この腎臓が老廃物を排泄する機能が低下する病気をまとめて慢性腎臓病(CKD)と呼びます。腎臓は、一度機能が低下してしまうと回復はせず徐々に悪くなっていき、最終的には腎不全と呼ばれる状態になり人工透析などの治療が必要となります。

慢性腎臓病(CKD)の治療においては腎臓の機能をいかに保つかが重要となりますが、腎臓への負担を減らすために食事療法が特に重視されています。腎臓病を診断されてから透析導入前までの食事について、『慢性腎臓病に対する食事療法基準 2014年版(日本腎臓病学会 編)』を読みながら確認していきましょう。

目次

なぜ食事療法が重要か?

体内の老廃物を排出する、腎臓の機能

腎臓は体内の老廃物をろ過し、からだの外へ排出する役割を果たしています。腎臓は心臓のように、そのはたらきが停止してしまうことで、すぐに命の危険にさらされてしまうような臓器ではありません。万が一腎不全になったとしても、人工透析などの腎代替療法があります。

しかし、からだの中に老廃物が貯まれば、尿毒症や高カリウム血症といった命にかかわる合併症を引き起こし、心血管系の病気の大きな要因となります。また腎代替療法はいずれも、患者さんに少なからず負担となりQOL低下の原因となります。

腎臓を守るために、食事のコントロールを

腎臓機能の低下を防ぐためには、腎臓の負担を減らし休ませてあげる必要があります。体内で発生する老廃物が多いと腎臓にとって大きな負担となりますが、体内に老廃物が発生する一番の原因は体内にものを取り入れる(=食事をする)ことです。そこで、腎臓の機能を守るためには食事療法が非常に重要になります。

いつからはじめる?食事療法

腎臓の機能が低下しはじめる頃から食事療法が導入されますが、実際の導入時期は医師の判断・指示によります。また、慢性腎臓病の患者さんは、糖尿病,高血圧,動脈硬化性疾患,肥満症などの病気ももっていることがあるため、それらの病気の食事療法との整合性も考える必要があります。

慢性腎臓病のステージ「e-GFR値」とは?

慢性腎臓病に対する食事療法基準 2014年版(日本腎臓病学会 編)』では、「e-GFR」という数値を用いて腎臓機能をいくつかの段階に分けることで、できる限り腎臓機能の状態にあわせた基準を設定しています。

e-GFRとは糸球体濾過量のことで、腎臓がどのくらい老廃物を尿へ排泄できるかを数値で表しています。この値が低いほど、腎臓が傷んでいることを表しています。この値により、ステージ1~5までの段階(細かくは3aと3bがあるため、6段階)に分けられ、それぞれに制限する項目とその目安があります。

慢性腎臓病(CKD)の食事療法のポイント5つ

手を広げる女性-写真

エネルギー

摂取エネルギーが足りなくなると、からだは筋肉などに蓄えられたたんぱく質を分解することで、足りないエネルギーを補おうとします。

下記「たんぱく質」の項目で解説しますが、たんぱく質は使われたときに老廃物を出し、これが腎臓の負担となります。

また近年では、エネルギー不足がサルコペニアやフレイルといった筋力・身体能力が低下する病気により、QOLが著しく低下してしまうことにも警鐘が鳴らされています。

たんぱく質

たんぱく質が代謝されると、尿素窒素という老廃物を出します。この尿素窒素を処理するのも腎臓なので、たんぱく質が過剰になると腎臓に負担がかかります。

また、たんぱく質については糸球体濾過量を示すe-GFR値だけでなく、たんぱく質が尿にどれだけ漏れ出しているかを示す尿たんぱく量にも留意する必要があります。しかし、尿たんぱく量は食事以外の要因で左右されやすいため、e-GFRによる区分で基準が定められています。

塩分

腎機能の低下により、ナトリウムなどの電解質の排泄機能も低下します。ナトリウムとはつまり塩分のことですが、体内に塩分が貯まると高血圧やむくみを引き起こします。

さらに腎臓に負担がかかるだけでなく、血管に負担がかかることで心血管系の病気のリスクが高まります。

カリウム

カリウムもまた電解質のひとつです。血液中に過剰になると、高血圧や不整脈を引き起こしやすくなります。腎機能の低下で排出が滞るため、制限が必要になります。

野菜、果物、豆類といったカリウムが多く含まれる食材は、摂りすぎに注意しましょう。

リン

リンが血液中に過剰となった状態を高リン血症といいます。リンはカルシウムと結合してリン酸カルシウムとなり骨などを形成する重要な物質ですが、過剰となると骨以外の組織に沈着してしまうことがあります(異所性石灰化)。

異所性石灰化は、血管壁を厚くすることで動脈硬化、これによる脳梗塞や心筋梗塞などの原因となります。また、沈着する場所によっては、関節痛、結膜炎、皮膚のかゆみといった症状を引き起こします。

さらに、高リン血症の状態に加え、腎臓の機能が低下すると腎臓でのビタミンD産生が低下することでカルシウムが不足します。その結果、副甲状腺ホルモンの分泌が活発となります(二次性副甲状腺機能亢進症)。副甲状腺ホルモンは、骨からカルシウムとリンを流出させるはたらきがあるため、骨がもろくなってしまいます。

リンは、添加物としてよく利用されるため、外食や加工食品には注意が必要です。また、乳製品にはカルシウムも多く含まれる一方でリンも含まれるため、乳製品の取りすぎはかえってよくないことがあります。

ステージ別にみる、食事制限

エネルギー(カロリー)と塩分は、どのステージでも同じ制限の中で管理します。各ステージの1日当たりの食事の基準は下記のとおりです。なお、ステージ5からさらに腎臓機能が低下すると透析治療が導入されますが、導入後は基準が異なります。

ステージ1(GFR≧90)/ステージ2(90>GFR≧60)

  • エネルギー:標準体重1kgあたり×25~35kcal
  • たんぱく質:過剰な摂取をしない
  • 食塩:3g以上6g未満
  • カリウム:制限なし

ステージ3a (60>GFR≧45)

ステージ1・2の内容に、たんぱく質の制限が加わります。

  • エネルギー:標準体重1kgあたり×25~35kcal
  • たんぱく質:標準体重1kgあたり×0.8g~1.0g
  • 食塩:3g以上6g未満
  • カリウム:制限なし

ステージ3b(45>GFR≧30)

カリウムの制限も加わります。

  • エネルギー:標準体重1kgあたり×25~35kcal
  • たんぱく質:標準体重1kgあたり×0.6g~0.8g
  • 食塩:3g以上6g未満
  • カリウム:2000mg以下

ステージ4(30>GFR≧15)・ステージ5(15>GFR)

ステージ5は慢性腎不全とよばれる状態です。慢性腎不全は、まだ透析を受けなくてもよい保存期腎不全と、透析を受けなければならない末期腎不全がありますが、ここでは保存期腎不全の食事基準を扱います。

  • エネルギー:標準体重1kgあたり×25~35kcal
  • たんぱく質:標準体重1kgあたり×0.6g~0.8g
  • 食塩:3g以上6g未満
  • カリウム:1500mg以下

慢性腎臓病に対する食事療法基準 2014年版(日本腎臓病学会 編)』より

まとめ

腎臓の機能の程度、持病、体型や年齢など、さまざまな状況を踏まえて、食事制限内容が決まります。食事内容は治療としてとても重要です。タンパク質や塩分が制限されていると味気ないものですが、それでも食事を楽しめるようにレシピ本も多数出ています。医師や栄養士と相談しながら、制限を守りながらも食事を楽しめるようにしたいところです。