「歳をとって背が低くなった」「おばあちゃんになって腰が曲がってきた」
こんな言葉を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

老化のせいだと見過ごしてしまっているかもしれませんが、実はこの症状、気が付かないうちに背骨を骨折している「いつのまにか骨折」の可能性が高いのです。

骨折と聞くと激しい痛みで動けないようなものを想像しますが、「いつのまにか骨折」では痛みを感じない場合もあります。また転倒などのハッキリとした原因がないために、本人はまさか骨折ではないだろうと思ってしまいます。

この記事では「いつのまにか骨折」について詳しく説明をしていきますので、思い当たる方はぜひ一度骨の検査を受けることをおすすめします。

目次

いつのまにか骨折とは?

「いつのまにか骨折」とは、その名の通り、気づかないうちに背骨を骨折してしまっている状態です。

転んだ、事故に遭ったなどの明らかな原因がないのに背骨が潰れており(圧迫骨折といいます)、放っておくと骨が曲がった状態で固まってしまったり、他の骨もどんどん骨折していったりする(ドミノ骨折、骨折連鎖といいます)可能性があります。骨折を繰り返すたびに健康状態は悪化し、骨折を起こす前の状態に戻すことが難しくなります。そのため病院での検査・治療が必要になります。

いつのまにか骨折の原因

いつのまにか骨折の原因は骨粗鬆症です。

骨粗鬆症とは、ひとことで言うと「全身の骨が脆くなってしまう」病気で、閉経後の女性に多くみられます。特に日本人の場合は65歳からのリスクが急に高くなります

脆くなった骨はくしゃみや尻餅、重いものを持つなどの、ちょっとしたことで潰れてしまいます。特に背骨が骨折した場合には身長が縮んだり、腰が曲がったりするようなサインが出てくるのです。

いつのまにか骨折の症状

いつのまにか骨折が疑われる症状として、以下のようなものがあります

  • 背中が曲がってきた
  • 身長が以前より2cm以上縮んだ
  • 背中や腰が痛む

背中が曲がってきた、身長が縮んだという症状は、「高いところに手が届かなくなった」という日常生活での不便さで自覚される方もいらっしゃいます。

痛みは感じない場合があるため、どれか一つでも当てはまるようであれば、病院で一度検査を受けた方がいいでしょう。

背が縮む・腰が曲がる原因には骨粗鬆症による背骨の圧迫骨折以外にも、変形性脊椎症、腰椎変性すべり症、脊柱管狭窄症、背中の筋肉の衰えなどの可能性があります。

検査方法は?

いつのまにか骨折

身長測定

25歳のときの身長と比べてどのくらい縮んだかを調べます。

エックス線検査

線検査(レントゲン)で圧迫骨折の有無、背骨のカーブ等を確認します。
必要な場合はMRI検査も併せて行い、より詳しく背骨をみていくことがあります。

骨密度の検査

骨粗鬆症かどうかを診断するためには、骨密度の測定が欠かせません。いくつかの測定方法があり、病院によって以下のような検査方法が行われています。

  • 二重X線吸収法(DXA法:デキサ法)
    横たわり、骨に2種類のX線をあてることで骨密度を測る方法です。若い人の骨密度の平均値と比べて自分の骨密度が何%であるかを表します。腰椎と脚のつけ根(大腿骨近位部)の2か所で測定します。30秒ほどじっとしているだけで終わり、信頼性が高いと言われています。前腕のみのDXAもあります。
  • 定量的CT測定法(QCT法)
    X線CT装置を使います。骨を海綿骨と皮質骨という構造にわけて測定できます。
  • 超音波測定法
    かかとの骨に超音波を当てる方法です。検診で簡易的に使用することが多いです。また、X線を使わないため、妊婦さんも検査可能です。

10~15分程度で終わる検査で、撮影のために横たわるなど体勢を変える必要はありますが、痛みは伴いませんので安心して受診してください。

注意することは、コラーゲンが老化していることで骨質が劣化し、骨密度が高くても骨粗鬆症になっていることがあります。骨密度が高いから骨粗鬆症ではない、という確定にはならないことを知っておきましょう。

血液・尿検査

血液や尿で骨代謝マーカーを測定します。骨は骨吸収(破骨細胞によって古い骨細胞が壊される)と骨形成(骨芽細胞によって骨細胞が作られる)を繰り返して新しい細胞へ生まれ変わります。この骨吸収と骨形成のバランスが検査により分かりますので、骨密度が今後どのように変化していくかの予測ができ、治療方針などに役立てることができます。
検査結果が出るまでに1週間ほどかかります。

以上のような検査で、いつのまにか骨折の診断がついた場合、病院で適切な治療を行っていくことになります。

もしかして、と思った時には原因を特定するためにも病院へ検査に行くことをおすすめします。いつのまにか骨折の検査ができる病院は下記で検索することができるので、利用してみてください。

いつのまにか骨折・病院検索

なお、いつのまにか骨折の検査では食事を抜く必要はありません
以下のような、比較的簡単な検査をすることで診断することが可能です。

治療はどんなことをするの?

骨折の治療

すでに骨折していた場合には、入院となることもあります。
医師の指導のもと、下記のような治療法を行います。

<保存的療法>

保存的療法とは、外科的手術をしない治療法のことです。

まずはギプスコルセットで背中が丸くならないよう固定し、ベッドで安静にします。

痛みがある場合には痛み止めの薬をのみ、無理のない筋力トレーニングやストレッチなどのリハビリを行っていきます。

<手術的療法>

骨の移植をしたり、金属で骨を固定したり、程度に合わせて手術を行います。

治療は基本的に保存的療法が選ばれるのですが、骨折したことによって神経麻痺がおきてしまったり、背骨が変形してしまっていたりする場合などは手術的療法が選択されることがあります。

骨粗鬆症の治療

骨折はしていなくても骨粗鬆症と診断された際には、食事、運動、薬物による治療をしていきます。どれも重要な治療ですので、3つを組み合わせて行います。

<食事療法>

カルシウム、ビタミンD、ビタミンKなどの栄養素は骨の健康を保つために多く摂った方が良いとされています。
具体的には牛乳・乳製品、大豆・大豆製品、緑黄色野菜、きのこ、魚、肉などを意識して食事に取り入れましょう。そのほか、骨質にかかわるビタミンB6、ビタミンB12の摂取にはレバーマグロサンマシジミなどが適しています。

カルシウム薬など、薬で栄養素を補助的に摂ることはできますが、できれば食品から摂取することがおススメです。
反対に加工食品・食塩・カフェイン・アルコールの摂取は好ましくないため、摂りすぎには注意しましょう。何よりもバランスよく栄養素をとることが大切です。

<運動療法>

適度な運動によって、骨量を増やす効果があります。ストレッチ、ウォーキング、バランス運動など、無理のない範囲で行いましょう。

片足立ちなどのバランス運動は転びにくくなる効果も期待できますが、必ず支えのある場所で、転倒しないように気を付けてください。

<薬物療法>

骨は肌などと同じく、新陳代謝を繰り返しています。常に古い骨細胞が壊され、同時に新しい骨が造られている状態です。骨粗鬆症の方はこの「壊す作用」と「造る作用」のバランスが崩れており、壊された部分に新しい細胞を造る作用が追い付かなくなっています。

その新陳代謝のバランスを取り戻すため、以下のような薬を使用します。

  • 骨が壊れるのを防ぐ薬(骨吸収抑制剤)

ビスホスホネート薬、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM:サーム)、カルシトニン薬、デノスマブ

  • 骨を造る薬(骨形成促進剤)

副甲状腺ホルモン薬

  • その他

カルシウム薬、活性型ビタミンD3薬、ビタミンK2薬

骨粗鬆症の治療法について詳しくは「骨粗鬆症の治療法3つ!薬は注射だけ?食事で気を付けることは?」の記事を併せてご覧ください。

まとめ

骨粗鬆症によるいつのまにか骨折は、ご本人では気づかないことが多く見過ごされてしまいがちです。「運動をしているし食事もちゃんと摂っているから私は大丈夫」と思っている方は多いと思います。しかし、骨折してしまうとその後、寝たきりになってしまう可能性があります。介護が必要となる5人に1人は骨折・転倒、関節疾患が原因です。本人だけでなく、ご家族への負担が大きくなってしまいますので、定期的に検査を受けましょう。

特に65歳を過ぎた女性は、半年に一度、骨密度検査を受けることをお勧めします。

最後に、骨は日々、新陳代謝を繰り返して生まれ変わっていますので、治療は何歳から始めても効果があります。自分には関係ないと思わず、食事に気を付け、適度な運動をすることで骨粗鬆症の予防をしていくことが大切です。