はじめに
緊張すると急にお腹がごろごろし始める。下痢と便秘を繰り返す。現代社会はストレスとは無縁ではいられません。いつしか便通の悩みで日常生活にも支障をきたしてしまう。そういう方が増えています。
過敏性腸症候群(IBS)とは
過敏性腸症候群。英語ではIrritable Bowel Syndrome (IBS)といいます。腸の中に他に原因となる病気が無いのに下痢や便秘など便通の異常を繰り返す病態で、ストレスが大きく影響している疾患です。
診断基準(ROME III分類)は、
1ヶ月に3日以上にわたり腹痛や腹部不快感が繰り返し起こり、下記のうち3項目以上がある
- 排便によって症状が改善する
- 発症時に排便頻度の変化がある
- 発症時に便形状の変化がある
となっています。
分類
症状は便秘型、下痢型、混合型、分類不能型とありますが、どの症状が強いかによって分類されます。分類によって特異的な治療方法があるというわけではありませんが、治療は症状に応じて行われます。
症状
症状は人によって異なります。多くは、
日常の臨床ではそういった症状を示す方が多いです。
原因
ストレスが大きく関わっていると考えられています。
腸は自律神経で動いています。自分の意思で変化させられません。ただ、ストレスはこの自律神経の調節に影響を及ぼします。脳と腸に密接な関係があるといわれるのもこれにあたります。ストレスがかかり、腸の動きが過剰になって下痢をしたり、悪くなって便秘になると考えられています。
腸内細菌との関係も最近取り上げられていますが、こちらはまだ結論は出ていません。
日常の臨床において
日常臨床においては「お腹の調子がいつも悪い」「下痢が続く」といった症状で受診される方が多い印象があります。
診察、検査を経て治療となります。
診断方法
IBSは、診察をしていると多分IBSだなと分かります。若く健康そうでストレスがかかっているという方に多いわけです。
ただ、IBSには診断基準はありますが、基本的には「原因となりそうなほかの病気が無い」のでこの病気ですという「除外診断」です。つまり、他の重大な病気ではないか(鑑別)を診断する必要があります。
鑑別する他の重大な疾患
大腸がん
がんで亡くなる方のうち、大腸がんは全体の第3位です。女性では第1位の重大な疾患です。
大腸がんによっても下痢になったり便秘になったりすることがあります。
炎症性腸疾患
潰瘍性大腸炎とクローン病などが含まれます。いわゆる難病の一つで、食文化の欧米化と共に日本で急増している疾患です。若年で発症し、下痢、腹痛、血便などをする疾患でもあります。診断は内視鏡検査によって行われます。
炎症性腸疾患は、早期から、専門とする医師による診断・治療をきっちりと受けることが重要です。
感染性腸炎
ウイルス、細菌や寄生虫などの感染により下痢を起こす疾患です。感染原因によって対処方法は異なります。
検査
まずは、問診を含め診察が行われます。
お腹のレントゲン検査や血液検査を行い、腸炎や腸閉塞などの可能性を否定します。
処方を出して経過をみてからとなることもありますが、一度は大腸内視鏡の検査を勧められることと思います。
大腸内視鏡
IBSに特徴的な結果(所見)があるわけではありません。上記に挙げたような他の疾患の可能性を否定することが目的です。
大腸内視鏡検査の結果と病状から総合的に判断して診断となります。
治療
治療方法は生活スタイルの見直しやストレスの軽減を図ることも重要です。それでも改善が得られない場合には薬による治療が有効なこともあります。
ストレスの原因が様々であるように、この方法で必ず改善するというものがあるわけではありません。一人一人にあった治療法を探していく必要があります。
食事療法
香辛料やアルコール、カフェインや脂質などを避ける。水分摂取を行う、食物繊維をとるなど食生活を見直すと改善が得られることがあります。
運動療法
腸の働きの改善、ストレスの軽減などの作用が期待されます。ハードな運動が必要と言うわけではなく、ストレスの改善に繋がるような好きな運動や軽い運動でよいと考えられます。
体操や散歩など、体を動かすことはストレスの軽減が図られます。また、適度な運動は腸管の蠕動の調整にも効果があると考えられています。
薬物療法
症状によって治療薬は異なります。ここでは主なものを挙げます。
便秘に対して
下剤や腸管運動の改善薬が処方されます
下痢に対して
整腸剤、止瀉薬など
過敏性腸症候群に特徴的な薬
イリボー:セロトニン3受容体拮抗薬
この薬剤は下痢型の方に有効です。腸の運動を亢進させる(腸が過剰に動くようになる)セロトニンの作用を阻害します。ストレスを感じても腸には影響を及ぼさないようにするといったイメージです。
以前は臨床試験に登録された女性患者さんの数が少なかったために、統計の計算上から女性には効果が無いとする結果が出てしまい(実際には有効です)、男性にしか使用できませんでした。しかし、現在は検証をし直したことで女性でも使用可能となりました。
下痢型の方には非常に有効な薬でむしろ便秘になってしまう方もいるので、少量からの使用が望ましいと消化器内科の中では言われています。
ポリフル:高分子重合体
便が緩い場合にはその余分な水分を吸着し、便が固い場合には水分を与えて柔らかくするという薬剤です。水分量をある程度一定に保つ効果があるので、便の硬さがほどよくなるというものです。
そのほか、抗不安薬などが効果を示すことも多くあります。
さいごに
IBSは命に関わる病気ではないので、まずその点はご安心ください。ただ、この病気を抱えている方には日常生活に支障をきたされている方もいるでしょう。ほかの疾患ではないと示すことが重要でもあります。「きっとIBSだから」と安易に考えるのもよくないと思います。悩まれている方は是非一度医療機関で相談してみてください。