現在日本では感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下、感染症法)により、特に対応・管理が必要とされる感染症を感染力や感染した場合の危険度から5つに分類し、対応・管理方法が定められています。中には、日本では感染が未だみられていない感染症もありますが、海外旅行の機会や、海外からの観光客が年々増加しているなか、他人事としておけない事態になるともかぎりません。危険度が極めて高いとされる感染症の一つ、クリミア・コンゴ出血熱についてみていきましょう。

目次

どんな病気?クリミア・コンゴ出血熱の症状

エボラ出血熱」という病気を耳にしたことはありませんか?映画の題材としても取り上げられていました。2014年、このエボラ出血熱が西アフリカの地域で猛威をふるったニュースを記憶されている方も多いのではないでしょうか。感染症法においてエボラ出血熱は一類感染症に分類されていますが、クリミア・コンゴ出血熱も同じ危険度に分類されています。

出血熱として共通する症状として、突然の発熱・頭痛・筋肉痛・喉の痛みといった風邪に似た症状が見られます。その後、嘔吐や下痢、重症化すると全身のさまざまな出血が起きます。致死率は15 〜40%、感染した場合の発症率は20%と推定されています国立感染症研究所より)。

何が原因となる?

クリミア・コンゴ出血熱ウイルスが原因のウイルス性の感染症です。1944~1945年、クリミア地方で旧ソ連の野外作業中の兵士の間で発生し、この病気が確認されました。はじめは発生地域の名前から「クリミア出血熱」と呼ばれましたが、1956年にコンゴで分離されたウイルスと同じものだということが明らかになったため、クリミア・コンゴ出血熱という名前がつけられました。

ウイルスの宿主となるのは、野生や家畜の哺乳動物(ウシ、ヤギ、ヒツジなど)です。鳥類ではダチョウのみ感染し、宿主になることがあります。これらの動物は宿主とはなっても発症はしません。ヒトへの感染は、宿主の吸血をしたマダニを介して起こります。

感染経路、潜伏期間は?

潜伏期間は感染ルートにより、多少の差があります。ダニに咬まれて感染した場合、潜伏期間は1日~3日であり、最長で9日間です。感染した血液や組織に接触したことで感染した場合、潜伏期間は5日から6日ですが、最長で13日という記録があります(厚生労働省検疫所 FORTHより)。

感染経路は、マダニ→ヒト、家畜→ヒト、ヒト→ヒトの3つの感染ルートがあります。

マダニからヒトへの感染

ウイルスを持ったマダニに噛まれたり、マダニを潰したりすることから感染します。

家畜からヒトへの感染

宿主となった家畜に噛まれたり、血液や体に触れることで感染します。

ヒトからヒトへの感染

感染したヒトからの感染経路は、血液や体液を介することです。この感染は、血液や体液に直接触れることで起こるものなので、感染が疑われる人に対しては、手袋や防護服を身に着けたうえで接しなければなりません。感染力は非常に強く、触れるだけでも感染する恐れがあります。

予防や治療は可能?

ヒトに対しての予防接種はなく、宿主となる動物に対するワクチンもありません。予防策として

  • 宿主に触らないこと
  • ダニに噛まれないこと

が、基本です。また発生地域では、

  • 草むらに肌を露出した状態で行かないこと
  • 虫除けスプレーを使用する
  • 定期的に衣類などをチェックして、ダニのいないことを確認する

といったこまめな行動が有効です。さらに、ヒトへの感染をまず防ぐために、感染地域の住民に対しての教育も予防の一つとされます。

感染した場合の特効薬はありません。抗ウイルス薬リバビリンは、ウイルスの増殖を抑える効果が認められたとする症例報告がありますが、効果が実証されているわけではないのが現状です。治療の基本は対症療法です。

発生地域など

渡り鳥-写真

クリミア・コンゴ出血熱は主な媒介ダニが分布する北限である北緯50度よりも南のアフリカ、バルカン半島、中東、アジアでは常在しています。マダニが媒介するという特徴から、渡航先での感染のみならず、渡り鳥に付着したマダニが遠隔地に運ばれることにより、感染が拡大する可能性も考えられています。

まとめ

1類感染症にあたる病気ですが、発生地域においては「常在している」ものとして注意喚起がされています。このような場合は身近に感じていない(=危機感の少ない)渡航者により、感染が拡大してしまう場合が少なからずあります。海外渡航が身近になっている分、行先の感染症情報には特に注意を払い、予防策を意識する必要があるのではないでしょうか。