慢性糸球体腎炎は血尿タンパク尿が続く症状ですが、症状が軽微なことから病気に気づかず腎不全に進行することがあります。慢性糸球体腎炎を引き起こす病気には、IgA腎症紫斑病性腎炎など厚生労働省の指定難病に挙がるものが多くあります。原因が分かっていないため、根本的な治療法は確立されていません。しかし、適切な治療で腎機能の低下を防ぐことは可能です。治療の中心は食事療養薬物療法です。

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「自覚症状がない」ので、気をつけて

慢性糸球体腎炎は、糸球体に慢性的な炎症が起こり、血尿やタンパク尿の出現が長期間にわたり続く状態です。慢性腎炎とも呼ばれています。初期には自覚症状がほとんどないのが特徴です。そのため、腎臓(糸球体)の異常を自覚するのは、次のいずれかといわれています。

  • 検尿によって陽性の指摘を受ける
  • 症状が進行して腎不全の症状があらわれる

検尿で異常を指摘されたら

血尿には、「肉眼的血尿(肉眼で異常がわかる血尿)」と「微鏡的尿(肉眼では見られない血尿)」があります。糸球体の異常は、肉眼的血尿であらわれることは稀で、3歳検尿・学校検尿での顕微鏡的血尿によって、尿中に赤血球・白血球やタンパクが認められ、糸球体腎炎の可能性を指摘されます。

小児の場合、わずかな血尿やタンパク尿は、体の不調と関係なくあらわれることはありますが、放置してはいけません。必ず、医師の診断を受けましょう。

症状を確認して早めに最適な治療をはじめるには、の専門医の診療を受けるのがよいでしょう。診断には、尿検査血液検査・画像検査を行うのが一般的です。糸球体腎炎を引き越している病気を特定するために、5日程度入院して、腎生(腎臓の組織を採取して顕微鏡で調べる検査)を含めた精密検査をすすめられることがあります。

糸球体の炎症が確認されたら

白衣と清潔なゴム手袋-写真

もし、精密検査の結果、糸球体の炎症が確認されたときは、1日のタンパク尿の量」、「腎機能の程度」、「腎生検の所見」をもとに次の3つから治療の方針を決定します。

  1. 寛解をめざして治療を行う
  2. 進行を遅らせる治療を行う
  3. 透析の準備をはじめる

腎臓は、一度その機能を失うと回復が難しい臓器です。糸球体腎炎では、ウイルス感染による急性でない限り、完全に治癒する可能性は薄いといわれています。しかし、早期治療により腎機能の低下を防ぎ、日常生活を送るうえで問題ない程度に回復することは可能です。早期であれば寛解を目標に、腎不全の症状がみられるときは進行を遅らせることを目標に治療にはげみましょう。

治療は食事療法と薬物療法が中心

原則として、過労・睡眠不足・激しい運動・炎天下の作業を避けることが必要です。禁煙が求められ、肥満の人は減量と体重管理がすすめられます。また、風邪をひくと腎臓に負担がかかるため、うがいなどの風邪予防を心がけます。

慢性糸球体腎炎は、さまざまな病気から起こるため治療方法は異なります。したがって、ここでは、慢性糸球体腎炎のなかでもっとも多いIgA腎症を中心に話を進めます。

治療は食事療法と薬物療法が中心です。最近では、治療をはじめるときに扁桃腺の摘出術を行う治療が増えています。扁桃腺を摘出することで、異常なlgAが生成される原因を除去するのが目的です。

塩分とタンパク質の制限

腎機能が低下すると、体の水分(体液)を調整する働きが鈍くなり、体内に塩分が溜まりやすくなります。したがって、血圧値が正常であっても塩分制限を行います。1日6g以下を目標にしましょう(東京女子医科大学病院・腎臓病総合医療センターより)。

食事から摂取したタンパク質は、老廃物である窒素代謝物を作ります。腎機能が低下していると、糸球体に負担がかかり、腎機能はさらに低下するでしょう。そのため、タンパク質の制限が必要です。体重当たり、1日0.6~0.7グラムが推奨されています。 子供の体重が20キログラムであれば、12~14グラムの蛋白制限です(東京女子医科大学病院・腎臓病総合医療センターより)。一方で、タンパク質を制限すると、摂取カロリーが減って体調を崩すことがあります。十分なカロリー補給を行います。

軽度であれば、通院して治療

症状が軽度であれば、基礎薬として降圧薬抗血小板薬が使用されます。慢性糸球体腎炎では、高血圧の症状がしばしばみられます。高血圧は腎臓に負担をかけ、腎機能を低下させる原因です。降圧薬を服用して血圧を下げます。また、症状の悪化に血小板の異常が関与していることから、血小板の作用を抑える抗血小板薬が用いられます。どちらも、通院治療です。

症状が進行しているときは、ステロイド薬や免疫抑制薬などを組み合わせた「カクテル療法(症状や体質などに合わせて薬を組み合わせる治療法)」を行います。カクテル療法は、約2年間続けられ、はじめの1ヶ月は入院して行うのが一般的です。

定期的な検尿は欠かさず受けましょう

IgA腎症は、20年の経過で約40%の患者が腎不全にいたると報告されています(東京女子医科大学病院・腎臓病総合医療センターより)。症状はゆっくりと進行し、徐々に腎機能が低下していく患者が多いようです。

血尿やタンパク尿が軽度であれば、腎機能の大きな低下がみられずに安定した体調で日常生活を送ることができるしょう。そのためには、早期発見がとても大事です。定期的な尿は欠かさず参加して、その結果を必ず確認しましょう。

まとめ

慢性糸球体腎炎は、原因不明の難病から起こる症状が多いため、特定の治療が確立されていませんが、症状が軽度であれば、腎機能の低下を防ぐことができます。自覚症状がなくても、検尿で陽性と判断されたら、すみやかに腎臓内科の専門医に相談し、適切な治療をはじめましょう。治療は食事療法と薬物療法が中心で、長期間行うことがあります。完全に治癒することは難しい場合でも、早めの治療で、ふつうに日常生活を送るくらいにまで回復することは可能です。