狂犬病とは狂犬病ウイルスに感染した犬などの動物に咬まれたり引っ掻かれたりすることによって起こる感染症です。「狂犬病になると水が怖くなる」といわれ、別名恐水症とも呼ばれる狂犬病ですが、どのようなメカニズムでこのような症状が起こる病気なのでしょうか?狂犬病の症状や発症のメカニズムについて詳しく解説します。

目次

狂犬病とは

世界の狂犬病発生状況マップ-図解
狂犬病人畜共通の感染症で、犬だけでなく、狂犬病ウイルスに感染した様々な哺乳類から感染する病気です。猫、キツネ、アライグマ、スカンク、コウモリなどからの感染が感染源となります。日本国内では1957年を最後に発症は確認されていませんが、海外渡航者が現地で感染し、帰国後発症するケースがしばしばみられています(厚生労働省より)。

厚生労働省が「狂犬病清浄地域」として指定している地域は、日本やオーストラリア、ニュージーランド、北欧の一部の国など、世界中でもごくわずかです。狂犬病は、世界中のいたるところで見られる病気なのです。

狂犬病の症状と経過

細胞-写真
狂犬病ウイルスに感染すると、ウイルスはその傷口から神経を伝って脳に侵入し脳炎を起こします。狂犬病の感染から発症までの経過は、潜伏期前駆期急性神経症状期昏睡期に分けられます。狂犬病は人畜共通の感染症ですが、経過の中で見られる症状は人を含めほぼ共通しています。

潜伏期

狂犬病は感染してから発症するまで、通常およそ1カ月~3カ月の潜伏期間があり、この期間には自覚症状はありません。潜伏期間は、咬傷(かみつかれた傷)の場所により左右される場合があり、咬傷が頭部に近い首や顔などの場合は10日前後と短く、手足など末梢神経に感染した場合には、長いものでは感染から1~2年後に発症したケースもあります。

前駆期~急性神経症状期

風邪症状発熱などで発症し、食欲不振咬まれた傷の痛みや知覚過敏があらわれ、やがて狂犬病ウイルスが神経を伝って脳に侵入すると、強い不安感興奮麻痺痙攣などの症状があらわれます。特に嚥下や発語、呼吸に関連した脳の領域が侵されるので、水分を飲もうとすると喉の筋肉が痙攣し激しい痛みがあるため、水を恐れるようになります。冷たい風にあたることでも同様の痙攣が起こるようになり、これらは恐水症恐風症として狂犬病特有の症状といわれています。

昏睡期

さらに進行すると麻痺や痙攣が全身におよび、意識障害不整脈呼吸不全となり、発症からおよそ10日間で死に至ります。

狂犬病の診断

狂犬病の診断には感染した人の唾液や脳脊髄液から狂犬病ウイルスを分離したり、皮膚生検(主に頸の皮膚の組織を直接採取して調べる方法)や角膜塗抹標本(かくまつとまつひょうほん:目の角膜の一部を採取して調べる方法)など、狂犬病の感染を明らかにする検査があります。

しかし、いずれも狂犬病を発症し、狂犬病ウイルスが脳内で増殖した後でなければ陽性(狂犬病ウイルスが存在しているという結果)にはならず、現在のところ、狂犬病を受傷直後や潜伏期間中に診断する方法はありません。

狂犬病の治療

狂犬病は、一旦発症してしまうと有効な治療方法はなくほぼ100%の人が死に至ります

海外などで動物に咬まれた場合には、その直後から連続してワクチンを接種する暴露後ワクチン接種により発症を抑えることができます。狂犬病ワクチンは、ウイルスの毒性をなくし、免疫をつけるのに必要な成分を取り出してワクチン化した不活化ワクチンで、予防のためにあらかじめ受けておく暴露前接種と同種のものを使用します。

このワクチンを受傷直後(0日)、以降3、7、14、30および90日の計6回皮下に注射します(国内標準法)。また加害動物が明らかな場合、その動物が加害以後10日以上生存していることが確認された場合は、加害動物に狂犬病の感染はないと判断されワクチン接種は中止となります。

まとめ

狂犬病は狂犬病ウイルスに感染した動物から人にも感染する病気で、発症すると治療の手立てはなく、ほぼ100%死に至る病気です。1957年以降、日本国内での発症は見られていませんが、海外ではいまだ猛威をふるい続けている病気です。