病気により腎臓の働きが悪くなると、多くの場合、人工透析という治療法を受けることになります。自己管理をしっかりしていれば、透析を受けていても元気に過ごすことができますが、一方で、透析中には様々な合併症がみられることもあります。今回はその中でも、透析導入期によく見られる不均衡症候群(ふきんこうしょうこうぐん)について解説します。

目次

不均衡症候群の主な原因は「脳のむくみ」

最も一般的に行われる血液透析では、血液を一度体外に出し、そこから老廃物や余計な水分を急激に除去して体内に戻します。このとき、まずは体内の血液が浄化され、細胞の中に入った老廃物はその後、血液中に出てきてから浄化されます。つまり、血液の中と外とで、老廃物の除去に時間差が生じるため、一時的に細胞の中と外とで老廃物の濃度に違いが生まれます。

特に脳細胞は、濃度が高くなった老廃物を薄めようとして水分を吸収します。すると、脳内の圧力(脳圧)が上昇します。つまり、脳がむくんだ状態になってしまうのです。この脳のむくみによって起こる様々な症状を不均衡症候群と呼びます(こうした脳圧の上昇に伴う症状以外に、透析中から後に出現する血圧の変動筋痙攣疲労感なども含めた症状も広義の不均衡症候群と呼ぶ場合もあります)。

不均衡症候群は、身体が透析に慣れていない導入期にしばしば起こり透析中から透析終了後にみられます。

不均衡症候群でみられる症状

不均衡症候群では、主に下記のような症状がみられます。全身的な症状と、中枢神経の症状とが現れます。

  • 頭痛
  • 吐き気
  • 嘔吐
  • 倦怠感
  • 血圧の変動
  • 手足の震え
  • 意識障害
  • けいれん

もし不均衡症候群の症状が出てしまったら

手をにぎる医師-写真
透析中に異常を感じた場合、我慢をせずに医療スタッフに声をかけてください。

症状の種類にもよりますが、程度が軽い場合には血流量を下げ、透析の速度をゆるめます。重症の場合には、脳圧を下げる薬(点滴)を使用することがあります。

不均衡症候群を予防することはできるの?

不均衡症候群は上述の通り、透析を始めたばかりの患者さんに多くみられる症状です。そのため一般的には、透析の回数を重ねると徐々に起こりにくくなってきます(ただし個人差があります)。

不均衡症候群を予防するために、下記のような方法を取ることがあります。

はじめのうちは、透析の効率を落とす

細胞の内外で濃度に差が生じるのは、血液の急激な浄化に身体がついていけないことが原因です。ですから透析を始めたばかりの頃は、浄化のスピードを遅らせ、穏やかな透析を行うようにします。透析時間や血液流量、ダイアライザーの大きさなどを調整します。

水分・塩分の制限を守る

透析が始まると、様々な食事制限を課せられます。水分や塩分、たんぱく質の制限を守ることが、緩やかな透析につながるので、これらの食事制限はきちんと守るようにしてください。

透析中の食事に関して詳しくは、「継続が大切!透析患者さんの食事管理で気をつけなければいけない4つのこと」で解説しています。

最後に

透析を始めたばかりの頃に起こりやすい合併症、不均衡症候群について解説してきました。透析は医療者だけが行えば良いものではなく、患者さん側もしっかりとした自己管理を行うことが重要です。その自己管理が、不均衡症候群の予防にもつながります。

治療を開始したばかりの頃には、頭痛や吐き気をはじめとする症状が出ることが少なくありません。無理をせずに医師と相談しながら、自分にあったスタイルで透析治療を受けていきましょう。