猫は古くから、ネズミを捕獲するための益獣として人間とともに暮らし、ペットとして飼育されるようになってからも歴史の長い動物です。飼育頭数が減少しつつある犬と比べ、猫の飼育頭数は横ばいの状態が続いており(一般社団法人 ペットフード協会より)、根強い人気を感じます。

猫をはじめ、ペットを飼育するうえで注意しなければならないのが、動物から人間へ感染することのある人獣共通感染症です。この記事では、猫などの動物から感染する病気のひとつ、パスツレラ症について解説します。

目次

パスツレラ症とは?

パスツレラ属菌という種類の細菌の感染により起こる感染症です。日本では4種類のパスツレラ菌が確認されていますが、中でもパスツレラ・ムルトシダと呼ばれるパスツレラ属菌が原因となることが多いです。猫や犬などの口腔内常在菌で、猫の約100%、犬の約75%がこの菌を保有している(公益社団法人 千葉県獣医師会より)と考えられています。鳥・ネズミ・うさぎなどからも感染の可能性があります。

感染原因の約70%が動物との接触によるものであり(環境省より)、動物との関与が大きい感染症です。菌を持つ猫や犬に噛まれたり、引っ掻かれたりした傷口から直接感染します。また、口移しで餌をあたえる、キスする、口の周りを舐められるといった動物とのスキンシップによる経口感染のほか、過剰な接触により菌を吸い込むことによる飛沫感染も稀にみられます。

最近まではあまり知られてこなかった動物由来の感染症で、現在のところ感染症法による届け出の義務などはなく、国内での患者数の把握・予防対策などは未整備です。

感染した場合の症状

動物が感染しても、ほとんどの場合が無症状です。一方、人間に感染すると30分~2日間の潜伏期間を経て、皮膚・呼吸器に症状が現れます。

皮膚症状

傷が赤く腫れ、強い痛み、発熱を起こし、リンパ節が腫れることもあります。さらに症状が悪化し、皮膚の深いところで炎症がひろがってしまう蜂窩織炎という状態になると、皮膚が壊死したり、壊死性筋膜炎を引き起こしたりすることもあり、大変危険です。

また傷の深さによっては、関節炎・骨髄炎を起こすことがあります。お年寄りや子供、糖尿病・免疫不全の基礎疾患があるなど、抵抗力の弱い人は感染・重症化しやすく、中には敗血症などの重症な全身症状、死亡例も報告されています。

呼吸器症状

喘息、結核、悪性腫瘍といった基礎疾患をもっている方の場合、肺炎などの呼吸器症状があらわれやすく、またくり返し発症することがあります。皮膚症状の場合と同様に、基礎疾患を持っていたり高齢であったりするなど、免疫力の低下している方は注意が必要です。また、健康な方の場合でも、気管支炎、副鼻腔炎、外耳炎を発症することがあるようです。

感染の兆候が見られたら、早めの受診を

感染した場合には抗生物質が有効です。動物に噛まれる・引っ掻かれるなどして感染する病気は、パスツレラ症以外にも破傷風猫ひっかき病狂犬病などがあります。これらの感染症は、早期の受診と正しい治療により重症化を防ぐことが大切です。感染の兆候が見られた場合、動物に噛まれた・引っ掻かれた場合には、必ず早期に医療機関を受診しましょう。

感染予防、過剰な接触はNG

2匹の猫-写真

人間に対するワクチンはなく、動物の口腔内の菌を薬によって取り除くこともできません。飼育している動物との濃厚な接触は避けましょう。加えて、人間をむやみに噛むことのないよう適切な教育・訓練をすることで、パスツレラ症を含め動物からうつる可能性のある感染症のリスクを下げることができます。

動物との接触における注意点は、次のとおりです。

  • ペットを寝室に入れない、同じベッド・布団で寝ない
  • ペットとキスしない、口移しで餌を与えない、過剰なスキンシップを避ける
  • 接触したら手洗い、うがいをする
  • 噛まれたり、引っ掻かれたりしないように注意する
  • 猫の爪はこまめに切る
  • 万が一、傷を受けた場合は石鹸でよく洗う

まとめ~動物も人も快適に過ごすために~

猫は、愛くるしい見た目、しなやかな仕草、どこか人間味を感じる挙動など、愛すべき点を挙げればきりがない動物です。猫以外でも、動物が好き・動物と暮らしているという方にとって、彼らはなにものにも代えがたい存在だと思います。

しかし、彼らはやはり私たち人間とは異なる生き物です。目に入れても痛くないほどかわいい存在かもしれませんが、不適切な接触は感染症の原因となり、お互いが良い思いをしません。過剰な接触を避けること、身辺を清潔に保つことなど、けじめのある生活を心掛けることが、彼らと人間との快適な暮らしを支えます。