診療ガイドラインにできること~医療と患者、市民のかかわりから~

診療ガイドライン(以下ガイドライン)は医師が治療方針を決めるとき、患者さんが病気への理解を深めるサポートとなります。日本医療機能評価機構はガイドライン作りの支援や情報提供に取り組む事業「Minds(マインズ)」を運営しています。
2015年、日本医療機能評価機構はガイドラインを患者さんら市民にとって身近な存在にしていくために、Mindsの中に患者・市民専門部会を設置しました。今回は部会長を務める日本医師会総合政策研究機構の江口成美研究部専門部長に、患者さんら一般の人たちとガイドラインのかかわり方などについて現状や課題を伺いました。

現代の医療には患者や市民の視点が重要

――なぜガイドラインに市民の声を入れていく必要があるのでしょうか?

江口研究部専門部長(以下、敬称略) 治癒率と副作用などの「益と害」のバランスはとても重要です。理想は医師がガイドラインを患者さんに示しながら益と害を説明し、今後の治療法を共に判断していくことです。

エビデンス(根拠)が重視されていた中で、アメリカの研究所が「ガイドラインは患者ケアの最適化を目的とする推奨を含む文書」という定義を発表し、世界的に普及しつつあります。

これまでも患者さんの視点を入れることは考えられていたと思いますが、明文化はされていませんでした。私は長くMindsに関わらせていただきましたが、今は患者さんや市民の声を取り入れようという方向に進みつつあります。

さらに病気の治療法などについて医師と患者さんが共に意思決定する「SDM(shared decision making)」という概念がありますその概念を実現するには、ガイドラインを作る段階で患者さんの視点を組み込んでいく必要があります。

――患者さん、市民の視点を取り入れるために具体的にどんなことが行われているのでしょうか?

江口 Mindsがガイドラインを掲載する際に国際的な基準を使っていますが、そこには実際に患者さんを含む関係者の視点を盛り込んでいるかどうかの項目があります。

その項目を満たすには患者さんたちに直接ガイドラインを作る団体(学会)の評価委員会に参加していただいたり、学会が患者団体にアンケート調査などをして意見を聞き取ったりすることを必要とします

患者さんたちが作成にかかわる仕組みづくりの充実を

江口成美さん 医療と患者、市民とのかかわりを語る江口さん=日本医師会館

――Mindsのサイトには基準を満たしたガイドラインが多く掲載されています。どのガイドラインも患者さんたちの視点を盛り込む基準を満たしているのでしょうか?

江口 全てではありません。Mindsには大きく分けて6つの項目、細かくは23個の基準を設けています。総合的な評価によって掲載を判断するため、患者さんの視点を盛り込んでいなくてもその他の項目で点数が高ければ掲載することになります。現在基準を満たしたガイドラインは増えつつあります。

――なぜなかなか視点を入れられないのでしょうか?

江口 実際に視点を入れる動きが出てきたことは最近であり、そのことは関係していると思います。また作成団体が必要性を十分に認識していないこと、患者さんの個人的経験だけでなく、広く中立的な立場で発言してくれる人たちが必ずしも多くないこともあります。

しかしながら、今は世の中の流れとして医療の見える化や、患者が医療へかかわる意識が強くなってきているので、今後の増加が期待されています。

――視点を盛り込む上での課題はなんでしょうか?

江口 患者さんにガイドラインの作成団体へ入っていただく場合、自分の経験だけではなくさまざま患者さんの意見をまとめて提言してくれる人が必要です。また中立的な視点から提言できる市民の存在も不可欠です。そのような人たちをもっと増やしていく仕組みを考えていくことが重要でしょう。

作成段階で、専門家である医師に対して意見するハードルは高いと思います。委員会で直接やり取りする場合は1人だけだとやりにくさや抵抗感があります。最低2人以上関わってもらうよう呼びかけることを検討しています。出来上がったガイドラインを評価、審査する委員会に入って外側からでも声を取り入れる仕組みをもっと充実させていくことも必要と考えています。

Mindsの活用も一つの方法

――患者さんや市民の人たちの声を届ける上で、認知度は重要だと思います。Mindsはその認知度が低いという課題がありますが?

江口 世界的に見ても、一般の人たちがガイドライン作りに参加し始め、新しいフェーズ(段階)を迎えています。医師や患者さんへの広報活動はとても大切と考えます。

――患者さんたちが作成に関わるだけでなく、実際に読んでみて医師に病気について尋ねることも声を届けることになりますか?

江口 患者さんに積極的に使ってもらうことも一つの方法だと思います。患者さんの知識を深め、より良い医療につながっていくはずです。

――ガイドラインを積極的に患者さんたちに使ってもらうためにはどうしていけばいいでしょうか?

江口 Mindsに掲載されているガイドラインは医療者向け、一般の人たち向けの2タイプに分けられています。一般向けはどちらかというと病気を分かりやすく解説するものです。そこで学んで、実際に診察・治療中に気になった疑問点を、医療者向けで調べてもらうこともできます。

またMindsでは、ガイドラインの作成団体にも一般の方向けのものを作っていただくような活動を行っていく予定です。ガイドラインを利用する人たちにとって便利になり、活用していただくことを目指していきます。

編集後記

医療は「医師任せ」から「医師、患者共に歩む」時代へと変化してきています。診療の目安となるガイドライン作りに患者さんの声を届けることができれば、医師にとって理解を深められる良い機会になるはずです。

一方で、私たち一般の人たちから積極的に関わっていくことも重要です。病気を治療する上で自分の要望を少しでも叶えるためには、ガイドラインで得られる正確な情報を得ていくことが求められていくことでしょう。