開腹手術とは、お腹をある程度の大きさで切り開いて行われる手術のことで、お腹の中の臓器を手術する際には一般的に用いられます。しかし、大きく切り開く分、体への負担も大きく、手術によって引き起こされるかもしれない疾患(合併症)に注意しなければなりません。
今回は開腹手術が行われる代表的な病気や、手術のメリット・デメリット、みられる可能性のある合併症について紹介していきます。

目次

開腹手術のメリット、デメリット

開腹手術とは文字通り、お腹を切り開いたうえで行われる手術のことを指し、従来から行われているものです。近年登場した腹腔鏡手術という、お腹を小さく切り開いてカメラなどを挿入して行う手術と、よく比較されます。

開腹手術を行うメリットとしては、手術を行う臓器が直接見られるために腹腔鏡手術に比べて簡単に行なえ時間もかからないこと、デメリットとしては、傷口が大きくなるため体への負担が大きく回復に時間がかかりやすいことがあげられます。

開腹手術を行う病気

開腹手術を行う病気には様々なものが存在します。代表的なのは虫垂炎(盲腸)や胃がんなどの消化器の病気ですが、他にも腎臓がんや、子宮筋腫など、後腹膜の臓器におこる病気でも開腹手術によって治療されることがあります。

腹腔鏡手術も優秀な治療法ですが、病気の部分が広かったり、悪性の腫瘍をとり出さなければならなかったりする場合は、開腹手術のほうが良いと判断されることも多くあり、今でも数々の病気に対して用いられているのです。

開腹手術の主な合併症

手術器具-写真

開腹手術では病気を治すためにおなかを切り開いて様々な治療を行うのですが、どんなに万全を期していても、手術によって新たに状態が悪くなってしまうことがあります。このことを合併症が生じるといい、どんな病気に対する手術であっても起こりうる事態です。

では実際には、どのような合併症が存在し、その合併症が生じた場合はそのような対処法がとられるのでしょうか。

腸閉塞

開腹手術の後で、小腸などの消化管が癒着(ゆちゃく:腸管と腸管、腸管と腹壁などが互いにくっついてしまうこと)することで、管が狭まってしまったり、閉じてしまったりすることがあり、この状態を腸閉塞と呼びます。腸閉塞を起こしてしまうと、食べ物がうまく腸を通過できなくなり、お腹が張る、吐き気を感じる、腹痛を感じるなどの症状がでてきます。

治療としては、食事や水分を取らずに点滴で栄養補給し、日にちが経って自然治癒するのを待つこともありますが、場合によっては再び開腹手術を行って、くっついてしまった部分を剥がさなくてはならないこともあります。

腹膜炎

お腹の中の臓器を覆っている腹膜という膜に炎症が起きた状態のことを腹膜炎と呼びます。手術の時に外からの細菌などに感染してしまったり、胃、腸の中身や胆汁、膵液などの消化液がお腹の中に漏れてしまったりすることで炎症が引き起こされ、発熱腹痛などの症状が現れてきます。

細菌などによる感染が原因の場合は、抗生物質などの投与で治療を行います。一方、消化管の内容物や消化液が漏れていることが原因の場合は、手術によって内容物や消化液をお腹の外に誘導し、あわせて絶食や点滴で保存的治療を行ないます。

後出血

手術後にお腹の中で出血が起きてしまい、貧血状態になることを後出血と呼びます。

出血の量が少なければ、安静にしているだけで自然に出血が止まることもありますが、出血が多ければショックとなり、輸血などの治療が必要になることもあります。また、出血が止まらず続いてしまう場合は、出血部位を血管造影検査で確認できれば、塞栓術止血を行い、不可能な場合は、もう一度手術を行って直接止血を行わなければなりません。

腹壁瘢痕ヘルニア

手術後の傷跡の部分は他の部分よりも圧力に弱く、腹圧によって内臓が押されて飛び出てくることがあり、この状態を腹壁瘢痕ヘルニアと呼びます。寝ているときなどは問題ありませんが、座ったり、立ったりしたときに腹圧がかかり、お腹の一部が膨らんできてしまうのです。

痛みは伴わないことが多いですが、内臓の血の循環が悪くなってしまうことがあり、必要な酸素や栄養が得られず壊死(えし:体の組織が死んでしまうこと)を引き起こしてしまうので、手術によって治療をしなければなりません。

手術創のケロイド

手術後の傷が赤く盛り上がってしまい跡が残るものをケロイドと呼びます。体質によってもできやすさが変わるのですが、手術などの傷をきっかけとしてケロイドが発生し、痛みを伴うこともあります。

治療にはトラニラスト(抗アレルギー薬・傷口をきれいにする効果を持つ)の内服やステロイドを含む塗り薬や貼り薬を用いますが、治るまでに時間がかかることが多く、数年単位の治療となります。場合によってはケロイド部分を切除して再び縫合を行うこともあります。

下肢静脈血栓症、肺塞栓症

手術中や手術後は長時間寝たままで動かないため、足の静脈内で血が固まってしまい、足に痛みが出たり、腫れたりしてしまいます。これを、下肢静脈血栓症とよびます。また足でできた血の塊が、肺などに流れていってしまうと肺の血管が詰まってしまい、呼吸困難や突然死を引きおこす事があり、これは肺塞栓症と呼ばれます。

これらは手術中に足をマッサージする装置をつけたり、手術後なるべく早く運動してもらうことによって予防することが出来ます。

開腹手術のまれな合併症(疾患別)

お腹が痛い-写真

上に挙げた合併症は開腹手術を行えば、どんな場合でも起こりえますが、中には特定の病気に特有の合併症というものも存在します。

虫垂炎(盲腸)

症状の進んだ虫垂炎の場合、おなかの中に膿がたまってしまう遺残膿瘍(いざんのうよう)というものを引き起こすことがあります。ふつうは手術後の処置で予防することができますが、もし起こってしまった場合は、再び手術をしておなかの中をきれいにする必要があります。

胃がん

胃がんの手術の際には、胃の周りのリンパ節も一緒に取り除くことがあるのですが、このことによる影響で、膵臓の表面から膵液が漏れ出してしまい、周りの組織(脂肪や血管)などを溶かして、膿瘍(膿が貯まる)や出血を起こすことがあります

基本的な対処法としては、おなかの中に管を残し、膵液などを逐一外に流す方法が用いられます。また、膵液の分泌を抑える薬物を投与することがあります。

子宮筋腫

子宮筋腫の場合、手術方法にはいくつかの種類があるのですが、子宮を温存できる筋腫核出(きんしゅかくしゅつという方法の場合、出血を抑えるための薬の使用によって、血圧低下、心停止などの合併症を引き起こすことがまれにあり、さらに手術後の妊娠では、子宮破裂などのリスクが上がることが知られています。

血圧低下や心停止に対しては、投薬などのその場での対処が行われ、子宮破裂などのリスクは帝王切開によって低下させることができます。

おわりに

開腹手術に伴う合併症には様々なものがありますが、どれもしっかりと管理、治療すれば重篤な状態に陥ることはほとんどありません。

合併症に対する正しい知識を持ち、手術にあたってしっかりと医師の説明をうけることで、手術に対する不安を少しでも抑えられるようになるのではないでしょうか。