リケッチア感染症は、年間の患者数は数百名と比較的珍しい病気です。しかし、治療が遅れると重症となるケースもあるうえ、感染の原因となるダニ、シラミ、ノミは国内で多くの地域に生息し、ほぼ1年を通して感染の恐れがあります。

リケッチア感染症は、感染すると具体的にどんな症状がでるのでしょうか?感染した場合の症状、感染経路、特に感染を注意すべき場面を中心に解説していきます。

目次

リケッチア感染症とは?どういう経路で感染する?

リケッチア感染症はリケッチアという病原体に感染する病気です。感染症予防法により4類感染症(動物を介して感染する感染症)に分類され、診断した医師は保健所への届け出が義務付けられています。

リケッチアは細菌に分類されていますが、動物の細胞に寄生しなければ仲間を増やすことができず、ダニ、シラミ、ノミなどの節足動物を媒介して感染します。人から人への感染はありません。なお、ここでいうダニは野外に生息する大型のダニで、衣類や寝具に発生するダニとは種類が違います。

リケッチアにはいくつかの種類があり、感染した場合の症状や媒介する生き物が少しずつ異なります。日本国内では次のようなものが知られています。

1.ツツガムシ病

ツツガムシ病リケッチアに感染することによって起こります。媒介するのはツツガムシと呼ばれる小さなダニで、林、草むら、河川敷などの土の中に生息しています。

2.日本紅斑熱

日本紅斑熱リケッチアへの感染が原因となります。媒介するのは、野山、畑、河川敷などに生息するマダニです。

2016年、感染報告数が過去最多に!

日本紅斑熱・ツツガムシ病 感染報告数

国立感染症研究所 感染症発生動向調査週報より)

国立感染症研究所による調査によれば、日本紅斑熱への感染が報告された件数は2016年の一年間で273件にのぼり、1999年に調査が開始されて以来最多となりました。報告者数は4月頃から増え始め、6月から9・10月ごろにかけて特に多くなります。特に昨年は、ラニーニャ現象により10月上旬頃まで暖かい時期が続いたことも、感染者数に影響しているかもしれません。

3.Q熱(コクシエラ病)

リケッチアの一種であるコクシエラ・バーネッティが原因となる病気です。オーストラリアで初めて報告された際、「原因不明の熱病(query fever)」とされたため、「Q熱」と呼ばれるようになりました。

コクシエラ・バーネッティは感染した家畜やペットの尿や糞、乳汁などに含まれます。また、感染した動物(特にネコ)の出産時に、胎盤や羊水に感染した菌による感染が多くみられます。

4.発疹チフス

シラミに住みつく発疹チフスリケッチアが原因です。シラミにさされただけでは感染しません。リケッチアはシラミの消化管細胞のなかで増殖し、細胞がやぶれてフンと一緒に排泄されます。シラミにさされた部位をかくなどして、リケッチアを含んだフンがさし傷にすりこまれることで感染します。

戦争、貧困、飢えなど衛生状態が悪いと流行する傾向があり、日本でも戦時下及び終戦後には患者がいました。しかし以降は、1957年の1例をのぞき、日本での発生はありません国立感染症研究所より)。

感染はいつどんなときに起きる?感染しやすい季節や感染に気をつけたい地域

基本的にリケッチア感染症は、農作業、庭仕事、登山やキャンプ、ゴルフなどの野外活動でリケッチアに寄生された生き物に刺されることで感染します。野外活動の機会が多い方は注意が必要な感染症といえますが、流行期感染リスクの地域差などはあるのでしょうか?

ここでは、現在も毎年感染者が発生しているツツガムシ病日本紅斑熱Q熱について解説します。

1.ツツガムシ病

ツツガムシ病は、全国では毎年300~400の患者が発生します(岡山県感染情報センターより)。春と秋に多いですが、関東から九州では秋~初冬に発生します。北海道や沖縄など一部の地域を除いて全国で発生します。

2.日本紅斑熱

日本紅斑熱は、全国では毎年100人以上の患者が発生します(岡山県感染情報センターより)。夏から初冬にかけての発生が多いですが、真冬以外は感染する可能性があります。

もともと温暖な気候の南九州~中国、四国、南関東地方での発生が多いとされてきました。しかし最近では地球温暖化の影響でマダニの生息地域が拡大していることから、東北地方でも発生しているようです。

3.Q熱

Q熱は、2000年代初頭までは年間に20~50例が報告されていましたが、近年の報告数は数例に留まっています(国立感染症研究所より)。しかし、感染源などが特定できないケースも少なくないため、その実態は明らかにされていません。

感染した場合の症状は?どんなとき病院へ行くべき?

虫刺され

1.ツツガムシ病

ツツガムシ病は、ダニにさされてから症状が出現するまで5~14潜伏期間があります。

症状は、ダニによるさし傷、39℃以上の高熱発疹が典型的で、ほとんどの患者さんに出現します。

  • さし傷(かさぶたを伴って赤く腫れる)
  • 高熱(39℃以上)
  • 発疹(体幹に出現する)

このほかだるさ頭痛リンパ節のはれなどが出現するケースもあります。

血液検査では炎症反応検査値(CRP)が上昇し、肝機能が悪化するケースもあります。治療が遅れ死亡に至った例もあるため、ダニにさされ症状が出現する場合にはすぐに医療機関を受診することが大切です。

2.日本紅斑熱

日本紅斑熱にも潜伏期間がありますが、28とツツガムシ病より短いことが特徴です。

  • さし傷(かさぶた部分がツツガムシ病に比べて小さい)
  • 高熱(39℃以上)
  • 発疹(手足に出現する)
  • 頭痛
  • だるさ

このほか関節痛、筋肉痛、手足のしびれなどが出現する場合もあります。

血液検査では、炎症反応検査値(CRP)が上昇し、肝機能が悪化するケースもあるほか、白血球数および血小板数の減少がみられます。ツツガムシ病と同様、重症の場合は死亡に至ることもあり、早期治療が重要です。

3.Q熱

Q熱の潜伏期間は2~3週間です。発症すると、以下のようにインフルエンザに似た症状がみられます。他のリケッチア症と違って、発疹はみられません。

  • 突然の高熱(40度になることも)
  • 頭痛
  • 筋肉痛
  • だるさ
  • 肝炎

基本的には、経過は良好です。2週間ほどで自然に治ることも少なくありません。ただし一部の患者さんでは、脳炎や髄膜炎などの合併症を引き起こしたり、治療の難しい慢性Q熱と呼ばれる病態に移行したりすることがあります。

「感染したかも…」と思ったときは

どの病気も、治療が遅れると重篤になるリスクがあります。さし傷を発見したとき、発熱や発疹などの症状が出現した場合には、すぐに皮膚科もしくは内科を受診することが大切です。受診の際には、ダニにさされたかもしれないこと、野外で活動したことを伝えると対応がスムーズです。

また、さし傷はみつからなくても、野外活動をした数日後に熱が出た場合にはリケッチア感染症の可能性があるので、医師の診察を受けるようにしましょう。

では、ダニにさされた直後の対応はどうしたら良いのでしょうか?

ダニはすぐに離れず皮膚に吸いついたまま吸血します。長い場合は数日間吸いついたままの場合もあります。吸血中にダニを無理に皮膚から離そうとすると、ダニの一部が皮膚内に残ってしまうケースもあります。吸血しているダニを発見したら、皮膚科で取りのぞいてもらいましょう。

まとめ

リケッチア感染症は、地域によって感染リスクが異なるものの、野外で活動する機会の多い場合に感染のリスクがあります。ダニにさされても必ず感染するわけではありませんが、治療が遅れて症状が重篤にならないよう、早めに医療機関を受診することが大切ですね。

なお受診の際には、およそ2週間以内に野外活動をしている場合にはその旨を医師に伝えるようにしましょう。刺し傷などのわかりやすい特徴が必ずあるわけではないため、診断が遅れてしまう危険があります。