブラジル、チリ、エクアドルなど)です。特に、田舎の土壁や藁葺き屋根の家などで発生しています。

最後に

寄生虫が原因となって起こるシャーガス病は、中南米の各国を中心に、今も多くの人々を苦しめている病気です。日本国内ではサシガメによる感染はみられませんが、輸血による感染が確認されたことがあります。また、中南米に渡航する際には感染のリスクがあるので、虫除けなどの対策をしっかりと講じることをおすすめします。