若い方でもなるクローン病。日本で急増している難病の一つです。未だ原因不明で根治療法もまだありませんが、劇的な効果を示す薬剤も続々と開発されています。早期からの適切な治療法が肝心な疾患でもあります。現在までの正しい知識をお伝えします。

目次

クローン病とは

クローン病は比較的若年で発症することが多い原因不明の疾患で、厚生労働省の定める特定難治性疾患いわゆる難病の一つです。小腸や大腸に炎症を起こす疾患をまとめて炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease: IBD)といいますが、クローン病もその一つです。

クローン病は1932年、ニューヨークにあるマウントサイナイ病院の内科医であるクローン先生らによって報告されました。主に先進国に多く、日本でも急増しています。上下水道の完備により清潔になっていること、食生活の欧米化などが考えられていますが、増加の原因はまだ解明されていません。

世界中で研究がなされており、新たな治療方法が開発されています。新しい治療方法は高額なものも多いですが、日本ではクローン病は特定難治性疾患に認定されています。このため、クローン病と診断された場合には申請を行うと医療受給者証が発行され、一定額以上の医療費は公費で賄われます。

疫学

グラフ

特定疾患の医療受給者証の交付状況でみると1976年には128人ほどでしたが、平成25年度には39,799人です。現在日本では人口10万人あたり約27人ですが、アメリカでは約200人で、欧米では日本の10倍ほどの患者さんがいる計算になります。

病態

原因不明で、生涯にわたり良くなったり(寛解(かんかい))悪くなったり(再燃)を繰り返しながら持続する腸炎です。病気の範囲は口から肛門までの全消化管に起こり得ます。病変の部位が飛び飛びになること、消化管以外の皮膚や関節などにも症状を起こすこと、といった特徴があります。腸はいくつかの層が重なってできていますが、クローン病は腸管全ての層に炎症が起きるといった特徴もあります。

主に小腸と大腸に縦に走る潰瘍(縦走潰瘍)を作ったり、そのために腸が狭くなる狭窄、腸管同士の癒着、腸と皮膚の間に瘻孔という通り道ができてしまったりします。痔瘻や肛門周囲の膿瘍といった肛門病変を合併することも多い病気です。

症状

主な症状は腹痛下痢血便などです。消化管のどの部位に病変があるかによっても異なります。また、一度潰瘍ができて治る過程で腸が狭くなったりすると狭窄を起こし、腸閉塞を起こしたりもします。小腸が障害されると栄養障害やこのために体重減少が起こることもあります。

また、クローン病では腸管全層に炎症が起きるため、発熱も比較的多くみられます。上記のように、痔の一つである痔ろうや肛門周囲に膿ができてしまう肛門周囲膿瘍といった肛門の病気を合併することも比較的多いです。

この症状があったらクローン病という症状はありません。腹痛が続く、下痢で腸炎ということで薬をもらって様子をみたがあまり良くならない、といった場合には専門家を受診するとよいでしょう。

原因

世界中で研究がなされていますが、未だ原因は不明です。主に腸管の免疫が関係していることは多くの研究から間違いなさそうです。これらに加え人種などの遺伝的要因、食事や生活習慣などの環境要因が考えられています。遺伝的要因と言っても、遺伝する病気というわけではありません。

検査

聴診器

クローン病に特徴的な所見のみられる検査

小腸造影

小腸の病変を検索するのに行います。クローン病では腸管に縦に走る潰瘍など特徴的な所見がみられます。病気の範囲が飛び飛びになっていることも特徴の一つです。また腸管の狭窄なども検証します。

内視鏡

主に大腸内視鏡によって大腸の病変の検査のために行います。また、クローン病では回盲部という小腸から大腸へ移行する部位に病変が多く、この部位は大腸内視鏡で観察できることから病変の発見にも役立ちます。

小腸の内部を見る方法は最近までありませんでした。現在はカプセル内視鏡小腸をみるための長い内視鏡(小腸鏡)なども施設によっては使用することができます。

胃カメラによって胃の病変が見つかることもあります。

病変の一部の組織の病理検査結果も診断に有用です。

それ以外の検査

血液検査

クローン病に特徴的な検査項目があるわけではありません。貧血の有無や炎症の有無を検査します。

レントゲン検査

クローン病に特徴的な所見があるわけではありません。腸閉塞や腹膜炎の可能性を検証します。

CT検査

クローン病に特徴的な所見があるわけではありません。ただ、クローン病では腸管同士が繋がったり、腸管全体に炎症が起きたり、膿瘍を作ったりといったことがあるのでそれらの有無を調べます。

MRI検査

肛門周囲の瘻孔、痔瘻などの検索に有用です。

診断

医師の経験にもよりますが、診察、症状、血液検査からクローン病が疑われると画像検査(CT、MRIや小腸造影)や内視鏡検査、病理検査の結果などが行われます。これらの結果から診断基準に基づいて総合的に診断がなされます。

治療方法

薬

クローン病の治療では炎症の落ち着いた状態:寛解状態にできるだけ早く持ち込み、その状態を維持する(再燃予防)ことが大きな方針です。

食事療法

病気の状態によっても食事内容は通常で良い場合もありますが、一般的には低脂肪な食事が良いと考えられています。

また、一部のアミノ酸には炎症を抑える効果があることが知られており、クローン病に効果を示す栄養による治療方法が存在します。

内科的治療

5-アミノサリチル酸製薬、副腎皮質ステロイド、免疫調節薬が症状に応じて使用されます。それぞれの治療については専門的知識が必要で、特に安易に長期間ステロイドを使用することは副作用の面からも現在では行うべきではないとされています。

抗サイトカイン療法

クローン病に対する内科的治療の中で特に重要な薬剤がTNF-a受容体拮抗薬(レミケード、ヒュミラ)です。抗TNF-a受容体拮抗薬はクローン病の治療史を変えたと言われる治療方法で、寛解導入効果が高いことが知られており、早期からこの治療方法が選択される場合も多いです。

その他の治療

血液中の炎症を起こしている細胞成分を取り除くという、血球成分除去療法という治療法が選択されることもあります。こちらは透析のような医療機器を用いて行います。

外科的治療

腸閉塞や大量出血、腸に穴が開いてしまう穿孔といった場合には手術が必要になります。中毒性巨大結腸症という病態でも腸の切除が必要になります。

また、腸の狭窄や膿瘍なども手術が必要となることがあります。

医師

おわりに

クローン病は難病であり原因不明です。根治が得られる治療方法もまだ確立はしていません。しかし、腸管免疫の分野は今世界中で研究がなされており、病気のメカニズム、新しい治療法などが次々に報告されています。10年前の治療法と今の治療法では大きく異なります。

特にクローン病の治療は早期から専門の医師の診察を受け、適切な治療を受けることが大切です。寿命は大きく変わらないとする報告が多いですが、手術率は10年で70.8%とされ、生涯でほぼ全ての患者さんが一度は手術をするとされていました。近年では早期からの適切な治療法によりそれらが低下すると考えられています。比較的最近まで症状が無い状態を臨床的寛解として治療の指標としていました。今では内視鏡検査で腸管をみた場合にも炎症のない内視鏡的寛解状態、さらに病理検査をしても炎症のない状態を治療目標とすることが望ましいとされる時代になってきています。

今後ますます増えていく可能性がある疾患の一つです。正しい知識、適切な治療で対応していきましょう。